大量の食料を持ったコトリと共に遺跡に足を踏み入れる。 確かに大層な遺跡で、いたるところに古人の職人の細工が見られ、壮麗な建造物は人々の目を奪う。なんとも一般人受けしそうな場所ではある。 ただ先に述べたように、オクターはこういった場所に興味を抱かない。人々が必ず立ち止まる彫像の前に来ても何も心動かされず、ただコトリが止まったから自分も止まる、そんな感じで遺跡を進んでいく。オクターはこれを忍耐トレーニングの一種と考えることした。 (また紋章だな) 嫌々遺跡を回りながら、星を散らばしたかのように様々な場所に刻まれている紋章だけは目に入った。見ようとしなくても、どこを向いても紋章があるので勝手に視界に飛び込んでくるのだ。 紋章に興味を持っていなかったオクターだが、これだけたくさん配置されていてはさすがに気になってくる。 「オクター、さっきから何やってるの?」 「ちょっと間違い探しをな」 「?」 目に入る紋章を確認していたが、しかしどういうことかペンダント同じように正面を向いたドラゴンは一つも見つからない。 初めは丁寧にどのようなタイプのドラゴンが描かれているのか見ていったのだが、あまりの数の多さにだんだん確認するのが面倒になってきた。元々本腰を入れていたわけではなかったため、あっさりと飽きた。 当然ながら宝物などありやしなかった。ほのかな期待を抱きながら探してはいたのだが欠片一つ見つからない。隠し通路でもあれば面白そうなものだが、探す気力はない。 もはやオクターにとっては苦痛でしかない。紋章も意味不明、宝もない。嫌いな遺跡を回るたび、精神がどんどん疲弊していく。 一通り遺跡を回り終わり賑やかな場所へと戻ってくる。やはり遺跡が性に合わなかったのか、長椅子に座るなりぐったりしてしまった。とんでもなくハードなトレーニングになってしまったようだ。 コトリが自分の食料とオクターの飲み物を買ってきたので受け取ると、あまりの気だるさに空を仰いだ。 「コトリ、面白かったか?」 「うん。結構面白かった」 精根尽き果てたオクターとは対照的に、コトリはそれなりの興味を示していたので有意義な時間を過ごすことができたらしい。 「オクターは?」 「駄目だった。やっぱり俺には無理みたいだな」 遺跡を素直に楽しめる普通の感覚が、死ぬほど羨ましいと思った瞬間だった。 そう言えば依頼主はどこにいるんだと探してみると、スルトはビアガーデンで女性を数人はべらせて酒を飲んでいた。 スルトは決してモテないわけではない。弁舌は立つし気さくだし気配りも良い。ギルド内での人望もあるらしく、マイナス要素など本来ならないのだが。 「ただ、嘆き節が始まるとアウトな訳だ」 発作のような嘆き節。嘆く本人は気持ちよいのだろうが、聞かされている側は騒音以外のなにものでもない。今のところ、酔っていても気分がいいのか発作は起こっていないらしく、順風満帆である。 こうなるとぐったりしてるのはオクターただ一人だ。と思っていたら、コトリが目をしぱしぱさせ始める。 「眠い」 遺跡も食をも堪能して、そして今度は惰眠を貪りたいと仰せである。なんと贅沢な姫だろうか。 コトリはオクターに断ることもせず肩にもたれてきた。そして一分も経たずに寝息が聞こえてくる。 オクターはため息をついた。これ以上何かしたいと思わなかったけれど、自由に動ければ見世物ぐらいは見に行ったのに。 ふとスルトを見ると、ちょうど目と目が合った。酔って真っ赤なスルトの顔が、見る見るうちに険しくなっていく。大方、今のオクターとコトリの状態を見ていろいろとあらぬことを妄想しているに違いない。嘆き節が始まりそうな雰囲気になってきたので、オクターは俺は関係ないと言わんばかりに視線を逸らした。スルトの発作は見ているだけでその嘆きが聞こえるような気がするので性質が悪い。 (俺たちはスルトの考えてるような関係ではないんだけどな) ドラゴンは遺跡に祀られるような尊い存在で、悪い言葉で表せばこちらは単なる奴隷、使われるだけの存在だ。 寝ている彼女の髪を撫ぜる。この遺跡に儀式の手がかりがあるかもしれないのに、悠長に眠っているなんて何を考えているのやら。 (暇だし、俺も眠るか)とまぶたを閉じようとしたとき、その声は後ろからやってきた。 「人違いだったら悪いな。……てめえ、オクターか?」 「人違いだ。全身全霊で謝罪して立ち去れ」 「そうか、悪かったな。俺様の積年のライバルに似ていたもんだからよ――って、間違えてたまるか! そんな銀髪の目立つ女連れてりゃ見間違うことなんてありえねぇよ!」 災難だ。これも必然であるとは思いたくない。 「忘れたとは言わせねぇぜオクター。俺に初めて苦杯をなめさせた男だからな」 忘れたくても忘れられない人物だ。腕相撲によって食費を恵んでくれ、列車強盗の依頼では最後の最後まで抵抗してきた自由稼業者である。その名も、 「マル……マリ? えっと、悪いな、冗談じゃなく素で覚えてない」 瞬間、筋肉質な聖者の顔が茹ダコのように真っ赤に染まった。 「マ・リ・ウ・スだ! 忘れないように心に刻んどけ!」 「盛り上がってるところ悪いんだが、コトリが寝てるからもう少しトーンダウンしてくれないか」 筋肉質な聖者はコトリの姿を見るとチッと舌打ちをして、近くの椅子を持ち上げるとオクターの目の前に打ち付けるようにして置いた。どかりと座ると椅子がぎぃと悲鳴をあげる。 「手前らは観光できたのか? それとも依頼か?」 「……俺は眠いんだが」 「露骨に嫌な顔をするな! ったく、安心しろ。手前は気に食わないがその借りは自由稼業者として返すからな。日常生活では敵対しねえよ」 その割には、時たま殴りかからんばかりの威圧を放出してくる。 寝てしまいたいのは山々だが、マリウスがうるさそうなので答えておくことにした。 「俺らがここにいる理由は両方だな。本当はもっと重要な依頼だったはずなんだが、予想外のことが起きて依頼が早々に終了した……っぽいから、暇つぶしの為に仕方なく観光をしてるって所だ」 「終了したっぽいってのはなんだ?」 「依頼主と一緒に来たんだが、依頼主がその依頼を達成する気がないみたいでビアガーデンで出来上がってる。つまりほぼ依頼は終了ってことさ」 「そんな依頼主に当たるなんて、貧乏くじを引かされたんだな」 「否定できないな。むしろ同意するしかない」 オクターは苦笑するしかなかった。 「そっちはどうしてここに?」 「俺も依頼だ。と言っても俺の仕事は今朝方に終わっちまったから、あとは帰るだけだ」 「どんな依頼だったんだ?」 「この遺跡の知名度を上げるための興行だ。一ヶ月近くここにいなくちゃならねぇ依頼ではあったが、それを差し引いても割のいい仕事だったんでな。そんで今日で依頼は終了って訳だ。明日には全員撤収するぜ」 一ヶ月前から、つまりスルトが得た情報はガセネタと言うことが確定。解ってはいたが、改めて知らされるとため息が出る。 「興行……って、もしかしてここで働いてる奴ら全員、その依頼主が雇ったってことか?」 「驚きだがその通りだ。こんな寂れた地を盛り上げてどんな腹だか知らねぇけどな。気になって依頼主のことも調べてみたが、結局芳しい情報は得られなかったぜ」 マリウスのことが嫌いなオクターではあるが、彼の行動力や洞察力などは認めている。そんなマリウスが情報をほとんど掴めなかったなんて、依頼主はいったいどんな人物なのだろうか。 「俺も一ヶ月の間ずっと考えてたんだがよ、人を集めてテロを起こすにしては集まる人数が少ないし、洗脳して宗教に――ってのも当然人数が少ない。総合的な儲けだってとんとん、いや、運搬費とかも結構掛かってるらしいからな、経営は赤字だろう。さらに俺らへの報奨もあるわけだから依頼主は完全な大損なんだ。どっから費用を捻出してるかは知らねぇが、理由が解らねぇ気味悪い仕事ではあったぜ」 話を聞いているだけのオクターも何となく薄気味悪くなってきた。マリウスの話に出てきたことももちろんだが、興行の終わる最終日、まさにその日に自分達が訪れたことが何より気にかかる。 (単に勘繰りすぎなのか、それとも) 必然なのか、である。 「なんだオクター。手前だったらもっと食いつきがいいと思ったんだが、腑抜けたような冴えない顔つきだな」 「さっきも言ったが、俺は観光が不本意でな。その不本意さが常人より半端じゃないから、得体の知れない話を聞いてもテンションが乗り切らないんだ」 いつもだったら頭をフル回転させるところだが今は無理。駄目。不可能。それもこれも不毛な遺跡見学をしたせいである。 「そうかよ。じゃあ今面白い話があるって言っても乗ってこねぇよな」 面白い話と聞いた瞬間、オクターの緩みきった表情がきっと引き締まった。 「――いや、面白い話ならいくらでも乗れる」 「へっ、そうこなくっちゃな」 マリウスはにやりと笑みを浮かべる。マリウスは周りに人がいないかを確かめると、声のトーンを落とす。 「手前も気づいたと思うが、この遺跡にはあらゆる場所にドラゴンの紋章が刻まれてるんだ」 「そうみたいだな。俺も腐るほど見た」 「俺も仕事以外は暇だったからよ、その紋章をちょっと調べてみたわけだ。この遺跡にいったいいくつ紋章があったと思うよ?」 「見渡しただけで十数個あったから、見当もつかないな」 「聞いて驚くな、その数約千。さらに、そのすべての紋章は少しずつ違うから驚きだ」 あんな紋章が千個もあったのか。それを探し出したマリウスには脱帽だが、紋章が全部違うとすれば古人はずいぶん無駄なところに力を入れてしまったものだ。 「そして……ここからが本題になるんだが、それらの紋章は首、足、腕の向きや、羽の有無、爪の数に瞳の掘り方など、様々な部位を使って別の形になってるんだだ。それにどんな規則性があるのかを見つけるのは難解だったが、そこは俺様の探究心と実力で謎を解き明かしたわけだ」 「紋章同士を線で結ぶ、か?」 「甘いな。確かに線で結ぶことは結ぶんだが、ただ結んだだけじゃ何の手掛かりにもならねぇ。条件があるんだ。そこで出てくるのがさっき述べた紋章の違いだ」 「話の腰を折るようで悪いが、お前が探した紋章の中に、ドラゴンが正面を向いたやつはあったか?」 せっかく良いところなのにとマリウスは顔をしかめた。 「そんなのはなかった。何かあるのか?」 「いや、単に気になっただけだ。続けてくれ」 マリウスは肩をすくめ、話を続ける。 「それでだ、紋章の違いによってどの紋章を線で結ぶかを選択するんだ。苦労したぜ。何度取捨選択しても思い通りに行かなかったから投げようかと思ったぐらいだ。で、俺様が発見した条件は、まずは頭の向き。右を向いてるか左を向いているかで区別する。さらにもう一つ、両翼が閉じてるか開いてるかによっても区別だ。その二つを組み合わせ、右を向いていて翼を開いている紋章と、左を向いていて翼を閉じている紋章がワンペア。余りがもう一つのペア、つまり二種類に分けた上で、さらに瞳が閉じているかいないかで四つのグループに分ける。そこから重要なのは紋章の向いている方角になるんだが――」 「結論だけ言ってくれ」 「せっかちな野郎だな。まあいい。最終的に紋章は二つのグループに分けられる。使わない紋章も出てくるのがやらしいよな。そして、それらの紋章を互いに結んだときに出てくる絵が、これだ」 マリウスは一枚のパンフレットを取り出した。先ほどオクター(実際はスルト)が大銀貨一枚で買ったものと同じだが、何度も遺跡を調べたのだろう、日焼けし手垢で汚れ年代物の宝地図のようだった。 「二匹のドラゴン――」 開かれた宝地図に浮かび上がったのは二匹のドラゴン。遺跡を蹂躙するように現れた猛々しいドラゴンがそこに刻まれている。 (こんな筋肉質な聖者が見つけ出すなんて、古の賢人は夢にも思ってもなかったろうな) マリウスは姿に似合わず、パズルのような細かいものを解くのが好きなのだろう。依頼に関することなら負ける気はしないが、謎解き対決だったら確実に負けそうだ。 「この二匹の竜の視線が集まる場所」マリウスはパンフレットに指を突き立てる。「この×印の場所だな。そこに、怪しげな祠があったんだ」 遺跡から数キロ離れた場所に×印が記されている。人が入り込まないような雑多な森の中で、普通の人間がそこに赴こうとは思わないだろう。 「そこに宝でもあるのか?」 「ある、と言いたいところだが、まだ解ってねぇ」 「どういうことだ?」 「祠があって、その裏に洞窟があるっぽいんだが、まん前に仰々しい鉄の扉があって重すぎてあかねぇんだ」 オクターは目を丸くする。この筋肉質な聖者、通称マリウスの力を持ってしても開かない扉があるなんて。 「何か仕掛けがあるわけじゃないのか?」 「俺様が見落とすわけねぇだろ。丹念に何度も調べたに決まってるじゃねぇか。……ってことにしてぇんだがその自信はなくてな。単に重いのか何か仕掛けがあるのかも解ってねぇ」 「解ってないこと尽くしか。それで? 俺たちに手伝えって言うのか?」 「ご明察。ここまで話を聞いたんだから嫌でも手伝ってもらうぜ。力技で済むんだったら、俺と手前と、そこで寝てるコトリさえいりゃぁ問題ねぇだろ」 確かに。コトリがいれば大抵のものは壊せるし。 「いいのか? こんな情報あっさり俺に渡して」 「こんな情報だからに決まってるじゃねえか。こんなこと見ず知らずのやつらに話せると思うか?」 「いや。扉を開けたところで、もしくは宝を見つけたところで背中が薄ら寒くなるな」 「そういう事だ。俺は手前が嫌いだが、他の奴らと違ってフェアだと思ってるからな」 「結構な持ち上げようだな」 お互いがお互いに抱いている感情は、だいぶ似通っているものらしい。 「解った。引き受ける。報酬は手に入った宝の二割でいい」 「ずいぶんと謙虚じゃねえか」 「俺は興味があることに対しては報酬を求めないんだよ。報酬は二の次だな」 「今回の話、ただ働きしろって言われたらやるか?」 「やってやりたいのは山々だが、こっちにも事情があってな。二割は譲れない」 言わずもがな、コトリの食費を稼ぎたいのである。 「こっちは二割どころか五割は覚悟してたからな、問題ないぜ」 マリウスはすっくと立ち上がる。 「よしオクター、早速行こうぜ」 「いや、ちょっと待て」 意気揚々としていたところに水を差され、マリウスは眉を顰める。 「なんだ?」 「コトリが寝てるから、もうしばらく待ってくれると助かる」 マリウスはオクターに寄りかかりすやすやと眠っているコトリを一瞥し、舌を打ち鳴らすと椅子へ座りなおした。 「はっ、ったくお熱いこって。だが三十分したらまだ起きてなくても出発するからな」 腕を組み瞑想を始めたマリウスと、彼の影で隠れてしまったスルトの姿を想像し、見比べてみる。 (……やっぱ、これぐらいの反応が普通だよな) 嘆き節が始まらない分、スルトよりマリウスのほうが一緒にいて楽なのではと、オクターは本気で考えていたりもした。 しばらくするとコトリが目を覚ましたので、三人はマリウスが見つけた祠へと向かうことになった。 コトリはマリウスの姿に驚いたようだが、オクターの説明を受けると快く(ちょっと嫌そうだったが)承諾してくれた。 オクターは出掛ける旨をスルトに言っておこうと思ったのだが、彼は案の定、酒で潰れていたので無視して出かけることにした。 「これが祠だ」 遺跡から離れ、鬱蒼と茂る森の中にその祠はあった。祠の後ろには鉄でできた巨大な門が立ちはだかっている。その大きさ、雄に身丈の三倍。マリウスでも動かせないわけだ。 「どっちに動かせば開くのかは解ってるのか?」 「いや。押しても引いても持ち上げても倒そうとしても横から押しても動かねえんだ」 オクターも試しに一通り門を開けようとしてみるがびくともしない。鍵穴がないから鍵がかかっているとは思えないし、周りに扉を開ける装置のような物もない。 (ここに洞窟があるように見せかけるためのレリーフってわけではないよな) まさかそこまで捻くれた事はしてこないだろうとは、思うのだが。 コトリはオクターの隣で、彼女なりに鉄の扉に興味を示していた。じっと扉を眺めては何かを考えている様子。 「何か解ったか?」 「これ、開ければいいの?」 「ああ」 コトリは扉に手を添えると体重をかけてぐっと扉を押し始める。普通の扉が開くようにすっと二センチほど動いた。 「頑張れば動くよ?」 コトリは「でもちょっと重いかも」と唸りながら尚も扉を押し続ける。鉄で作られた、屈強な男一人でも開かない扉は確実に道を譲ろうとしている。 「おい、手前の連れどんな腕力してるんだよ」 マリウスはぎょっとした顔つきでオクターに尋ねた。 「あんな腕力だ」 オクターもコトリの強大な力は何度も見てきたが、それがどこまでのものなのかは計ったことがない。ただ若竜ですらあんな腕力なのだから、成竜になったらと考えると末恐ろしい気もする。 すずめの涙ほどの手助けにしかならなかったが、一応二人もコトリの手伝いをすることにした。 やがて人一人通れるほどの隙間ができる。マリウスが用意しておいた松明を持って中へと入り込むと、そこには期待に違わぬ、全面石造りの壮麗な洞窟がお目見えした。 途中に障害物もなく、ただただ一直線に伸びる通路。松明をかざしても最奥に光は届かず暗闇だけが返ってくる。松明の炎は僅かに入り口から奥にたなびいており、風の流れはあるようだ。 (もっと光源があればいいんだが) 得体の知れない一本道に、オクターはコトリに小声で訊いてみた。 「ドラゴンって、炎とか吐けないのか?」 「一応吐ける構造になってるけど、火傷するからイヤ」 「……そうなのか」 自分で吐く炎で火傷するとか、だとしたらいったい何のための機能なのだろうか。考えても解らなかったので、オクターはドラゴン七不思議の一つとして心に記しておくことにした。 「それじゃあ行くぜ。二人とも俺様についてこいよ」 先陣を切ってくれるのはありがたい。もしこの通路の先に宝があるのなら、その宝を守るものが鉄の扉だけであるはずはないからだ。 「マリウス、罠には気をつけろよ」 「解ってるさ」 マリウスは松明をかざしながら前に進んでいく。が、数メートルも歩かないうちに立ち止まった。 「どうした?」 「見ろよ、壁に小さな穴が無数にあいてやがる」 穴の大きさはちょうどそこから矢が飛び出せるほどの大きさ。 床を丹念に調べると、敷き詰められている石のタイル一つが周りより若干隆起しているのが確認できた。大方、その石を踏めば横の穴から矢、あるはそれに近いものが飛び出てくるのだろう。 (解りやすい罠とは言え、初っ端からあるとはな) いきなり罠を配置することで、この通路にはたくさん罠があるんだぞとひけらかしているみたいで嫌な感じがするのだ。 間もなく、その考えが間違いでなかったことが証明される。 |
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