今日の彼の部屋は、モーターの調べが響いていた。
当の主はというと、木椅子に座り眉間に皺を寄せて本をひたむきに読んでいる。
題名を『死。〜そして貴方は愛す為に嫌うのですか〜』と記してある。
・・・・実際、中身はかなり複雑なようで、彼はしきりに上を見上げては首を左右に振り、再び視線を文面に戻すのだった。
今日も、休日だ。
いや、有休をとってあったわけで、日、土曜日ではないのだが。
飽きてしまったか、彼は本を机の上、否、机の上のごっちゃになった書物の最上段へ無造作に載せた。段々とこの紙の塔は頂が高くなることだろう。
そのまま正面を見る。
清掃機を掻き鳴らす少女が目にはいった。
もう少し出力を下げても塵は吸い込めるのではないか───。とも彼は思ったが、本日は思っただけだ。
最近ようやっと学習したらしい。
彼女が誠意をもって奉仕してくれているのであるからして、文句は不要だったのだ。
と、自分が口を閉じた根拠を己を正当化できる理由に改竄した彼は、自分の生活能力の低さに感謝する日が来るとはと苦笑した。
雪がちらほらと舞っていたのが窓から確認できたが、彼はこれを牡丹雪だから積もらないだろうな、と推察し、のんびり彼女の横顔を眺めた。
頬が、緩む。
彼女はこの部屋の主の恋・・・・、いや訂正しよう、自称〔只の仲の良い同僚〕なのだが、今日は彼の部屋で掃除機を手懐け、思うが侭にヘッドノズルを旋回させていた。
彼女は有休を彼に合わせ、そして彼のために費やしているのだ。己の中では、自分が不服なことをしている。何故私がこんな事をせねばならないのだろう、と考えているつもりだったが、その表情はなんとも幸せそうである。
この部屋は彼の匂いがする、と。もしかしたら正確には逆であるかも知れない。
環境調整装置を設置しているので、部屋は常時彼の好みの暖かい温度だった。
室内が春の陽気を漂わせているのに対し、外は気象庁が疑似具象させた真冬だった。
そのうち、彼女はふと彼の視線に気付いた。
何ぞ用なのか、と尋ねようと彼を見返した。
が、眼が、あまりにも真剣だった故に口篭ってしまった。
彼の、非常に珍しい微笑していない蒼瞳を向けられた彼女は色々な推測を巡らしたが、どれにも当てはまらず、思考がフリーズしてしまう。
何故彼が私をそんな眼で見るのか。
掃除機はコードレスはコードレスでも、彼が怪しいジャンク屋に無理に買わされた旧式で、尚且つ最大出力で長時間運転した所為に、バッテリーが切れてしまった。
静寂が、訪れる。
時計の音がやけに大きく聴こえる。
視線は逸らすことができないでいた。
数秒が、数時間にも感じられるこの空間で、先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「ちょっと、何よ?」
しかし、彼からの応答は無い。
雰囲気は気まずくなるばかりだ。
できるだけ考えたくない彼の次の言葉が予測された。
彼女は一切感情の読めない彼の瞳が、自分を冷たく観ているような気がしてならなかった。
「・・・・・・」
「ねぇ、一体何なのよ!?」
「・・・・・・」
「答えてよっ!?」
今思えば、常に笑った暖かい表情は、装われた、作り物の笑顔だったのかもしれないと。
「ねぇ、ってば・・・・・」
彼女の瞳は潤んでしまっていた。
自分に向けられた言葉は虚ろなものであったのかと。そそがれた笑顔は偽物であったのかと。
そう思わせるほど彼の瞳は感情の込もっていないものだった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「返事・・・・・・・・・してよぉ・・・・・・・」
「ぐぅ・・・・・・・・・・・・・・・・」
「は?」
紛れも無く寝息だった。
そうだ、彼の特技は、 [寝ながら会議に出席すること] であった。
まあ、尤も彼に別れ話をするような度胸もないだろう。
相手を好いているのは彼女だけではないのだから。
「すー・・・・・・すー・・・・・」
単純簡潔にいうと彼は、<眼を開けながら寝ていた>のだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女の手元には、すでに画用紙がスタンバッていたのであった。
後書き。
なんだこりゃ。
ベタネタ。
完成してから見て、ネタがベタすぎだと感じたので無意識に何処かからパクっている話かもしれません。
・・・・空白行多いなぁ・・・・。
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