古今東西、様々な文献曰く、竜の契約を結んだ人間は竜の主という呼び名であるにも関わらず、受ける恩恵はゼロに等しく、苦悩や苦労などの搾取のみを被るため、哀れみを込めて竜の隷属者、ドラゴンサーヴァントと呼ばれている。 (余計なお世話だな) オクターは悪態をつきながらも順調に旅を進めていた。 先日ぶんどった金、後々確認したら結構な量が入っており、おかげで金欠による野垂れ死にという悲劇は免れることとなった。コトリも毎日腹を満たすことができてご満悦。 数日後、二人は目的の町、フローレスへと到着した。 「ここがオクターの故郷?」 「ああそうだ。大きくはないが、それなりのいい町だ」 活気もあって飯も美味くて、隣町には列車が走っているから交通の便も良い。ただ一つ気に食わないのは、町の名前が香水っぽいという事だけだ。 「オクター、ちょっとお腹が切ないから、あれ食べたい」 町を歩いていると、コトリが食べ物を売っている露店を見つけてしまった。 たくさんの黒砂糖を混ぜて焼いたパンに、蜂蜜や練乳、メイプルシロップチョコにアイスなど、とりあえず甘いものをたっぷりかけたこの町特有の激甘デザートである。 「……さっき飯を食ったばかりだろ」 「お腹が切ない……」 言い出したらきりがないのでしぶしぶ買ってあげた。一番大きなサイズを三つほど。コトリが全部食うんだと教えてやったら、店員の目が丸くなった。 コトリの食事の姿を見ていて不思議に思うのは、結構なスピードで食べているにもかかわらず服はもちろん口周りですらまったく汚れないこと。この激甘デザートなんて口元を汚してくださいと言わんばかりのボリュームなのに、彼女は難なく食していく。 そのことを口にしたら「こぼしたらもったいないから」とのこと。的外れな答えだったが、コトリらしい理由ではある。 コトリの食事が終わると、オクターは彼女を連れてとある場所に向かう。細い路地や空き家の中を通ったりと複雑に進んでいくが、勝手知ったる町なので迷うことなどない。 「どこ行くの?」 「俺の仕事場。お前の食費を稼がないとな」 しばらく歩くと目的の建物が見えてきた。 その場所の名は『ギルド』。 「ギルドってどんな場所?」 「俺みたいな自由稼業者の溜まり場さ」 ギルドには表口と裏口がある。 表口はギルドに依頼を持ち込む客専用で、依頼の内容は生活に関する些細なことから大金を盗めという犯罪まで多種多様。依頼によって値段が変わり、当然難易度の高い仕事は金額が増えていく。人殺しとドラゴン殺し以外なら、金次第で何でも引き受けてくれるのがギルドだ。 そして裏口からは、オクターなどの自由稼業者、通称フリーサーヴァントと呼ばれる人が出入りし、表でギルドが引き受けた依頼をこなすのである。 (ここでもサーヴァント呼ばわりなんだから、俺は意外とMっ気でもあるのかもな) 自由稼業者たちは依頼を引き受ける代わりにそれに見合った報酬を貰う。成功すれば全額もらえるが、失敗すればびた一文もらえないという厳しいシステムだ。犯罪に関わる依頼も当然あり、その時に犯した殺人以外の罪は依頼主が背負うことになる。その点は自由稼業者に相当有利ではあるけれど、依頼遂行中に怪我を負っても補助金は出ないし命を失ったらそれまでだ。 「大体わかったか?」 「つまり、お金がもらえる場所?」 「ま、そういう事だ」 裏口には黒い服を着た人間が二人立っている。裏口から入っても良い人間なのかを確認する監視員である。 「証明書を」 オクターは自由稼業者であることを示すライセンスを見せる。ここには個人情報から今までこなした依頼の数、依頼の難易度、最近の依頼成功率などが記されている。 「後ろのは俺の連れだ。今日ライセンスを取らせる」 「了解しました」 監視員は形式的に答えると部屋の中へ案内した。二人が連れられたそこは待合室のような場所。どんな依頼を請けるかは個人情報になるため、個室で依頼を請けることになっている。 オクターはとある部屋の前までやってくると、入り口の扉に入室中と書かれた札が下げてあるのを見て、近くにある椅子に腰をおろした。 「入らないの?」 「先客がいるからな。そいつが出てから入る決まりなんだ」 「他の部屋は空いてるよ」 「俺はこの部屋で依頼を請けることにしてるんだよ。この部屋だとお前のライセンスも取りやすいしな」 それだけで納得したのか、コトリはオクターの隣にちょこんと腰掛けた。先客がどれほど時間がかかるかは解らないが、しばらくはこのまま待機だ。 (……やっぱり、見られてるよな) 他の自由稼業者から視線が、特にコトリへ集まっているのが解る。ギルドに女がいることは珍しくないのだが、オクターと違ってコトリは何ら得物を持ち合わせていないし、自由稼業者として仕事をこなすにはあまりにも華奢な体つきをしているのでどうしても目立ってしまう。 (まぁ、ここにいる奴ら全員が束になってもコトリに勝てないけどな) 竜眼を使えば一瞬だし、使わなくても秒殺だろう。 「オクター、わたし、周りから見られてる」 小さな声で、コトリがオクターに話し掛ける。彼女も視線が気になっていたらしい。 「それはお前が綺麗だからだよ。ただでさえ綺麗な顔立ちで目立ってんだから、暴れようとか考えるなよ」 「――っ」 不意に綺麗と言われて、コトリは赤面し押し黙った。 (扱いやすくて本当に助かる) オクターは失礼なことを心の中で呟きながら、静かなコトリと待つこと数十分、ようやく部屋から人が出てきた。 「コトリ、入るぞ」 コトリは未だに口を結んだまま、逃げるようにして部屋に入り込む。オクターもそれに続き部屋に入ると扉を閉めた。 扉の内側は小さく簡素な部屋。ここは依頼を請けるためだけの部屋なので、椅子が数個とカウンターがあるだけで他には何もない。とはいえ、いつもならカウンターにいる人間の姿が見えないのはどうしてだろう。依頼を引き受けるためには、どんな依頼が入っているかを説明する人間がいなくては始まらない。 部屋を見渡していると、どこかから気だるそうな声がやってきた。 「あー、なんだ、また人かよ。今日連続依頼引き渡しやってて疲れてるから、別の部屋行ってくんない? 俺もうだるくてだるくて、今日は紹介するつもりないんだよね、っていうか別の部屋行け」 いきなり出てけと命令された。相変わらず声の主の姿は見えず、多分カウンターの後ろで寝ていると思われる。 「職務怠慢とは見逃せないな」 「職務怠慢結構……っと、その声はオクターか!」 カウンターの奥からがばっと一人の男が顔を出した。 「オクター生きてたんだな。てっきりドラゴンに食われて死んだのかと思ったぜ」 「スルト、俺を勝手に殺すな。いや確かに過剰に食われて死にそうなんだがな。何とか生きて帰ってきた」 スルトと呼ばれた男は、オクターの返事に一瞬困惑した表情になったが、しかし友の帰還に喜びの色を浮かべる。髪は相変わらずぼさぼさだが、明るい笑顔で迎えてくれた。 「で、結局ドラゴンはどうだったんだ?」 「やっぱ眉唾もんだったよ。でかくて挿絵なんかで良く見るドラゴンなんていなくてさ。いや、俺が行くまで実際にたくさんの戦士が帰ってこなかったそうだから、いたことにはいたかもしれない」 「お前のタイミングが悪かったってことか?」 「良くも悪くもって所だな」 「確かに、実際にドラゴンに会ってたらここで俺と会えなかったかもしれないもんね」 「ああ、本当に運が良かった」 嘘はついていない。でかいドラゴンには会ってないし、運悪く竜眼に耐性が無ければ死んでいたし。 うまい具合にはぐらかせたと思っていたら、突然スルトが般若の面を顔に貼り付けオクターの胸倉を掴んだ。嘘をついていることがばれたかと思ったが、それは違った。 「おい、ところでオクター、女連れとはどんな了見だ? あぁん?」 女とはもちろん、コトリのことである。 「それはいろいろあってだな……」 「俺に対するあてつけか? お前は女に興味ないとか一晩の付き合いでいいとかほざいておきながらこうやってあっさり破格の女をゲットして、列伝に書き記せるぐらい奇跡的に恋愛が成就しない俺に見せびらかして何が楽しい? あてつけか? そうだろうあてつけだろう? 解ってる、どうせ俺はもてないよ。一途に思い続ける女は結局俺の事を振り向いてくれないし、新しい出会いもすぐに終わってしまう、浮いた話なんて一つもない。彼女いない暦も童貞暦も見事に年齢と共に増加中さ――」 オクターが困っているみたいだったので、コトリは二人に近づいて、スルトをオクターから剥がした。 「オクターが困ってる」 コトリの一言に、スルトはその場に崩れ落ちた。 「ははは、顔だけじゃなく性格もいいなんて、難癖つけてる俺はまさに道化だな。オクター、こんな大事にされてるお前は幸せってもんだ。俺の分も幸せになってくれよ、そうじゃなきゃ一生恨むぜ。――すでに恨んでるけどな」 スルトは役者顔負けの演技力を駆使し、全力で恨みつらみを述べていく。 「いつものことなんだ。終わるまで無視してやってくれ」 オクターはコトリに小声で告げると、近くにあった椅子に腰掛ける。長くなりそうだったので彼に倣い彼女も椅子に腰掛けた。 「ちょっとお腹が切なくなってきた」 「……気持ちはわかるが我慢しろ」 これはスルトの悪い癖だ。女がらみになるとすぐに嘆き出し、酒なんか飲んでしまった暁には目も当てられない悲惨な状況に陥る。 彼の癖は治りそうにないが、これがモテない理由になっていることだけは明白である。 数分後、ようやくスルトの嘆きが止まった。 「さて、真面目な話、その女性のことを紹介してくれないか?」 打って変わって、スルトの表情は凛々しくなる。この素早い感情の移り変わりはいつ見ても飽きない。 「こいつの名前はコトリ。俺がドラゴン見に行く途中、ちょっとした理由から仲良くなってな。話してる間に意気投合して、こいつの腕っ節はなかなかだし、金にも困ってたみたいだから一緒に仕事をすることにしたんだ」 今度も嘘はついてない。核心をはぐらかした本当の話である。 「そんな可愛い恋人が出来てオクターが羨ましいよ。俺はこの狭い部屋が恋人になりそうだよ」 別に恋人ではないが、それ以上の関係ではありそうだから訂正しない。 「頻繁に旅に出てるとそんなこともあるんだなぁ。俺も旅に出てみようかなぁ」 「旅に出たからって毎回こんなことがあったら困るけどな」 主に食費とか。 「で、さっそくだが、コトリのギルドライセンスを取りたい」 「りょーかい。ちょっと待ってろ、用紙持ってくる」 ギルドライセンスとは、先ほどここに入るときに提示したように、自由稼業者として働くためのカードである。 本来ならば、表口からギルドに入って自由稼業者になりたいと申請し、さらにそこから力量を確かめるためのテストを受けたりと面倒な手続きを踏む必要があるのだが、すでに一端の自由稼業者になっている人間からの推薦だと簡単にライセンスが取得できる。 推薦でもチェックが入るのだが、オクターとスルトは友人なのでかなりチェックが甘くなっているのだ。 「さて、持ってきたから、コトリちゃん、何個か質問させてもらうよ。まずここに登録したい名前は?」 「コトリ」 「おーらい。コトリちゃんね。武器は何を使ってる?」 「拳?」 「ナックルね。次、年齢は?」 「三百二歳」 「は?」 スルトが疑問符を浮かべた。オクターの顔が引きつった。 「あー! 二十二歳だよ二十二歳。コトリいいか、お前は、二十二歳だ」 オクターがその場を取り繕い、事なきを得る。 これぐらいチェックが甘くないと、出身地も年齢もあらゆることが人間と比べて規格外のドラゴンがライセンス取ることは不可能だろう。 (というか、こいつは三百二歳だったのか) 今まで聞く必要がなかったから知らなかったけれど、容姿だけで判断すれば二十歳ぐらいに見える。ちなみに、オクターは二十五歳。スルトは二十四歳である。 オクターは冷や冷やしながら二人の様子を眺めていたが、年齢以外はそつなく終わり、ほっと胸をなでおろした。 スルトは、コトリとコトリの回答により作られたプロフィールを見比べて、ポツリと呟く。 「オクター、お前を疑うわけじゃないんだけど、本当にコトリちゃんは強いのか?」 オクターはスルトの友人であると共に、自由稼業者としても優秀な人材だ。そのオクターが推薦しているコトリが弱い訳がないとは思っているのだが、彼女は自由稼業者の名を持とうという者としてはあまりにも華奢な体型で、今一つ信じきれないところがある。 オクターもそれは承知していた。自分もスルトの立場だったら疑うことは間違いない。自分のせいで虚弱で要領の悪い自由稼業者を増やしてしまったら、責任問題に発展する可能性もあるからだ。 だからこそ、オクターはたった一つ、スルトに提言したのだった。 「腕相撲、してみ?」 スルトが席をはずしている。部屋で待たされることになった二人は、唯一セルフサービスのジュースを飲んで暇をつぶしていた。コトリはお腹が切ない切ないと呟きながら、たった今二十杯目のジュースを飲んでいる。底なしだ。 さらに数杯のジュースが消えた頃、スルトが戻ってきた。 「お待たせ。こいつがコトリちゃんのライセンスだ」 スルトは手に持っていたカードをコトリに渡す。コトリはそれを掲げながら、オクターに訊ねた。 「このライセンスがあると、何があるの?」 「ギルドから自由稼業者として認められたことになるんだ。このライセンスがあれば、裏口からギルドに入り依頼を請けることが可能になる」 「そう。さらにライセンスは色ごとに自由稼業者のランクを表してて、それによって請けられる依頼も決まるんだ。コトリちゃんのはホワイトでまだビギナー。ホワイトからグリーン、イエロー、ブルー、レッド、パープル、ブラック、シルバー、ゴールド、プラチナとあるから、プラチナのライセンス取れるように精進してくれよ」 「オクターは何色?」 「俺はゴールドだ」 「ゴールドと言えばベテランでさ。依頼をこなしてきた数もさることながら、シルバー以上のライセンスは最近二十件の依頼達成率が九割越えてないと取れないっていう厳しい条件があるんだ。それを乗り越えてゴールドのライセンスを取ってるオクターは、うちらギルドとしてはありがたい人材なんだよ」 「コトリ気をつけろ。依頼が達成されないと手数料も少なくてこいつの給料に関わって来るんだ。こうやって褒めちぎっては高額でこいつにとって割のいい、俺たちにとって危険な仕事を押し付けてくる」 「気をつける」 「コトリちゃん信じちゃダメだ! オクター酷いじゃないか。自分から危険な仕事に首突っ込むくせに」 「勘違いするな。俺は俺が興味ある仕事を取ってるだけだ。それが危険か危険じゃないかは二の次さ」 「オクターの場合ほとんど同義じゃないか!」 スルトの嘆きは置いといて、コトリはオクターの服を引っ張った。 「このライセンスを手に入れたら、わたしはどうすればいいの?」 「そうだな、まずは俺とパーティを組んで一緒に仕事を請ける。俺のライセンスはゴールドだから、ホワイトのお前でもゴールドランクの仕事ができる。難しい仕事をこなしていけばランクの上昇も早くなるからな」 「ランクが上がるとお金たくさんもらえるの?」 「ああ。お前のランクが上がって割のいい仕事を別々に請ければ、たくさんお金が入るってことだ」 「うん、じゃあ頑張る」 飯のためなら死することも辞さない、そんな決意を固めているコトリ。頼もしい限りである。 「オクター、コトリちゃん、話はまとまった?」 「ああ、問題ないぜ」 「うん、大丈夫」 「よーし、さて、今回はどんな依頼をお求めで?」 「いつも通り、俺好みの楽しげな仕事。金も入る仕事が嬉しい」 「おーらい、ちょっと待ってろ。お前専用にリストを作っておいたから」 スルトはカウンターの下から紙の束を取り出す。一枚をつまむと読み上げた。 「王族護衛なんかどうだ?」 「却下」 「即答かよ。簡単で金もたくさん入るいい仕事だぞ。コトリちゃんもいいと思うよな?」 「お金が貰えるならいいと思うけど」 「ダメダメ。魅力的だが、他の奴に回してくれ。王族とか貴族とかはいけ好かん」 スルトは別の紙を取り出す。 「鉱山最深部調査」 「怪物でも出たのか?」 「いや、どうなってるかを確認するだけ」 「じゃあ却下だ」 「貴族の家の防犯設備調べ」 「面白そうだが、興味はないな」 「橋の大幅な改修工事」 「遠慮する」 それから数枚読み上げたが、コトリの意見も無視しオクターはことごとく却下。 「スルト。いいかげんに本題を出してくれないか?」 スルトはにやりと笑みを浮かべた。 「やっぱりばれてた?」 「何がやっぱりだ。つまらない依頼を示してから――なんてパターンはいつものことだろ。とっとと出しやがれ」 「そう急ぐなよ。今回のはなかなか上物だぞ」 スルトはそう言うと、懐から一枚の紙を取り出した。今までとは違う真剣な顔つきに変化する。 「依頼内容は、列車護衛。とある貴族が保管していた大量の美術品を列車で運ぶことになったんだそうだ。それの護衛だ」 「はぁ? 貴族は嫌いだって言っただろ?」 期待はずれの依頼内容に一気に白けた。 「まあ落ち着け、そんなの気にならなくなるさ。この護衛依頼、報酬もさることながら条件が凄い。なんたってこの依頼を引き受けることの出来る自由稼業者は、最低でもシルバーライセンスを保持してなくちゃならない。それだけならまだ普通なんだが、そのシルバーライセンス自由稼業者を、五グループ以上十人以下という大人数でお求めなんだ」 「ほう」 ここで初めて、オクターの目の色が変わった。 「護衛を多くする理由は、列車に積み込む美術品の総額がとんでもない値段だし、家に置いてあった時も何度か盗まれそうになったらしいから、万が一の時のために雇っておきたいんだそうだ。それでもギルド側の常識からすれば、それだけの大人数を所望なんて考えられないが……。どうよ、興味が湧いてきたろう?」 「――そんな話をしてくるということは、もちろん、取っておいてくれてるんだろ?」 「おいおいオクター、俺を誰だと思ってるんだい? そうじゃなくちゃ、こんなもの提示するわけないじゃないか」 誇らしげな顔になるスルト。オクターもこの時ばかりはスルトを褒めてやりたいぐらいだった。 「その依頼はいつだ?」 「一週間後さ」 「一週間か……列車が発車する場所と日時は?」 「隣町のセンセレイ。行き先は王都で、発車は朝一」 「報酬は?」 「グループ手取り大金貨五十枚」 ヒュゥと、オクターは口笛を吹いた。 「上出来だな」 「お宝一つ、最高大金貨百枚の価値はあるみたいだから、それぐらい当然でしょ」 「ねぇオクター、大金貨五十枚ってどれぐらい?」 仕事の話についていけなかったコトリだが、お金の話には参加。 「この前ぶん取ったお金の百二十五倍だな」 「百二十五倍。ちょっとびっくり」 硬貨には金貨、銀貨、銅貨とあり、それぞれに大と小の二種類ずつがある。 前回筋肉質な男からぶん取った金は大銀貨二百枚ほど。小金貨一枚と大銀貨百枚が同等なため、つまり小金貨二枚分を得た事になる。大金貨一枚と小金貨五枚が同じ価値なので、百二十五倍と言うことだ。 ちなみに、小金貨一枚あれば一人一ヶ月は過ごす事ができる。コトリはそれを一週間未満で使い果たしてしまうのだから、オクターの懐が崩壊するわけだ。 「ところでオクター、コトリちゃんは大丈夫なのか?」 「どういうことだ?」 「その依頼を請けたとしたら、コトリちゃんも請けることになるわけだろ?」 「うん、わたしもやるよ」 「だろ、だから大変なんじゃないかと思って」 「なんだ? コトリの腕っ節ならさっきお前も確認したろ」 「そりゃそうだけどさ、やっぱり初心者がいきなりそんな大仕事を引き受けて、お前が苦労しないかと思ってさ」 オクターは友人の心配を笑い飛ばした。 「スルト、お前はコトリの強さをわかってないな。それに今回の仕事は俺のプランだと絶対コトリが必要なんだ。重要な役割もあるしな」 オクターがコトリを見ると、彼女は意味が解らずに首をかしげた。スルトが訊ねる。 「それはどういうことだ?」 「事が始まるまでは何もすることが無いし暇だろ? その余暇を有意義に過ごすための相手が必要だとは思わないか?」 「確かにな。暇な時間はたくさん有るだろうし――って! くそ! 女がいる奴はどうして皆余裕の口調でこういう惚気を恥ずかしげもなく言えるんだ? どうせ俺は万年モテない太郎だよ! お前なんて俺の気持ちをまったく解っちゃくれないんだ。……うっ、うっ……」 スルトの嘆きが始まり、コトリはお腹が切ないとぼやき出した。スルトの回復を待っているのも面倒なので、依頼詳細が書かれた紙をぶん取ると、コトリと共にその部屋を後にする。 依頼の日は一週間後。今後の食費のためにも失敗できない大仕事だ。 そろそろオクターもお腹が減ってきたので、依頼について思案を巡らす前に、食欲を満たしに食堂へ向かうのであった。 |
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