私には昔、大きな疑問があった。

『なぜ、突然聖剣は消えたのだろう』

 

 

 

 

初話

 

 

 

 

 人間と魔者が住まう大陸。大陸の中心で生活を分かつ二つの種族は、数万年も昔から領土をめぐる争いを続けていた。互いに奪い奪い返し、拮抗した実力の中、しかしその中で突出した力が双方に備えられていた。

―――  蒼剣フェルズアーク  ―――

―――  焔剣リゼルバイト  ―――

この二つの剣は、相対にして最強、持つ者に巨大なる力を与える聖剣。この二つの剣が戦いを長期化させた原因であった。

 蒼剣は人間の王の手に、焔剣は魔者の王の手に渡っていた。剣の力は壮絶なものだった。

剣が一度振るわれれば大気が唸り、二度揮われれば大地が裂け、三度揮われれば総てを凌駕し尽くすと言う。

あまりの力の大きさに、二つの種族は暗黙の内に一つの取り決めをした。

 剣を行使するのは、剣に対する時のみ。剣と剣で争い、その勝者が両剣を手に取り、大陸を総べることができる、と。

 剣と剣は幾度となくぶつかり合ってきた。その争いは戦いの地に大きな傷跡を残す。その戦いを見た者はまさに神同士の戦いだと後に告げた。だが絶大なる力は等しきものであり、勝敗がつくことはなかった。

 そんな均衡状態が続いたある時、転機が訪れた。二つの剣が鞘ごと、忽然と双方の手元から消えたのである。

 数千年前の事。突然の剣の消滅。盗まれた痕跡もなければ、どこかに置き忘れたなんて事はありえない。両種族の王は焦った。剣が無いということは、王としての資格がないともはや同じ事であった。それほどまでに剣の影響力は絶大だった。王は仮の王となり、国民に告げた。

 剣を見つけ携えてきたものを、王とする―――。

 全国民による捜索活動は何十年にも渡った。その努力は報われず、剣が見つかる気配は一向になかった。偽物を本物だと言い張るものもいた。偽の情報を売りつけ儲けるものもいた。初めのうちは熱中していた聖剣探し、長い歳月が経ち、剣が見つからず、探す人も減少し、もはや完全にないものなのかと諦めかけた。時は流れ伝説になろうとしていた……。

 剣は無くとも、双方の種族は相変わらず争いを続けていた。剣がなくてもやはり双方の力は拮抗していて、勝負はつきそうにない。

 そんなときだった。まさに青天の霹靂だった。魔者の民の一人が剣を見つけた。弱冠17歳の魔者が焔剣を見つけたのだ。その若者は魔王となって世界に君臨した。焔剣の力は凄まじく、若き王ながら政に関しても熟練の手腕を見せた。人間は恐れた。魔者が剣を持っているのならば、人間が滅ぼされるのは時間の問題。剣と剣で争うなんて昔の取り決め、今なら一方的な支配が可能になる。人間は躍起になって剣を探し始めた。しかし見つからない、これで人間は魔者に屈することになるのかと、絶望していた。

 しかしこの若き魔王は血生臭いことが嫌いだった。人間を支配するとか奴隷にするとかが嫌いだった。領土を奪い我が物にするなんて大嫌いだった。いくら周りの者が剣の行使を勧めても、魔王は拒否した。それは五年以上続いた。

 こんな日々が続き、魔王はすべてが嫌になってきた。魔王が人間に攻撃を行うことがなくても、人間は魔王に攻撃してくる。仕方がないので魔王は一人戦場に出かけ、人間を一人も殺すことなく撤退させる。この張り合いのない生活、どこにいても血生臭い話が聞こえてくる、うるさい権謀術数が周りから聞こえてくる、為にならない会議も毎日開かれる。

ついに魔王は耐え切れなくなり、お城を飛び出してしまった。

 魔王は考えた。人間も蒼剣を持てばいい。魔者からすれば敵、人間からすれば勇者を、自らが探して鍛え上げ、蒼剣を手にすれば、自分と劣らぬ力を持つことになる。

 そして、そうすれば――――。

 魔王は一人の人間を探し出す事にした。

 魔王は人間の街へと繰り出した。魔者と人間に容姿の差はまったくない。双方の違いは、なぜか生まれた時からついている、二の腕――魔者は右腕、人間は左腕のアザのみだ。それを隠しさえすれば、気付かれることは絶対にありえない。

 そして探すこと一年、魔王はついに技量良し(かなりおまけ)、志良し(お金のためだったけど)、性格良し(好み)、容姿良し(かなり好み)、性別女(元からの狙い)の人間を見つけだした。

 魔王(♂)フェリク=M=アシェイドは、蒼剣を探す勇者(♀)クイ=シェイドを自らの伴侶にする……いや、真の勇者にするため旅を供にしている、と言うことだ。

 

 

 

 

「クイ、今日はどうするの?」

「何度も言ってるけどね、私は別にあんたにどうするか話す必要は無いの」

 怒りながら、街道をズンズンと前を進んで行くクイ。肩まで伸びている紺青色の髪を揺らしながら足早に歩いている。その後ろをフェリクが追いかける形でついていく。クイには早歩きだろうが、身長差があり歩幅が違うため、フェリクには難の無いスピードだ。

「そのセリフ久しぶりに聞いた……。そっか、久々に実行した夜這が失敗したからイライラしてるんだ」

「違う。それに夜這いじゃない」

 青い髪のクイに対し、フェリクの髪は臙脂。赤い色の髪は少し長めだ。

 相変わらず歩みの速いクイの横にフェリクは並んだ。フェリクは左腰に帯剣しているので、自然と左側を歩くことになる。

「それにしてもクイは上達したよね。気配の消しかたとか間合いの取り方とか、初めの方に比べたら遥かによくなってるよ」

「ほんとっ?」

 クイは立ち止まり、嬉々とした表情で振り返ってしまった。フェリクがにっこりと微笑んでいることに気付いてはっとすると、クイは急いで眉根を寄せる。

「お世辞には引っかからないんだからね」

 また歩き出したクイ、フェリクはクスクスと笑いながらそれに続く。

「やっぱり、クイは可愛いね」

 前から石が飛んできたので、フェリクは難なくそれをかわした。

「で、今日はどうするの?」

 相変わらずのん気に訊ねてくるので、クイは不満ながらも、今日の予定を話す事にした。

「昨日受けた依頼を解決しに行くの」

「どんな依頼?」

「どんなって、一応フェリクも聞いてたでしょ?」

 昨日の記憶を辿ってみる。

「……ああ、あの時か」

 そう言えば昨日、町の長らしき人の家に二人で行った事を思い出した。危険な依頼なので、報酬はいくらか高いが請負人がつかなかったという。

「じゃ、フェリクも解かるでしょ?」

「いや」

 フェリクはかぶりを振った。

「長の息子がクイに色目使ってたから、そいつを睨んでたこと以外で何も覚えてないよ」

「何やってんの!」

「だから、俺のもんに何色目使ってんだ、ってガンつけてたんだって」

「そう言う意味じゃなくてっ、それに私はあんたのものじゃない!」

 えー、と文句を言うフェリクを無視して、クイは目的地、街の外の森を指差した。

「依頼内容は、キコの森に住んでいる魔獣を操る魔者の討伐、だよ」

 

 

 二人は町の隣にあるキコの森に進入していた。魔獣を操る魔者は森の奥深くに住んでいるため、まだまだ到達までに時間はかかるが、すでに道のりの半分を踏破していた。

 魔獣とは獰猛な動物一般のことを指し、人では太刀打ちできない力を持つものを特にそう呼ぶ。普段は誰も寄り付かないような場所に生息していて、よほどの事がない限り町を襲うことはない。

 しかし最近、魔獣が頻繁に町に現れるようになっているのだ。週に一回のペースで人家を破壊し、人を襲い食糧を奪っていく。死傷者の数は十数人にのぼっていた。

 魔獣がどこに住んでいるか調べた結果、一人の魔者と一緒にいる所を発見したのだ。魔獣を人間の敵である魔者が操り人間の町の近くに住んでいる、民はそれを知って不安な日々を過ごしていた。

民の不安を取り除くため、早急に討伐を願う。それが依頼内容だ。

 森に入った頃は整然としていた木々も、奥になってくると倒木も多く煩雑になってくる。クイを先頭に、進路妨害している枝やつたを切り裂きながら、二人は前へと進んでいた。

「クイ、もう一度依頼書見せて?」

「また? さっきから何度も見てるけど、何か気になる点があるの?」

「気になるというか、腑に落ちない点があってね」

「腑に落ちないって……ひゃっ」

 腐っていた倒木を踏んで越えようとしたら、すべってバランスを崩した。後ろに転倒しそうになったが丁度フェリクが真後ろにいたので、クイを抱きとめる。

「ん、いいにおい」

「変態!」

 クイは顔を赤くしながら慌ててフェリクから離れた。いったん距離を取った後、クイは先ほどの疑問をぶつける。

「腑に落ちないって、どういうこと?」

「クイは、おかしいと思わない?」

「別に……危険だから討伐って、おかしくないでしょ? それに人間の敵の魔者が操ってるんだもん」

「確かに、危険だから討伐するってのは、俺もおかしくないと思うよ。でも……」フェリクはいつに無く真剣な表情になる。「魔者が魔獣を操るなんて、俺は聞いた事がないよ」

「そう……なの?」

「同じ『魔』がつくと言っても、魔獣は魔者にとっても天敵。操れるなんて、信じられないけど……」

「でも手配書にはそう書いてあるよ?」

「うーん、そこなんだよねぇ……」

「とりあえず行ってみようよ。百聞は一見にしかずって言うしね」

 と、歩き出そうとした瞬間に、木の根っこにつまづいて、クイは前方にぶっとんだ。フェリクはやれやれと肩をすくめた。

「クイはまず、先のことより足元を見ていた方が良さそうだね」

 

 

 さらに数時間鬱蒼と茂った森を進んでいくと、前方に開けた場所が見えた。二人はその手前まで近寄り、木陰に身を隠しあたりを見渡す。日も傾いてきたので、目を懲らさないと奥まで確認できない。

「ここ、だよね?」

「俺に聞かれても。クイしか知らないよ」

 それもそうだ。情報はクイしか覚えていない。

「依頼人によると、ここだって話だよ、多分」

 北に向かって森を突き進み、少し開けた場所の小屋に魔者は住んでいる。依頼主はそう言っていし、依頼書にもそう書いてある。

 中央には小さな木造の小屋があった。昔猟人でも住んでいたのだろう、ただし今はもうぼろぼろの小屋である。窓は破れドアはすでに無い。今の時期、寒くなることは無いだろうが、住むには少々難がある。

「あの小屋に住んでるの?」

「そうみたい、だけど……」

 フェリクの問いにクイは自信なさげに答える。誰かがいる気配が全くない。本当にここなのかが怪しくなってきた。迷子と言う可能性だってあるし、山で遭難したと言う前例があるので不安になってくる。

 あの時は辛かった。依頼内容の盗賊討伐は遂行したのだが、なんと地図を無くし帰り道が解からなくなってしまったのだ。フェリクが何とか食糧を確保してくれたもの十分な量ではなく、水もろくに無く、一週間も山をさまよい、その後何とか帰還。クイは精神的にもまいっていたがフェリクは思ったよりぴんぴんしていた。『クイがいたしね』とのたまっていた。食糧だってクイの方が少し多く食べていたのに。フェリクのタフさには驚いたが、クイにはもうこりごりである。

「とりあえず行ってみようよ」

 フェリクの言葉に従い、クイは森から出る。少しばかりあたりを見渡してから、小屋へと向かった。

 フェリクも後ろからついてくるが、「クーイっ」っと、突然抱きついてくる。

「こら、何して……」

 ぐいと、フェリクはクイを抱き締めたまま後ろに倒れた。瞬間、二人の上を黒い影が通り過ぎていく。大きな牙に、鋭い爪、ギンと光った瞳がクイには見えた。

 クイは何が起こったか解からず目をぱちくりさせているが、フェリクの表情はすでに厳しいものになっていた。

 二人は立ち上がる。突然森から出てきて二人を襲った影は、じっとこちらを睨みつけている。

「魔獣!?」

「みたいだね」

 黒豹に近い体つき。しかし足の筋肉が異常といえるまでに発達し、鉄さえも引き裂けそうな黒い爪が備え付けてある。面妖な表情に牙を携え、鋭い目つきでこちらを牽制している。

「クイ、魔獣討伐も依頼に含まれてるの?」

「え、それは解からないけど……」

 二人の会話が終わる前に魔獣は跳躍した。10メートルの距離が一瞬にして縮まり、鋭い爪をフェリクに向けている。

 フェリクはすばやく焔剣を抜くと、爪を受け止めた。思ったより相手の重い一撃に驚きながらも、間髪いれずにフェリクは炎の魔法を唱える。

「エグゼフレイム!」

 剣から放たれた炎は魔獣の体にまとわりつく。たまらず魔獣は距離をおき、自らをこがす炎を消した。

「クイ、気を付けてね。相手は速い上に一撃が重い」

「うん」

 魔獣の方が間合いは広い。二対一とはいえ、これではどちらが有利とは言えない。

 魔獣が全身を振るわせた。二人は何が起こるのかと身構えた。魔獣の力が口へと集まっていく。

「ガァッ!」

 魔獣の口が開かれた。咆哮と同時にいくつもの氷のつぶてが二人に向かって飛来する。

 数の多さと速さに避けきれないと判断したフェリクは唱えた。

「バーンフィールド!」

 辺り一面を焼き尽くし、氷のつぶてをすべて消滅させた。その高熱は視界すら奪う。

「クイ! 後ろ!」

「大丈夫、解かってる!」

 魔獣は一瞬のスキをついて背後に回りこんでいたのだ。クイは短剣で攻撃を受け止め、魔獣の腹部に思い切り蹴りを入れる。それでも魔獣は怯まず、更にクイに牙を向けた。クイはまた短剣で受け止める。しかし、今度の魔獣の勢いはガードごとクイを吹き飛ばした。

「きゃっ」

 数メートル吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。何かが軋む鈍い音をクイは聞いた。魔獣は追撃を入れようとしたが、フェリクが割ってはいると魔獣はまた距離を取る。

「クイ、平気?」

「うん、なんとか」

 右腕がずきずきするが、大した痛みじゃない。

やりづらい相手だ。猪突猛進であるのなら対策は練りやすいのだが、相手は頭が良く、簡単にはやられてくれそうもない。

 フェリクが本気を出せば一瞬で片がつくのだろうが、「本気出すの疲れるし」との事で、それを期待するわけにも行かない。

 それに何が一番厄介なのかと言ったら、時刻である。

 すでに薄暮時――やがて日は沈み夜が訪れる。暗闇での立ち回りは、夜目の利く魔獣が圧倒的有利になってしまう。短期決戦が望まれるが、上手くいくかどうか。

 均衡した状態の中、攻勢に出るチャンスを伺う。魔獣の眼光が二人を見据えている。隙が一切ない。それよりも右腕がずきずきする。剣を持つ手がおぼつかない。

「まいったねぇ」

 フェリクが呟いた。

「え?」

 クイが問い返そうとする前に、激しいめまいがクイを襲った。倒れそうな所を何とか踏みとどまり、すぐに体勢を立て直したが、目の前の光景に驚愕した。

 魔獣の姿が二匹、三匹と数を増やしていく。分裂するように、同じ姿の黒い体が増殖していく。

「幻術!?」

 いつの間にか幻術をかけられていたのだ。クイは表情をしかめた。魔獣は十もの数にもなり、二人を取り囲んでいた。

 クイは焦る。このままでは夜になってしまうし、この状況すら打破できそうに無い。どうすればいい?

「フェリク! どうする!」

「どうしたい?」

 気の抜けた返事に、クイは思わずずっこけそうになった。フェリクに緊張した様子は一切なく、あまつさえあくびをしている始末。

「なんでそんなに緊迫感がないのよ!」

「別に俺はどうとでもなるし、ねぇ」

 にやりと笑みを返され、クイは返事に窮した。フェリクだったら、フェリクが本気だったらこんな状況赤子の手を捻るようなものなのだ。クイにとって絶対絶命であっても、フェリクにはお遊びである。

「クイ、俺本気出してもいいよ? 当然、クイも助けちゃう。ただ……」

「ただ、なに?」

「後でお願い一つだけ聞いてよ」

「やだ! 絶対やだ!」断固拒否である。「本気出さなくてもいいよ、だけど、フェリクが本気出さなかったら、フェリクだってやられちゃうでしょ?」

「俺はクイと一緒だったら死んだってかまわないけど?」

 真剣な表情に真直な眼差し、嘘を言っている目ではない。

「バ、バカな事言わないでよ!」

「大マジですよ、勇者さん」

 にこりと、爽やかに返答するフェリク。やはり本気である。クイは決断を迫られた。

「……命有っての物だねっ、って人が良く言う位だもんね……願い事一つぐらい……」クイは半ば叫ぶように告げた。

「フェリク、お願い!」

「了解」

 焔剣が光り始めた。空気が舞い始めた。フェリクの瞳が黒から朱に染まり剣と同調したことを示す。焔のように燃える瞳、その日と睨みが総てを焼き尽くしてしまうのではないかと言うほどの威圧感を与える。

「そうそう、クイ、命有っての物だねっ、じゃなくて」風が唸りをあげる。大気が震える。森の木々が鼓動する。フェリクは剣を真下へと突き刺した「命有っての物種、だよ」

 地面が揺れた。瞬間、魔獣の幻影が氷ガラスのように砕け散る。幻影が打ち砕かれ、本体だけが薄い光の中に残る。

「魔獣さんごめんよ、君はもう勝てない」

 フェリクは剣を振り上げた。力が剣先に集約する。魔獣は力の強大さに怯えていた。力の大きさに竦み、動くことすら叶わない。フェリクの瞳に射すくめられ、魔獣は震えていた。

 クイですら、このときのフェリクは少し恐いと思う。本気のフェリクは数えるほどしか見たことが無いとは言え、イメージはあまりにも鮮烈にクイに焼きついている。

 どこを見据えているのか解からない紅い瞳。一つも変わらない表情。一見冷徹に見えるその光景は、どこか哀しそうにも見える。これはクイだけがそう見えるものなのかもしれないが。

 剣は煌々と光り、あたりを照らしていた。フェリクは小さく笑んだ。

「さよなら」

 呟きのようなその声とともに、剣は振り下ろされようとしていた。その時、

「待って!」

 と、森の奥から声がした。クイとは違う、だれか女性の声だ。しかし声が遅すぎたか、剣は勢いのまま真下へと振り下ろされた。爆発的に膨張した空気が刃となり、魔獣へと襲い掛かる。

 激しい地響きとともに、刃は地を裂き森を裂きすべてを抉り、天高く吹き飛ばした。やがて静寂だけが残る。

 その軌道の横に、動かなくなった魔獣の姿がある。森の声の主は出てくるなり、その魔獣へと寄って行った。顔を胸のあたりに近づけると、安堵の表情になった

「良かった……」

 気絶はしているようだが、体は温かく擦り傷はあるが大きな傷は無い。フェリクは寸での所で軌道を変えたのだ。

 フェリクは剣をしまった。瞳はすでに黒に戻っている。日もいつの間にか空から去り、暗闇があたりを支配していた。

 森から出てきた彼女はこちらを見て言った。

「ごめんな。怪我してないか?」

 この問いが自分らに向けられているのだと解かり、クイは答える。

「え……うん、平気だよ」

 と、右腕を持ち上げようとした、とたん激痛が走る。

「いっ……」

 表情が歪む。反射的に右腕を抑えた。涙が出そうなほど痛い。

「クイ、大丈夫?」

「わかんない……目立った傷は無いし、骨は折れてないと思うけど…」

 魔獣の隣で、彼女は心配そうに、こちらを見つめていた。

「だ、大丈夫か?」

 彼女が近づいてくる。

「あたしリゼアって言うんだ、ちょっと、見せて」

 彼女、リゼアはクイの右腕を見ると、呟く。

「骨にヒビが入ってる可能性があるね」

 リゼアは小屋の中に入って、包帯を持ってきた。落ちている枝を使って、手際よく簡単な応急処置を施していく。

「ごめんな、痛くないか?」

「うん、何とか平気だけど……」

 優しそうな女の子だなぁと、クイはリゼアを見ていた。遠くにいたときは暗くて見えなかったが、目がパッチリとしていて、愛嬌のある顔つきである。

 応急処置が終わると、リゼアは思い出したように顔をあげて、二人から距離を取った。値踏みするような目つきで、彼女はゆっくりと口を開いた。

「……お前ら……あたしをやっつけに、来たのか?」

 クイとフェリクは、思わず顔を見合わせてしまった。

 「あたしを退治しに来たんだろ?」

 クイとフェリクは顔を見合わせたまま、どう答えるかを考えていた。

 魔者が女性であったことはまだいい。しかし人の怪我を心配し、しかもそれを手当てして、魔獣を操り町を襲わせるにしてはあまりにも優しい性格である。見るからに凶悪そうで顔には傷があり、鋭利なナイフを舌でなめずりまわし、単純な理由で襲い掛かってきて、負け台詞は『覚えてろ!』。そんな凶悪そうな犯人像とかけ離れていたのだ。

 もし今までの行動が計画的だったのなら、あまりにも策士である。

「違う……のか?」

 リゼアは更に問いかける。ますます返答に困ってしまい、とりあえずクイは依頼書を見せてみた。リゼアは依頼書に視線を落とす。

「操る……ってのは間違ってるけど、この対象になってる魔者はあたしだと思う」

「ふーん、そうなんだ……」

 傍から見たら、おかしな光景である。

「お前ら、あたしを殺すのか?」

 リゼアは問う。

「クイ、この娘殺すの?」

 ついでにフェリクも問うた。

「えっ?」

 二人の視線がクイに集められる。何か悪いことをしてしまったかのように、クイはおどおどしてしまう。

「な、なんで私に聞くの?」

「あたしは一応お前ら二人に聞いたんだけど」

「俺はクイが絶対的存在だから、だよ」

「そ、そんな事言われても……」

 フェリクからはまともな回答を得られそうも無い。やはり自分で結論を出すしかないのだろうか。でも今の頭の状態では正しい判断は出そうも無いから、誰か別の人に答えを出してもらいたい。

 クイはリゼアの顔を見た。そうか、この娘ならまともな回答を得られそうだ。クイは訊ねた。

「リ、リゼアだっけ?」

「ああ、そうだけど?」

「リゼアはこう言う時、どうすればいいと思う?」

 リゼアは小考した後、答えた。

「本当は立ち去って欲しい所だけど……もう暗いし、お前ら悪い奴じゃなさそうだし、とりあえず小屋ん中入って、話し合うってのはどうだ?」

 なんと合理的な考えだろう。クイは思わず感心し、首を縦に振った。

 傍から見なくても、おかしな光景である。

 

 

 

 

   HR

 

    猫が邪魔キーボードが打ちづらい!

 

    と言うわけで(何が)、リレー小説にあったネタを持ってきた小説です。

    七話前後が予定。七話だったらTOPはあのままだし、六話だったら勇者を一括りにして、

    八話だったら、「俺の選んだ勇者様☆」にすればいいもんね……八話はいやだ。

じゃあ、「俺」を「おれ」にするか。

……七話でガンバロ。ファイト。

 

    しかし……書くのが下手になってるなぁ……(泣)

 

 

    注 剣の名前は音で決めましので、意味はありません。

    設定として、クイの瞳も黒です。

    身長は、クイ160センチぐらい、フェリク185センチぐらい。

    年齢。クイ19歳 フェリク25歳。(予想)

 

 

    2004年11月27日 後半部に文章追加。

 

 

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