〔5〕 学級委員
月曜日。
みんなぴりぴりしている。
クラス換えテストがあるからだ。
そんな中、俺だけは気楽にしていた。
毎回解けないと思った問題は一問もない。
火曜日に例の場所にいったが、江津は来なかった。
こう言うと、来るのを期待してるみたいな言い方だな。気にするな。
そんな事であっという間にテスト期間は終わり、結果発表の日になった。
結果が出るのは早いもので、水曜に終わったのに、木曜日には結果が出てしまう。
終わってから一日しか経ってないのに……先生達の苦労が目に浮かぶ。
そして結果発表。
校舎の前に、いっせいに張り出される。
すでにその掲示板の前では、喜んで跳ね回っているもの。まるでこの世の終わりを想像させる落胆の表情を浮かべているもの。さまざまだ。
俺はB組の所を探してみる。
B組 58位 延暦寺 修斗 670点
我ながらぴったりだ。いとも簡単だな。
自分の名前を探している時に、ふと不吉な名前を見つけたのだが……。
俺はそれを無視して、江津の名前を探してみた。
A組 2位 桐生 江津 745点
730ぐらいとか言ってたけど……今回は調子がよかったらしい。この学校での二位はかなりいい。
さてと……俺はさきほど見つけた不吉な文字に目をやってみた。
ホントに度胸がいる。
そこにはこう書かれていた。
B組 53位 鮎河 瑠那 678点
鮎河瑠那……げっ!
あの五月蝿い奴じゃないか!
同じクラスになるわけか……
どうしよう。
大丈夫かな……この前とは姿がちがくなっているとは言え、声だけは変えることはできない。
うかつにはしゃべれないな……。
俺は瑠那を警戒しつつ、教室へと向かって行った。
うちの高校のクラスは一クラス40人編成。
その中で、このテストでクラスが変わるのは30%ぐらい。
俺はその中の一人となる。
席順は成績順。
こんな決め方だけど、男女の数はだいたい均等だ。
Bクラスの場合は、41番から廊下側の前から座っていく。
一列五人で八列だ。
あれ……そう言えば……
俺は自分の順位と瑠那の順位を照らし合わせて見る。
……まずい。
非常にまずい。
席が隣同士だ……。
願ってもない悪条件に、俺は動揺していた。
前行の言葉遣いは間違っている。そこまで動揺していた。
そして教室の前に立つと、俺は服装を念入りにチェックした。
大丈夫、大丈夫……。
俺は自分に言い聞かせ、教室の中に入った。
このクラスにも何名か俺の友達がいるが、名前を考えるのがめんどくさいし、ストーリーに関わらないからって言う理由で作者が登場させない。
まったく。俺が一人身みたいになってしまうじゃないか。断じてそんな事はないぞ。
そんな裏設定はいいとして、俺は席についた。
まだ瑠那は来てないらしい。
瑠那の席は右側だ。
瑠那が右側に来ても顔を見られないように俺はできるだけ自然に左の方を向いた。
ああ、あの掲示板がドッキリでありますように。鮎河瑠那が同姓同名の別人でありますように。
俺の心の叫びは絶対に届かない。
よりによって隣だぜ。離れたっていいじゃないか。
そもそもなんで先生がBに来る事になったんだ?
八つ当たりは見苦しいな……。
ガタッ。
隣で椅子が動く音がした。
俺は右側にいる人を盗み見た。
やっぱりあの小うるさい、先日、偶然に偶然を重ねてであった瑠那だった。
瑠那は女子の友達と話している。
俺は今にも逃げ出したい気持ちだった。
瑠那は友達との会話を終えると、自分のかばんから授業の道具を取り出している。
そしてたまに俺の方を見ている。
そりゃ、隣にいる人が明後日の方向を向いてたら気になるわな。
俺も俺で自然にができていない。
「お隣さん。おはよ」
瑠那はあの口調で俺に話しかけてくる。
無視したら余計変だよな……っていうか俺シカトできない性格だしな。
「おはよう」
俺は適当に瑠那の方を見てにこっと笑うと、すぐに視線を黒板に移した。
瑠那は俺の横顔を凝視していた。
いやな思考が頭をよぎる。
いくらメガネをしているとは言え、横顔はあまり変わらない。
ばれる可能性は高からず低からずだ。
「ねぇ。名……」
ガラガラっ。
教室の扉が開いた。
隼也先生の登場だ。
危なかった。
今の瑠那の質問は、絶対『名前は?』って質問だった。
心の奥底で安堵する。
「みんなおはよう。今日から約二ヶ月間Bクラスの担任になる隼也健次二十七歳独身。現在恋人募集中だ。綺麗なお姉さんがいる人は俺に紹介してくれ」
クラスの中で笑いが起きる。
先生はなかなか度胸あるよ。
しょっぱじめから言うか? 独身とかって事。
「それでは早速だが、今から学級委員を決める」
うちの学校の学級委員決めはかなり風変わりだ。
なんたってくじ引きで決める。
誰も平等だ。
表ではこの学校に入っている人なら誰でもやれるって言うことなんだろうが、実際は、立候補者がいないなら、初めからくじでやってしまえって事だと思う。
立候補者なんて普通はいない。いても一人。学級委員はクラス二人だ。
だから誰も文句一つ言わない。
「開けろって言うまで開けるんじゃないぞ」
そう言うと先生はくじが入った箱を手にもって、一人一人の生徒の所に回って引かせていく。
俺の前にもやってきて、箱の中に手を突っ込み、紙を一枚とった。
数分後、全員引き終わった。
「それじゃあ、開けろ」その先生の言葉が聞こえると、俺は綺麗に四つ折りにされている紙を開いた。
『はずれ』
紙にはこう書かれていた。
当たりが学級委員をやる事になるからな。
よかった。めんどくさい学級委員なんてやんなくてすんだよ。
みんなくじの結果について話しを始めている。
「どうだった?」
「俺当たっちまった。」
「え、お前もか? 俺もだよ」
「あれ? お前らも当たり? 俺も当たったよ。」
なんかおかしいぞ、この会話。
「修斗、お前はどうだった?」
俺の友達が話しかけてきた。
「はずれ……」
いつもだったら明るく話せるのに、周りの話しを聞いてると、あたりが多いような……ってことは……。
「さて、もう気づいた者もいるだろうが、このくじは、はずれが本当にはずれだ。はずれ紙を引いたものに学級委員をやってもらう」
そ、そんな! こんな時にフェイントかけないでくれ!
「さて、はずれくじを引いたのは誰だ? 正直に前に出て来てくれ」
仕方ないな……今年になって二回目だ。俺ってくじ運悪いんだろうか。
俺は立ち上がる。
その時に、俺はもう一人の学級委員を探す。
俺が立ち上がると同時に、そのもう一人の学級委員も立ち上がった。
マジで……?
俺はその光景が嘘である事を願い、教室の前に立った。
「じゃああいさつしてもらおう」先生が俺の肩をたたく。
「延暦寺修斗。できるだけがんばりたいと思います」
挨拶なんてこんなもんでいい。
先生は俺を見て、ニッと笑った。
俺が学級委員だから、よけい使い勝手がいいんだろうとでも思ってるんだろう。
ぜってー小間使いにはならん。
といっても、断れないのが俺。
俺が感傷に浸っていると、もう一人の学級委員が挨拶した。
できるだけ夢であって欲しい。
一生のお願いだ!
神様っているのかな……?
いないかな……。
いるならこの不幸な一少年を救ってくれ!
ください……。
本当に……。
ホントに……。
「鮎河瑠那です。二ヶ月間ですが、よろしくお願いいたします。」
俺が苦笑しているところに、拍手が響く。
こまった……。
十二月には、いやでも学級委員同士で残らなくちゃいけない事があるんだよな……。
さらに一月にも。
全部先生から聞いた事だがな。
事前にいろいろと先生から聞いている。
聞いてなければいろいろと気苦労をしなくて済みそうなんだが……。
さてと。
この二ヶ月間どうしたらばれないかが深刻だ。
いきあたりばったりで何とかならないかな……?
HR
修斗と瑠那の一緒にいる時間が増えます。
それに比例するかのように、
修斗と江津の一緒にいる時間も増えます。
つまり、先生の出番が減っていくわけです。
本当にそうなるかは分からないけど……。
真実はいつも一つ! 苦しい!
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