〔6〕 メガネ
いろんな意味で地獄の学級委員の、初仕事はクリーンバトルって言う行事の仕切りらしい。
先生から聞いた話しだと、つまるところ学校の校庭中の大掃除って事らしい。
それだけだったらみんなやる気がおきないと言う事で、学校は考えた。
拾ったごみの総重量が一番重いクラスに、賞金10万円が贈呈される。
その十万円はそのクラスで自由に使えるらしい。
そのおかげか、例年みんな一生懸命やる。
なかなかずるがしこい学校だ。
でもこの行事は、一月に行われる行事で、十二月にある俺の仕事は、クリーンバトルの内容決め。
ほとんど決まってるから何しろって事もないんだろうけど……。
さて、今日は学級委員に決まってから三日後の月曜日。
二日前の金曜日の昼に、例の場所に行った時に江津に教えてもらったのだが、江津も学級委員になったらしい。あと、江津は、金曜日だけ、例の場所に行っていると言っていた。また言うが、今日は月曜日。
そして放課後に、例の行事の第一回会議がある。
放課後。俺は今現在会議室にいる。
もちろん会議を行っている最中だ。
こんかいの会議は、守るべき前回の注意事項や、前回の賞品。とりあえず前年のやつはどうなっているかってのを知らせている。
そして明日あたりにその事をクラスのみんなに伝えて、意見を聞きだすんだが、あんまり変わらないと予想される。
かったるいな……。
隣には瑠那がいるし。
救いは、この行事の担当の先生は隼也先生ってことだ。
でもあれだよな……。
課題の作文どうしよっかな……。
しょうがないか、自分の知能をフルに使って、嘘ばっかり並べて文を作るしかないのかな?
ふう……
心の中でため息。
「―――と言う事ですので、皆さん各自、自分のクラスの意見を聞いてきてください」
三年のAクラス学級代表がそう言った。
あらら。
俺何にも聞いてなかった。
瑠那はメモとってるよな。
俺は瑠那の前にある紙に目を落とした。
何やってんだ!
瑠那も書いてねえ!
そろいそろって考え事か?
大体何を考えてるのかってのは予想がつく。
つけたくもないんだが……。
この会議中。何度か瑠那の視線を感じた。
たぶん、この前の男の人と、今の俺を見比べてるんだろう。
名前、両方修斗だしな……。全部変えときゃよかった。
実際は同一人物なんだけどさ。
悩むだけ悩んでくれ。
不意をつかれないかぎり、このメガネは取らせん。
「それでは、一回目の会議を終わりにします」
もう終わっちゃった。一部始終何も聞いてなかった。
登校時にでも先生に聞くか。
会議も終わり、下校する時間となった。
やっぱりここからも災難は続くわけで……。
俺の家から瑠那の家までは、約6キロ近くはなれている。
それぐらいなら別に問題ないのだがな。
帰る時に乗るバスが、一緒って事だ。
同じ方面なのだ。
俺と瑠那は会議が終わると、圓城高校前のバス停の所へ行き、バスが来るのを待った。
なるべく話し掛けないでくれよ。
しかし、いきなり俺の願った事の逆の事が起こる。
「修斗君?」
学級委員になったって事で、もう名前は知られている。
「何?」
怪しまれない程度に、簡単なセリフで返す。
「この前家にね、すんごいマブい人が来たの」
知ってます。俺ですけから。
「それでね、その人は、比叡修斗って言うんだけど……」
そう言うと、瑠那は俺の顔を覗きこむ。
「俺の顔になんかついてる?」
俺はばれないとして、もっともらしい事を言う。べただが。
「その人さ、自分の名前言うの戸惑ってたんだよね」
ギク。確かに迷ったけど……。
「だからさ、その人の名前って、本名じゃないような気がするんだよね」
ばれかけてる。
しかもほぼ確信をもっている。
もっていなかったら、こんな話、俺にしないだろう。
友達ならともかく、学校では初対面の俺にだぜ。
弱った……。
俺が今、表情を著しく変えたら、絶対ばれる。
ポーカーフェイスだ。俺のポーカーフェイスは絶対破れないぜ。
「そんな事俺に言ってどうするの?」
俺は悟られまいとして、そう言った。
自然なセリフだろう?
その台詞を聞いた後、俺の顔を凝視して、数秒後に俺の顔を見るのを止めた。
何とか切り抜けられた……と思う。
瑠那って勘よさそうだしな……。
気まずい雰囲気が流れる。
しばらくして、その空気を打ち消すかのようにバスがやってきた。
いいタイミングだよ。助かった。
俺たちはバスに乗り込んだ。
俺は座席に座った。
瑠那はちょうど俺の反対側に座った。
つまり今、距離は離れてるけど、俺と瑠那は向き合った状態に置かれているわけだ。
瑠那は俺の顔を見て、その後自分の靴のあたりに視線を落とす。
考えてるんだろうな……。俺が比叡修斗かってこと。
周りには、学校に遅くまで残っていた人や、その他の関係ない人々も乗っている。
はたから見れば、女の子が男の子をじっと見ているなんて、その人に恋心を寄せているって解釈されるんだろうけど、今の状況は絶対誰もそうは解釈しない。
今の瑠那の俺を見る目は、とてつもなく厳しい。
いいよ。そこまで俺を探さなくて。
それでも下手に瑠那から視線をはずすとやっぱり怪しいので、できるだけ視線をずらし、もし合ってしまったら、少し微笑む。そんな行動を取る事にした。
バスは少しずつ俺の降りる場所へと近づいていく。
それは第一ステージクリアへの時間でもあった。
バスで帰るとさ、一時間以上かかるんだよな。
それでも着実に時間は経っていき、後一個で降りられるって所まで来た。
その時にはほとんど人もいなくなっていた。
そのとき、ようやくバスのアナウンスで『荒川町』って言ってきた。
俺はボタンを押す。
なんだかこれも瑠那にヒントを与えたようなものかも。
「修斗君?」
もうちょっとで降りられるって所で瑠那が話し掛けてきた。
「私の事さ、瑠那って呼んでみて?」
なんでだ?
「なんで?」
思ったとおりに口にする。
「いいから。降りる時に。ね?」
「分かった」
呼ばないと余計怪しまれる。
ここでバスが止まった。
俺は立ち上がり、定期券を運転手に見せると、瑠那の方を見てこう言った。
瑠那は俺の事をじっと見ている。
ちょっと怖いな。
「じゃあな。瑠那」
俺はいいつけ通り呼び捨てで言った。
瑠那は満面の笑みを浮かべた。
笑ってれば可愛いのにね。
ばれるっていう恐怖心があると怖いんだよな。
俺はバスから降りた。
そして、瑠那はバスの窓から顔を覗かせ、俺にこう言ってきた。
「じゃあね修♪」
え……。あれ……? なんで『修斗君』じゃなくて『修』だったんだ……?
…………しまった! 俺が瑠那に最後に言った言葉……。あれは……前とおんなじセリフだ……。
瑠那……今ので絶対俺だって確信持ったな……。
本当にどうしよう……。
くそ……。
瑠那に何訊かれてもしらばっくれてやるぞ!
それと、絶対にこのメガネだけは取らせん! それだけは肝に銘じておかなくては。
HR
圓城高校。略さないようにしましょう。
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