〔16〕 博打
あったかい……。
あれ……どうなったんだっけな……。
確か……確か……
あっ……ここは天国とか?
ははは……短い人生だった……。
体に圧迫感があるよ……。
天国って普通浮遊感とかじゃないか?
なーんてそんな非現実的な事あるわけないじゃないか。
ていうか……主人公死ぬのが根本的に間違ってるよな……。
あれ……自分の鼓動が聞こえる……。ってことは……?
死んでないのか……?それもそれで非現実的だな。
俺は天運にすべてを任してるんで、何があろうと知ったこっちゃないけどな……。
「!?」
俺は飛び起きて周りを見渡した。
あれ……死んでない?
所変わらず穴の中。たぶん朝日が出ていて、微量だが光が穴の中に入り込んできている。
そして、俺は自分を見てみた。俺の上には、大量の土がかかっていた。
そうか……保温効果で……。土は結構暖かかったからな。夜、けつだけは寒くなかったんだ。
えーと……俺が根っこを引っ張った事により、穴の壁が崩れた。
そんなところかな?よく顔だけはかかってなかったな……。
って事は、瑠那も生きてるのか?
俺は隣を急いで見た。
いた……。
俺は口の前に手をもっていく。
息をしている。
「瑠那」
俺は隣にいた瑠那を揺さぶった。
「ん……」
少し体を動かした。そして、目をうっすらと開けた。ボーっとしている。
「ここは天国でしょうか……?」
ボケてる……。
「あはは……修もいっしょに逝ったもんね……」
俺を見ながら言った。
「瑠那! 生きてるから」
また瑠那の体を揺さぶる。
「……生きてる……?」
「生きてるよ」
「そうか……あの世でも生きられるんだ……」
いや、どんな解釈のしかたをしたんだ?
「おい。瑠那」
今度は大きく揺さぶった。
「神の声が……。」
まだボケてる……。
「瑠那!」
俺は大声で叫んだ。穴の中で声が反響する。
瑠那は驚いて飛び起きた。
そして、目をぱちくりさせながら辺りを見渡して、最後に俺を見た。
「生きてる!?」
「さっきから言ってたんだけどね……」
俺はため息をついた。
「わーい生きてた生きてた」
瑠那は俺に飛びついてきた。
俺はそんな瑠那を無視しながら時計を見た。
10時……朝日ではなかったか。今の気温は六、七度ってところだろう。夜の気温から比べたらかなり暖かく感じる。
俺と瑠那は生きている実感を確かめながら立ち上がり、土を払い落とした。そして、朝の運動の為に、その土を踏み均した。
そして、またヘタンと座り込む。
今思えば、水も飲んでないんだよな……。食料がないのはまだ許せるが、水はきつい。
「のど乾いたよね……」
瑠那が俺の思っていたことを口にした。
なんだか生きていたら生きていたらで悲しくなってきた。レスキュー隊が呼ばれているならまだしも、一日二日じゃ警察どまりだろう。その二日目に多分俺らは逝く。昨日見たニュースで、明日はかなり寒いとほざいてた。昨日より寒いとは……土かぶって寝ても駄目だな、そしたら。
「修……。生きてたのは良いけど……生き地獄だよ?」
「そうだな……こんな穴ん中に閉じ込められて――」
「誰かがなまごみ捨てに来たらきついもんね」
「それだったら逆に嬉しいだろう?」
「えーっ! なまごみ臭くなるのは嫌だなぁ」
「いや、人が来れば助かるって意味で嬉しいっていったんだけど……」
「なるほど」
なるほどっておい。疲れて頭が混乱しているんだろうな。
「瑠那。大丈夫か?」
よく見ればやつれてるもんな……。
「うー……ボチボチ」
駄目ととります。
「何かして欲しい事ないか?」
言ってから気づく。何もすることがないじゃないか。だから困ってんのにな。
「じゃあ……」
瑠那が考え込んだ。そして出した答え。
「じゃあ、ギューって抱きしめて。いつも私からだから、たまには修からって……駄目?」
俺は今相当嫌そうな顔をしているに違いない。最後の『駄目?』って言葉、かなり俺の様子をうかがっていた。
でもすることもないし……。
「しょうがないな……」
俺はため息混じりにそう言うと、瑠那の手を引いた。
「わっ」
瑠那はいきなりの事で驚いていた。そして、俺の方に倒れてくる。
俺は、瑠那の頭を包み込むように抱いてやる。
はぁ……何やってんだか俺……。
「暖かい……」
瑠那がボソッと呟いた。
ていうか……この状況って端から見ればすごい状況な訳だ。
あれだろ、穴の中、つまり密室で男女が二人っきり……
…………………………………………………………………………………!!
考えるのはよしましょう。
でも……瑠那って女の子なんだよな……。いまさらだけど。
ちょっと土がついてるけど……やわらかいし……暖かいし……髪さらさらしてるし…………。
だから考えるなって言ってんだろ! 俺の脳みそ!
俺の顔は火照っているし、心拍数が著しく上昇。
瑠那の顔は俺の胸の位置にある。聞こえてそうで嫌だ。この態勢崩して良いでしょうか。この状態が嫌ってわけではないんですけど……。
本当に俺の女嫌いは緩和されたかもしれない。緩和だぞ緩和。直ったんじゃないからな。
「修……もっと強くギューってして……寒い……」
俺は無言で抱きしめをきつくした。
なんか瑠那の事可愛いと思うのは、種族維持本能が働いているんだろうが……本当だろうか……。なんかホント可愛い。女にこんなに興味持ったのは初めてかもしれない。そりゃあ男だし、女体には興味あるけど、特定の女性に興味を持ったのは、初だな……。
やめろ俺の脳みそ! 止まれ!
俺はぱっと瑠那を放した。
「どうしたの?」
怪訝そうに俺の顔を見つめる瑠那。
「うわー、顔まっかっか」
瑠那は驚き、俺の顔を凝視した後、また俺に飛びついてきた。
「まだ寒いの〜」
甘えてくる。
「やめてくれ……」
俺は搾り出すように言った。
「何で?」
「……恥ずかしい……」
俺はぼそっと呟く。本音だ。
「うわー。初めてそんなセリフ聞いた」
と瑠那は言いつつ、俺への抱きつきをきつくしてきた。
「だろうな。……なんか今日は駄目だ」
そう、何かが駄目なんだ。そう自分に言い聞かす。
そりゃあ、いま穴の中に隔離されている時点で駄目だけどな。
それ以外にも駄目なんだよ。うんうん。無理な自己完結で終わらす。
「何が?」
瑠那が訊いて来た。
今自己完結したんだ。訊かないでくれ。
とは口に出しても変人に見られるだけなので、
「いろいろと」
投げやりに答える。
「具体的に。じゃないともっときつくするよ」
痛いなぁ……。いろんな意味で。
「さーて……今何時だ」
俺は話しをそらした。答えられないからな。
腕時計を見ようとする…………見れない。瑠那はいま、俺の左から俺を抱いているわけさ。で、もちろん右利きなので、腕時計は左腕。
「ちょっと離れてくれる?」
腕を持ち上げようとも瑠那が邪魔だ。
「やだ」
即答だった。
「答えてくれなかったじゃん」
なーるほど……
そうじゃねぇ!
「じゃあ、今何時か教えてくれないですか?」
なぜに敬語なんでしょうか俺は。
「うーんと……十二時チョイ過ぎだよ」
そうか……何!?
俺は立ち上が……れない。
俺は瑠那を抱えて無理やり立ち上がった。
「何々?」
瑠那は驚いて俺のほうを見ていた。
俺は気にせずに上を見上げて耳を澄ましてみる。
この時間帯。昼食の時間なのだ。つまり、生徒がここにやってくるかもしれない。だけど……ごみ状況を見る限り、ここら辺には食べに来ないよな……。だが、近くにきているかもしれない。
「誰かいませんかー!?」
俺は大声で叫ぶ。
返答はない。
瑠那はようやく俺が何をしたいか把握したようだ。
「誰かいるんだったら返事しろ!」
瑠那も叫ぶ。罵声だな。
……十分間叫びつづけた。
まったく返答がない。
二人ともぜーはー言っている。
また二人とも座り込んだ。
もう無理っぽいな。この時間帯にいなかったら、もう来るやつはいないだろう。
それより、穴の中だ。声は反響せずに吸収され、声は響かない。近くにいるかもしれないが、聞こえない可能性もある。
「なあ瑠那?」
「何?」
「今日って金曜だよな」
「うん」
って事は……江津が湖に来ている頃か……。
関係ねぇ!
今日は俺は欠席扱いかな……?
いやこれも関係ねぇ!
「金曜。そして明日、明後日と休みだ」
「うんうん」
「つまり、今日が勝負だろ?」
「……そうだね」
いくら行方不明届出したって、学校にいるとは誰も思わないだろう。確実に。
「で」
俺は、制服、ブレザーを脱ぎだした。
「○×▼!?」ひどく驚く瑠那。そして顔を赤める。
「あの……脱ぐの上だけだから、あっち系のことはしないから大丈夫」
襲ったりするのは、この小説の柄じゃないしな。
そして、脱ぎ終わると、説明を始めた。
あー寒。
「これを燃やす」
説明みじか!
「……なぜに?」
こういう反応をしてくれると説明する側としては助かる。
「ブレザーには、ウールとポリエステルが使われてるだろ。だから、燃やせば黒い煙が発生する。そうすれば、誰かそれを見つけるかと」
「まってよ。燃やせば、ここ空間狭いから……」
心配そうに呟く。
俺はニッと瑠那に微笑みかけた。
「今日は昨日より寒いし、水もないし……相当運が良くなきゃ生きられないだろ?だったら、今博打して、生きるか死ぬか。……面白いじゃん」
もう、俺の脳みそは相当疲労していると思う。まだ一日目だが、もうなんかどうでも良いって感じです。どうせ水なしじゃ、大して生きられない。ましてや寒さが厳しい。
といっても、今の俺は相当疲れてると思う。生きるか死ぬかの大博打。こんな簡単に話せるものではない。
「そっか……やってみるのも面白いんじゃない? 買った」
瑠那も気楽に言い返す。
「よし売った。……ってそんな軽くていいのか?」
「うーん……どうせこのままでも危なそうだし……。それに」
瑠那が俺に飛びつく。
「一緒に死ねるなんて運命っぽいじゃん。」
うわ、めちゃ気楽。
でも、今はそんなの関係ないな。
「上だけじゃ絶対足りないよな……」
俺の上だけじゃ、そこまで大きな煙は出ない。ともすれば……瑠那の上だろ……。下はさすがに不可能か。
「あ,私のも使う? 下も使うの?えーそしたら修に操をささ―――」
「察してくれたのはありがたいが、その気はまったくないんであしからず」
※注意書き。この小説は純愛をモットーとしております。
誰にともなく、なんとなく注意書きを述べる。
「とりあえず……上だけ貸して……いや、頂戴」
「なーんだ……はい」
なんだかつまんなそうに呟く。
そして、俺はワイシャツ。瑠那はブラウスになる。
なんだか不思議な気持ち。
死ぬ直前かもしれないのになんだか気持ちは落ち着いている。
俺は、穴の端の方に服を置いた。
「瑠那、端に寄って」
瑠那は俺の通り移動しる。
こんなところで燃やしたら、危険な事になるのは分かっている。有毒ガスは出ないとしても、ほぼ密室に近いこの穴の中じゃ、酸欠になる可能性が高い。その前に一酸化炭素中毒か……。
制服二着を燃やすぐらいじゃ危険じゃないと思うんだが……体力が問題だな。
夜寒かったせいで、体がうまいように働かない。
ま、迷っていてもしょうがないけどね。
ライターを取り出す。
さてと、焼きますか。
ライターに火を灯す。
そして、それを制服にゆっくりと近づけ、点火した。
急いで離れ、瑠那の隣に来る。
「口布で押さえて、地面に伏せろ」
制服にともされた火は、時間と共に火の勢いを増す。黒い煙も立ち込めていく。
俺と瑠那は激しくむせる。
くそ……思ったより煙の回りが速い。一瞬にして景色は暗闇に変わり、呼吸するのがつらくなってきた。
黒い煙は、俺らの体力を削り取るのに充分なほど穴の中に充満していく。
駄目かな……もう……。
この煙を誰か見つけてくれれば、軽い一酸化中毒で済むと思うんだけどな……。
やべぇ……意識がもうろうと……してき…………た…………―――
次の日らしかった。
俺らは病院で寝ていた。
運がいい。
誰かは無謀だとか言ってたけど、しょうがない最善の処置とか言うものもいた。危険だった事には変わりはない。親などにこっぴどく叱られた。
煙をどこぞやの先生が見つけてくれたおかげで、何とか生きていたって所だ。
あー……しにゃあよかった……。助かってからなんだが……。
数人の生徒に……素顔がばれた。
性格には男子14人女子9人か……。
何とか隼先がいろいろと口止めしてくれたらしい。自分のためかな?
はぁ……同じクラスの人はいなかったからまだしも……。
ここが発信源にならない事を祈ろう。
あれ? ……クリーンバトル、退院した次の日だな。
HR
終わり方、今回きつかった。無理やりになったかな。
荒行を達成。
なんと、落とし穴に落としてから脱出方法を考えたんです。(どどん)
よくライターを修斗に渡したもんだ……。
よくやった隼先!(笑)
ま、数人にばれた事は、後々何かにつながるという事で。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||