【61.例えばコンドウさんと僕のお話】

 高校に入学してから一ヶ月が経ったころには、人の名前と顔を覚えるのが得意な僕はクラスメイトの名前をすべて覚えていた。後は一人ひとりの趣味や性格などを把握し、人物の相関図を作るだけである。
 そのことをカタヤマに言ったらありえないと驚かれた。
「先生だってまだ俺らの名前覚えてないだろ。それを一ヶ月とか異常だな」
「本当は入学してから二週間くらいで覚えたけどね」
 カタヤマは目をまん丸にしていた。
 自分の席の周りにいる人たちやカタヤマの趣味や性格を捉えてきたころ、初めての席替えが行われることになった。周りが違うメンバーになれば、また新しく情報が手に入る。席替えは僕にとって楽しみなイベントである。
 くじ引きによる席替えが終わり、僕の席は窓際の最後尾となってしまった。この席では関われる人間が、右隣、前、右前の三人しかおらず、中央の席と比べて損した気分だ。
 皆が移動を始め、僕は指定の位置に座った。この席は関わる人の数こそ少ないが、一般的に特上ランクなのだから我慢しようと思う。
 ふと、僕の隣に座った人を見た。その人は見知った顔だった。
「えっと……コンドウさん、だよね? 同じ中学の」
 隣の席に座ったのは、同じ中学に通っていたコンドウミサキさんだった。コンドウさんとは同じ中学だったけど一度も同じクラスにはなったことはない。それでも僕がコンドウさんを知っているのは、彼女はヤマさんと仲が良いので、その時に何度か顔は合わせていたからだ。
「う、うん。ハセガワ、くんだよね?」
「うん。これからよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
 コンドウさんがはにかみつつ笑みを浮かべた。可愛らしい表情だと思った。
 僕たちが高校で交わした、初めての会話だった。


【62.例えばササキくんとすいか運搬】

 僕とササキくんがよく話すようになったきっかけは二年生の夏休みのこと。一学期は同じクラスだったけれど、彼と関わる機会がなかったのだ。
 夏休みのある日、ヤマさんが僕の家に訪ねてきた。実家ですいかが大量に収穫できたので、おすそわけに来たのだという。
「わざわざありがとう。でも言ってくれれば喜んで貰いに行ったのに。重かったんじゃない?」
「うんん、そんなことないわ。だって私が持ってきたわけじゃないもの」
 ヤマさんの後ろに、不機嫌そうな表情の男子がいた。メガネをかけて野暮ったい服装をしている彼は、まだいくつかのすいかを持っている。
「あ、ササキくんだよね。でもどうして?」
「私とシンゴは幼なじみなのよ」
「え、そうなの! よく話してるなとは思ってたけど」
「家も隣同士よ。中学校は別だったけどね」
 この後、幼なじみについての話を少ししてくれた。隣の家に住んでいる、でも学区の違いで中学は別だった、親同士も仲が良くよく一緒に外食もするなど、思った以上にヤマさんとササキくんは親密な関係らしい。
 ササキくんはまだ三つほどすいかを持っている。重くていらいらしているのか、会話に一切入ってこなかった。
「それじゃ、まだ私すいかを配ってかなくちゃいけないから」
「うん、解った。すいかありがとう。ササキくんも運んでくれてありがとうね。あと、後期からの生徒会長の仕事、頑張ってね」
 ササキくんはぎょっとしたように僕を見た。僕は何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「ほら、ハセガワはすごいでしょう? やっぱりシンゴが生徒会長だって解ってたわ」
 ヤマさんはケラケラ笑って、ササキくんに言う。
 観念したようにササキくんが前に出てきて、僕によろしくと言った。僕の目を真っ直ぐ見ながらも、ばつの悪そうな笑顔を浮かべて。
 それから、僕とササキくんはよく話すようになったのだ。


【63.例えばコンドウさんと僕のお話2】

 今まで関わりのなかった人間と言葉を交わしたいと思っていても、無為な時間を浪費するための相手は多少なりとも気心を知れた人がいい。
「……一時間間違えた」
 目覚まし時計をいつもの時間より一時間早くしてしまい、分針だけを見て行動していた僕は、学校にもいつもより一時間早く着いてしまった。
 家で気付ければ二度寝したのにと後悔しつつ、教室の扉を開ける。
 外では運動部が朝練を行っている人がいるけれど、朝日差し込む爽やかな教室には僕以外の姿は見受けられなかった。
「あれ?」
 僕が自分の席に向かうと、コンドウさんの机に筆記用具と英単語張が広げてあるのを発見した。それと同時に、後ろから声が聞こえる。
「あ、えっと、ハセガワくんおはよ」
 振り返るとコンドウさんの姿。
「コンドウさんおはよう。どうしたの? こんな朝早くに」
「家にいても勉強に集中できないから、早く来て一限目の英単語小テストに向けての勉強してるんだけど、ハセガワくんはどうしたの?」
「目覚まし時計のセット一時間間違えて、気付かずに学校まで来ちゃったんだ。だからやることは何もないんだ」
「それはドンマイだね。でも小テストの勉強はしないの?」
「昨日の夜やっちゃったから、テスト前の数分で良いかと思ってたんだけど……せっかくだし、一緒に勉強しようかな。問題とか出してあげようか?」
「ありがと。あのねハセガワくん、早起きは三文の徳って言うから、きっと何かいいことあるよ」
「そうかな。一文ですらなかなか見つからないと思うけど」
「私はもうあったよ」
「どんなこと?」
「ナイショ」
 コンドウさんはえへへと嬉しそうな笑みを浮かべる。
 その笑顔を見ていたら、こちらもなんだか嬉しい気分になった。


【64.例えばイデさんと屋上の鍵】
 イデさんは屋上の鍵を所持している。
 本来は屋上は立ち入り禁止で、先生が許可しない限り生徒が出入りすることはできない。これはほとんどの高校でそうだと思うのだが、なぜかイデさんはその屋上への鍵を持っている。
「別に悪いことに使ってるわけじゃないしー。授業サボるとかお昼食べるとかのときに使ってるだけ」
 イデさんが管理している鍵は、僕たちもたまに利用させてもらっている。教室よりも屋上で食べる昼食の方が断然美味しいからだ。
 そんなある日、あまりにもいい天気だったので、みんなで昼食を食べようということになり、僕とイデさんが一足先に屋上に到着する。他のメンバーは自販機で飲み物を買ってくるので遅れてやってくる。
 僕たちはシートを敷くための、日の当たるいい場所を探す。屋上は整備がされておらず汚いので、シートを敷かなければ制服が汚れてしまう。
 ふと、僕はたずねた。
「そういえば、どうしてイデさんは屋上の鍵を持ってるの?」
「んー」
 イデさんは少し考えるように視線を空に向けた。遥か遠くの記憶を、空から掬い取ろうとしているように。
「一年の五月くらいかなー。あたしってすごく評判が悪かったから、その評判にのってあたしを金で買おうとしたキモイ先生がいたんだよ。まああたしも乗るふりだけして、先生が言い逃れできないような証拠を手に入れてぼこってやったんだけど……まあ、それをネタに脅して、屋上の扉の合鍵を作らせてもらったってわけ」
「それ、ほんと?」
 僕が驚いたように言うと、イデさんはニッといたずらな笑みを浮かべた。
「なーんてね。冗談冗談。アッキー簡単に騙されちゃだめだよー。よっし、ここにシートしこーよ」
 イデさんは僕から青色のシートを奪うと、汚い屋上にバッと広げた。空と溶け込むように解き放たれたシートは、青空の色を自分の色にしてふんわりとコンクリートへと落ちてくる。
 イデさんが笑っているのなら、これ以上たずねるのは野暮と言うものなのだ。


【65.例えばコンドウさんと僕のお話3】

 僕たちはよく会話を交わすようになった。
 休み時間中、話しかけてくるのはもっぱら彼女のほうで、目的がないと会話しない男性と、会話をするために会話する女性との差が出ていた時間だったのかもしれない。
「ハセガワくんってさ、中学の頃、恋愛に関してかなりの情報通だったんだよね?」
「恋愛に関してというよりは人間関係についてかな。初めは意中の相手の周りの人間模様を教えてただけなんだけど、数を重ねるうちにどうアドバイスすればいいか解ってきて、成功を重ねるうちに噂になって……と言う感じで、たくさん相談受けるようになったんだ」
「じゃあ、今のクラスの人間関係とかも解ったりする?」
「ある程度解るけど、まだ日が浅いから、誰と誰が仲がいいくらいしか解らないかな」
「誰が誰を好きとかも解るの?」
「うん解るよ。人は誰かを好きになると、どうも行動パターンが普段とずれるんだよね。具体的には言えないけど、僕には何となく解るんだ」
 コンドウさんは突然表情を強張らせた。何か覚悟を抱いているようなそんな目をしている。
「じゃあ、私が誰を好きとか、解る?」
「いるの?」
「た、例えばの話! いるかいないかはおいといて、いそうだと思う?」
 コンドウさんの学校生活での彼女の挙動を、今まで恋をしてきた人たちに重ね合わせてみる。
「解らない。いそうだけど、具体的に誰と言われるとわからないし……」
「そっか、それならいいんだ」
 コンドウさんは打って変わって、晴れやかな表情になった。
 こういう表情の変化から心情の変化を読み取れないのは、まだまだ僕の経験不足なところだ。


【66.例えばモチダとフーセンガム】

 僕、カタヤマ、モチダ、ササキくんの四人で試験勉強会を開くことになり、学校から一番近い僕の家に集まった。
 成績のよい順で並べると、モチダ、僕、ササキくん、カタヤマになる。モチダはだいたい学年10位、僕は学年30位、ササキくんは学年平均を超えるくらいの成績なのだが、カタヤマの成績は下から数えたほうが圧倒的に早い。この勉強会は、カタヤマのために開かれたといっても過言ではない。
 一時間くらい経った時だろうか。僕がカタヤマに古文を教えているとき、ササキくんは言った。
「モチダくん、いい加減ガムを変えたらどうだい?」
 世界史のプリントとにらめっこしているモチダはガムを噛んでいる。フーセンガムなのだが、勉強を開始する時に口に含んで以来、ガムを変えてもいないし、膨らませてもない。
「変えたってまた味がなくなるだけだ」
 モチダは教科書を見続けながら、味のないだろうガムを噛み続けている。
「モチダはフーセンガムが膨らませられないんだろ」
 カタヤマが身を乗り出して言った。
「わざわざ外気に触れさせることもないだろ。気持ちが悪い」
「どうだか。じゃあどっちが大きく膨らませられるか勝負だ!」
「解った」
「お前らも参加な!」
 流れのまま、勉強会がフーセンガム膨らませ大会へと変貌してしまった。
 僕とササキくんも無理矢理参加させられ、男四人が一つの部屋の中、無言でくちゃくちゃとガムを貪り噛む。
 やがてカタヤマが火蓋を切ってガムを膨らませ始めた。勝負を挑んだだけあって、膨らませ方を緩やかに、確実に大きくさせていく。モチダもカタヤマに続き、ササキくんもそれに続いた。
 大きさを見てる奴がいないのに、勝敗って誰がどうやって決めるんだろうと思いつつ、僕も膨らませ始める。
 僕はあまりフーセンガムを膨らませるのは得意ではない。苦戦しつつも、自己記録、鼻の頭にかかるくらいに大きくなったと思ったら、パフとマヌケな音を立ててつぶれてしまった。空気が抜けて、引き伸ばされたガムは僕の口の周りにべったりとへばりつく。
 ガムがへばりついた僕の顔を見て、ササキくんがプッと吹き出した。ガムを膨らませていた最中、均衡の崩れた息が吹き込まれ、ガムの風船が破裂する。ササキくんは結構大きく膨らませていたので、ガムが顔を侵食した面積は広い。
 僕たち二人の顔を見て、カタヤマもモチダも吹かずにはいられなかった。あっという間に二人の風船もつぶれ、顔面にガムがへばりついた。
 僕たちは顔を見合わせ、誰が勝ちとかなんて関係なく、顔面のガムもはがさずに腹を抱えて笑いあったのだった。


【67.例えば僕とコンドウさんのお話4】

 中間考査が終わり、テストが返却されてくる。国語はかなり出来がよく、世界史があまりよくなかった。世界史の勉強時間があまり取れなかったのがわかりやすい原因といえよう。他の教科はそれなりの点数だったので、世界史はもっと勉強しなくてはいけないなと考えさせられたテストだった。
 しかしそんなことより、僕はテストが返されるたびに落ち込んでいくコンドウさんが気になってしょうがなかった。先生から答案用紙を受け取る時には点数を見ずに丸めて、机に戻ってから恐る恐る点数を見て、がっくりと肩を落とす。毎回動作をオーバーにやるものだから、コンドウさんには悪いけれど何度も笑いそうになってしまった。世界史だけはガッツポーズをとっていたけれど、それ以外の結果は惨憺たるもののようだ。
「テストどうだった?」
 机に突っ伏したままのコンドウさんに聞いてみた。コンドウさんは体勢をそのまま、顔をこちらに向けて答える。
「まあまあだったよ」
 台詞が棒である。
「僕もまあまあかな。世界史がちょっと悪かったけど」
「私は世界史はよかったよ」
「何点だった?」
「えっと……56点」
 世界史の平均点は52点。コンドウさんは平均点をちょっと超えただけでガッツポーズを取っていたのか。
「ハセガワくんは?」
 僕は答えに窮した。僕が取った点数は61点。正直に言ってしまえば嫌味になりかねない。でも嘘をついたところでどうにもならないので、正直に点数を答えた。
「いいもんいいもん。ハセガワくんが頭いいのは知ってるし」
 コンドウさんは口を尖らせ、解りやすく拗ねてしまった。何かフォローを入れる場面なのだろうけれど、いい言葉が思い浮かばない。
「コンドウさんがいいなら、僕が勉強教えてあげるよ? 数学に関してはお互いに教えあうことになるけど……」
「いいの!?」
 コンドウさんは勢いよく体を起こし、期待に満ち溢れた目を僕に向けた。予想外の反応にたじたじになる。
「できる範囲ならだけど」
「それなら、その……」
 コンドウさんはふと視線を伏せ、苦笑いを浮かべつつ、上目がちに恥かしそうに呟く。
「物理と英語両方と数学両方がその、赤点だったから追試のために教えてくれると、うれしいな」
「……多くない?」
「だって高校のテスト難しいんだもん……」
 クラスメイトの危機的状況に知らんぷりできるはずもなく、男に二言はないと言わんばかりにコンドウさんに勉強を教え、コンドウさんは何とか追試を乗り切ったのであった。

 僕の勉強を受けているコンドウさんはなんだか楽しそうだったので、どうして成績が悪いのか不思議だ。


【68.例えば友人と経過報告】

 金曜日の夕方、僕はすでに学校から家に帰ってきたとき、カタヤマから携帯に電話がかかってきた。
『今学校なんだが……今からお前んち行っていいか?』
「別に来てもいいけど、大丈夫? カタヤマすごい沈んだ声してるけど」
 耳を押し付けないと聞き逃してしまいそうになるほど小さく、そのまま消えてしまいそうな声だ。今から自殺すると言い出してもおかしくない。
『ちょっといろいろあって……いや、むしろ何もなくて……』
「どうしたの? 何があった?」
『……とりあえず今から行くわ。それから話す』
 たったこれだけの会話で電話が切れた。
 いったい何があったのだろうかと不安になりつつも待っていると、三十分後くらいにインターホンがなり、僕は慌てて玄関に出た。
 なんだか真っ白に燃え尽きたように肩を落としたカタヤマが現れた。こんばんはと言う挨拶の声すら灰のように脆そうで、今のカタヤマは凹んでいる男の代名詞になりうる。
 理由は何だろうか。タカハシさんがらみだとしたら、告白して玉砕したのかとも考えたが、それなら事前に僕に一言くれてから告白するはずなので違う。タカハシさんには彼氏がいたとか僕の情報不足によるものだったりしたら申し訳がない。
 とりあえずカタヤマを自分の部屋に連れて行き、粗茶を出した。カタヤマは熱いお茶を一気に飲み込んで、思い切りむせた。
「大丈夫?」
「ああ、こんなもんへでもねー」
 湯飲みを机に叩きつけるように置き、服の袖でぐいと口を拭ったカタヤマは、深呼吸を一度、ゆっくりと話し出した。


【69.例えば友人と経過報告2】

「相手してくれないんだ」
 うつむきながら、カタヤマは言った。
「お前が言ったように謝ることをきっかけに話しかけようとしたんだけど、挨拶しても無視されるし、名前を呼んでも何もなかったように通り過ぎるし、日が悪かったのかと思って次の日話しかけても見事にガン無視だぜ? 何とか今週いっぱいは頑張って話しかけてみたんだけどさ、俺の存在は本当にこの世にあるの? ってくらい完膚なきまでにシカトされて、なんだかもうトラウマだよ……。今ハセガワと会話できてることが何よりの薬だ」
 心を大きく抉られてしまったらしい。カタヤマをここまでにするなんて、タカハシさん恐るべし。
「と言うことでさ、今日泊まってっていいか? 酒飲んで騒ぎたい」
「お酒は未成年だからダメ。それに、明日は僕早いから泊まるのはちょっと……」
「安心しろ。お前の予定はすでになくなった!」
「え?」
 明日はミサキと出かけようという話になっていた。それがなくなったとはどういうことか。
「ここに来る前にコンドウにはすでにメールを入れておいた。お前この俺の状況を無視してデートするつもりだったそうだな」
「ごめん。デートって決めたときにはまだカタヤマの状態知らなかったし……」
「まあそれはいいんだ。でもハセガワの家で遊ぼうとお願いしたら喜んで了承してくれたぜ!」
 落ち込みすぎてカタヤマのテンションがおかしなことになっている。この強引な行動力を止められる気がしない。
 デートもまあ、ミサキがなくてよいと言うのならそれでいいけれど。
「後ササキにもヤマモトにも連絡しておいた。確かあいつらお前と家近かったもんな。あいつらも来るぜ!」
「もしかして、モチダとイデさんとかも呼んだりした?」
「よく解ったな。あいつらは家が遠いから遅れるけど来るって言ってたぜ」
「………」
 絶句。

 この日、僕の家ではプチパーティが開かれることになった。これでカタヤマの気分が晴れるなら、今日は騒いで良かったなとは思う。
 それにしても、タカハシさんは相当の変わり者だということで、これからどうしていいのか僕にも皆目見当がつかない。
 それこそ本当に、あちらから接触してくれればいいのだが、やはり難しいのだろうか。


【70.例えば僕と好きなもののお話】

 クラスに一週間もいれば、クラスメイトの顔を覚える。
 クラスに一ヶ月もいれば、クラスメイトの名前を記憶する。
 クラスに一学期もいれば、クラスメイトたちの関係が解る。
 クラスに一年間もいれば、クラスメイトたちの性格を把握できる。
 全部『一』で揃えてみたけれど、本当は半分くらいの期間でそれらのことが可能である。
「もはや才能だよね」
 ミサキは言った。
「私は名前覚えるの苦手だから、半年かかってもクラス全員の名前を覚えられないよ。普通の人でも一ヶ月で覚えちゃう人はほとんどいないでしょ」
「ミサキは一年の頃、男子の名前全員覚えてなかったよね」
「そ、それは……関係ないでしょ!」
 人の表情を見るのが好き。
 人の言葉を観察するのが好き。
 人の流れを捉えるのが好き。
 人の繋がりを眺めるのが好き。
 好きなことの繰り返しで、僕の人物情報は自動的に埋まっていく。
「単に自分の好きなことをしてるだけなんだけどね」
「それでもすごいよ。他の人の恋愛を助けてるのも、アキヒトくんが好きなことなの?」
「うん。恋愛を通して、人間のさらに深いところを知ることができるからね」
「うわー。それはちょっと悪趣味かも」
 初めは本当に、情報を得たいだけだった。趣味を補完できるから、人の恋愛に首を突っ込むのが楽しいと思っていたのだ。
 でも、中学で初めて友達の恋愛を成就させた時、そんな考えは消えた。その友人の幸せそうな笑顔が忘れられなかった。
「今は、皆が幸せそうに笑ってくれるのが嬉しいからなんだよ」
「私が笑っても嬉しい?」
「うん。ミサキが笑ってくれるのは、どんな人が笑うのより嬉しいよ。と言うことで、笑って?」
「ええっ、いきなり? えっと、ええーと……」
 ミサキは恥かしがりながら、ぎこちなくも笑顔を浮かべてくれた。
 こんな彼女が、僕は好きで好きで、たまらないのである。


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HR(独り言ルーム)

61.例えばコンドウさんと僕のお話
 やっぱりこういう初々しい話は書いてて楽しい。
 コンドウさんがハセガワくんの名前を元から知っていたのは中学の頃から好きだったからと言う地味な伏線回収。誰も気付かないよね!
 ちなみに、「僕」の中では「中学の頃はそれなりに知られてたし、名前知っててもおかしくないよね」と言う心境であんまり深く考えてません。
62.例えばササキくんとすいか運搬
 マッスルササキ。ごめん。
 ササキくんとヤマさんはかなり仲が良いのですよ。
63.例えばコンドウさんと僕のお話2
 第二弾。コンドウさんがわかりやすいのに僕が鈍感すぎて身もだえしそうです。
64.例えばイデさんと屋上の鍵
 ちなみに、特別棟校舎の屋上です。鍵が手に入った経緯はやる予定はありません。皆さんの想像通りのものなので。
 僕との絡みだとイデさんの話を掘り下げづらいのが残念。
65.例えばコンドウさんと僕のお話3
 第三弾。
 自分への好意が解らない設定なのでもうどうしようもありません。
 それにしてもこの僕とコンドウさんの組み合わせ可愛いよねぇ。大好き。
66.例えばモチダとフーセンガム
 モチダとササキくんの性格がかぶりそうだったんですが、そうでもなかった。
 喋り方も、モチダは哲学的、ササキくんは理屈的。性格は、モチダは悲観的、ササキくんは楽観的です。
67.例えば僕とコンドウさんのお話4
 第四弾。ミサキは頭悪いのです。
 付き合ってからは勉強を見てもらっているので、まあなんとか……な状態。
68.例えば友人と経過報告
69.例えば友人と経過報告2
 俺の中でもタカハシさんのキャラが迷走してたんですが、ようやく固まりつつあります。
 タカハシさん登場前なので、全キャラを集合させて騒がせました。こいつらはみんな仲が良いのですよ。
70.例えば僕と好きなもののお話
 登場前なので、僕のことも掘り下げました。僕とミサキがバカップルすぎてどうしようもない。

 タカハシさん登場直前と言うことで、68、69以外の話では「笑う」をテーマに書きました。
 本当はヤマさんの話できちんとヤマさんも笑わせたかったんですが、62で笑ってるしいいかと言うことで経過報告を分割。
 70を持って、序章は終了。
 ようやく本編といった感じになります。と言う設定。相変わらず下らない日常は続くよー。

 ちなみに、女性陣をも合わせた成績のよさは、最低300位だとして
 タカハシ>モチダ≒10位>ハセガワ≧30位>50位>100位>ヤマモト≧ササキ≧150位>200位≧コンドウ>250位≧カタヤマ>イデ
 になっております。タカハシさん断トツ。他の追随をゆるしません。
 モチダとハセガワの成績は近くなる事はありますが、順位が入れ替わることはありません。
 ヤマモトとササキはよく入れ替わる。100位以内に入ることもあれば、150を超えてしまうこともあり安定してない。
 コンドウは、ハセガワのおかげで200を切りそうで切れないところまできてます。ハセガワいなきゃ恐らく片山と同等かそれ以下。
 カタヤマとイデはデットヒート。でも基本カタヤマの方が上。
 イデは時たま驚異的な運により150位くらいまでいったりする(マークシートとか)。
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