〔15〕   最期の時

 

「死ぬ時って本当に走馬灯見えるのかなぁ?」

瑠那はへっへっへと無気味な笑いをしながら言った。

 まずい……寒さで完全におかしくなってる……。

「瑠那!しっかりしろって。寝たら死ぬぞ!」

現在気温。推定氷点下3度。なぜ分かるかって? 何となく感じでわかるんだよな。予報より低いぞ。と、それはおいといて。

「私……修にあえて楽しかったよ……」

「おいっ」

俺は瑠那の頬を二、三回叩いた。そうすると、瑠那は何かに気づいたようにはっとした。

「っ! ……危なかった……」

瑠那は安堵のため息をついた。

「今さ……三途の川で修が手を振ってたよ……」

「俺か?」

なぜに?

「うん」

瑠那は俺に擦り寄ってきた。といっても、もう擦り寄えるほどのスペースはない。

 ……それでも寒い……。

 本当に氣を抜いたら逝っちゃいそうだよ……。

「修?」

「なんだ?」

「私って、綺麗?」

「何訊いてんだよ。こんな状況下で」

「だってさ……もう明日がないかもしれないのに……何も残せずに死ぬってやじゃん?」

 死ぬって今は結構深刻な問題なんですけど……。

「水があれば少しは楽になるのにな」

飲食物が何もない。こんな事初めての体験。

「話しそらすな」

 答えづらいから、そらしたのにな……。

  だってよ……いきなり答えられるもんか?

 四択

 @綺麗と言う。 A普通と言う。 Bブサイクと言う。 C徹底的にそらす。

 ……Bはおすすめできないな……

 って言うか、何自問自答にミリ○ネア使ってんだ俺!?

 ここは…………かなぁ?

 ファイナルアンサー?(み○さん風)

 ファイナルアンサー…………

「綺麗だよ」

これが一番場を和ませるのにはいいよな……。

「無理して言わなくてもいいよ」

 だったら訊くな! 心の中で叫ぶ。

 でも……瑠那って……結構綺麗かもな……。夕日にあたってる瑠那とかさ……あれだったら素直に綺麗って言えるかも……。

 今、瑠那が綺麗に思えるのは、ただの種族維持本能だな。

 自分が命の危機に瀕すると、本能的に子孫を残そうとするやつだ。

 そうそう。そうに違いない。……はず。

「……寒いよ……」

瑠那が呟いた。もうお互いにがたがた言っている。全身に何か不吉な悪寒が走り、体の芯まで凍っていそうだった。

「寒さを笑いで吹き飛ばすか?」

俺は渇いた笑いをあげながら言った。

「ははは……笑ってる間に逝っちゃうかもよ……」

「それだけは避けたいな……」

 会話も途切れる。

 途切れるのは別にかまわない。

 ただ、話してないと、そのまま眠っちゃいそうで……

 あ、やっぱ途切れるの駄目なんじゃん。

 動でもいい話題ふるか。

「なあ瑠那、秀二ってさ、どんな性格?」

ホントどうでもいいな。

「秀二? あれもあれで姉の言うこときかないし、うるさいうるさい」

「弟はきついよな。まったく言う事きいてくれないからな」

 また途切れる。寒い……。

「瑠那の誕生日っていつ?」

「プレゼントでもくれるの?」

「……いや……じゃあ教えてくれなくていい」

「だめ、教えるからちょうだい」

「………………さっきの話はきかなかった事にしてくれ」

「五月十一日ね」

 聴いてしまった!無抵抗に……。

「修は?」

「七月一日」

「じゃあさ、その日に私をプレゼントしてあげようか?」

 どこのバカップルでも吐かないと思うなそのセリフは。

「そういうのは彼氏に言ってやれ」

「じゃあ、修が彼氏になってよ」

 ………………………………………………………………?

 香甲斐に言われたんだけどさぁ、やっぱ俺って鈍い?

 でもさすがにこの瑠那の発言の意図は理解できるけど……な。

「…………」

言葉が出ない。

 簡単だろ?

 ごめんなさいとか言うの。

 もう慣れてるだろ? 中学の時再三告白されて、そのたびにふって……。

 ……だからこれは種族維持本能で……一段落した後に絶対別れるのがオチなんだよ……。

「瑠那?」

俺はゆっくりとした口調で話し出した。

「……」

返事がない。

「瑠那!?」

さっきより少し強い口調で呼んだ。

 それでも返事はなかった。

 ……寝てる?

「おい、瑠那! 起きろ!」

俺は慌てて瑠那の体を揺さぶった。

「……もうなんか眠い……」

瑠那が呟いた。

 それはまずいだろ! くそ。俺もきついんだよこの状況は。

 俺は瑠那をぎゅっと抱きしめた。

「寝るなよ」

俺は瑠那に言いかけた。

 俺も本当にお互いの温もりだけが頼りになっている。服など関係ないように思えてくる。死ぬ……。どうやって……夜を越せばいいんだ……?

「もし助かったら、ちゃんとプレゼント渡すから」

「……本当?」

いつもだったら飛び跳ねて喜びそうだが、その余裕もないらしい。

「約束するから……寝るなよ」

「……分かった……」

 この後、ジャンプしてみたり、体を動かす運動をしてみた。だが、寒さで冷え切った体には、まったくと言っていいほど意味がなく、ただ疲れただけで終わってしまった。

 夜を越せたら、ちょっとだけやってみたいことがある。

 ……失敗する可能性のほうが高いけどな。

 俺は寒さで凍えきった体に負けないように、瑠那と一緒に耐えていた。

 

  数時間が経過した。

 満月が穴の中から見える。

 今宵は快晴。冷たい月の光が、俺たちを照らしていた。

 久しぶりに光にあたったように思える。

 今は真夜中の十二時。

 ……寒さの最頂点だ。

 いつ寝てもおかしくないこの状況。

 一人だったら、確実に逝っているだろう。

 隣に瑠那がいても逝きそうだけどな。

 体力に自信があるとはいえ、自然には勝てない。

 もう何も喋る気すらしない。

 手の感覚が消え始めたよ。

なぁ瑠那?」

死にそうな声で俺が呼んだ。

?」

瑠那の声も死にそうだった。

二人とも忍耐があるね。

尋常な根性だったら、もうあきらめてるだろう。

「レスキュー隊とか出動してると思う?」

「……修のうちが呼んでるんじゃない?」

瑠那は乾いた笑みを浮かべた。自然に笑えない。

「ははは……俺って結構箱入り息子だからな」

「それなのによく運動神経よくなったね」

「ホントだよな……庭で駆け回ってたからかな?」

「私死んだらまた修と遭えるかな……」

「さあな。……その前に死ぬ事は考えるな。ポジティブに行こう……」

すべての会話の声も震えている。

「せめて……毛布とかあれば……」

瑠那が呟いた。

「あったって無駄だろ。こんな寒さじゃ多分役に立たないぞ」

「あるだけマシなんじゃない?」

「そうかもな……」

喋るごとに空気中に白い塊ができて、長い間留まった後、ゆっくりと消えていく。

………………なんでもいい。暖かくなるものが欲しい。

俺は瑠那を抱きしめたままだが……まったく暖かくない。

手先には、もう感覚が失っている。気を抜けば、手先がどっかに飛んでいってしまいそうだ。

……地盤さえ緩くなければ……。

俺が学級委員にならなければ……。

隼先がBクラスの担任にならなければ……。

……責任転嫁は見苦しいな……。

もう駄目かな?

ははは……やり残した事……なんかあったかな……。

なんかどうでもよくなってきた……。

寝ようかな……

「瑠那……もう俺寝ていいか?」

俺は冗談交じりでいった。そして、瑠那は重い口を開いた。

「……いいんじゃない……もう……私も疲れちゃった……」

ひどく重い言葉だった。  

寝ると言う事は、自分の命を放棄する事。

……でもそれもいいかもしれないな……。

一番楽だ……。

でもさ……人間生きてるんだから何かしら価値があるんだろうな……。

間違ってるよな……。

人間平等とかほざいて、結局は下克上。

男女が平等とか言って、結局は差別がある。

平等なんて、ただの飾りに過ぎない。

ただ掲げているだけで、平等になっていると勘違いしてるんだろうな……。

貧富の差はあり、国籍の違い、肌の違いで結局差別される。

日本国憲法なんて、上にいるだけで、あんまり下を監視してないんだろうな……。

……死ぬ間際になると、なーんだか哲学的ですね…………。

もう駄目だ……まぶたが言うことをきいてくれない……。

瑠那は、俺に完全に体重を預けてきた……。

もう俺も……。

倒れそうになり、俺はがけから出ていた根っこを、おもむろにつかんだ。

だが……力つき……倒れた。

 

     HR

 

            はい、主人公が死んでパーフェクト終了。

      って事はことさらないので、

      さぁあて、次回のパーフェクトは(サ○エさん風)

 

      修斗と瑠那、天国に逝く

            江津、悲観のあまり自殺する

            三人、天界から栄美、秀二、香甲斐の三角関係を見学す

            の三本です。

            次回もまた看て下さいね。(看て誤字ではありません。つまり、この話を、看護していて欲しいと……。)

じゃんけん……

      『チョキ』 うふふふふ

 

      ……はい、真っ赤な嘘です。ただのあほだな……俺.

      ちゃんと普通に続きます。

 

 

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