【51.例えば彼女と翠の雪】

 僕は彼女が寝静まるまで抱きしめて続けた。夜も深かった。雪はもう降っていなかった。雑音は雪に飲まれ、彼女の心の音だけが僕に響いた。
 彼女は安らかな寝息を立て始めた。僕は抱きしめる手を緩め、彼女の鼻を掠め頬をなぜた。
 ミサキと名前を呼ぶたびに、ごめんねと泣いた彼女の声が耳に残る。
「ごめんね」
 今度は僕が言った。
「あまり深入りしないことが、適度な距離を保つのがずっと一緒にいるために必要だと思ってたけど……」
 彼女の涙のあとにキスをする。
「知りたいんだ。どうしても。君が好きだから。愛してるから」
 本当は、すでに目星はついている。
 知るのが怖いのは、君を離したくないから。
 知りたいと願うのは、君を求めたいから。
 僕も眠りについた。
 朝には光も差すだろう。


【52.例えば生徒会長と七不思議】

 うちの高校の七不思議のうちの一つが、生徒会長の怪だ。
 モチダが副生徒会長になった年の生徒会長なのだが、学年や名前は解るものの、どのクラスを見ても生徒会長がいないのである。生徒会選挙の時や他の重要な式典の時には確かにいたのだから、二学年のどこかにいるのは自明なんだけれども、学校のほとんどの人間が生徒会長が誰なのか解っていない状態だ。
「ハセガワくんは、生徒会長が誰か知ってる?」
 二年の秋、他のクラスの女子が話し掛けてきた。僕の人間関係情報通ぶりは他のクラスにも届いている。
「ササキくんでしょ?」
「名前は知ってる。そうじゃなくて、どのクラスのどの男子とかさぁ」
 最近、生徒会長が誰なのかを探る女子が多くなってきた。七不思議の一つに認定されているということと、なにより公の場に出てくる生徒会長は、明るくて爽やかな好青年なのだ。容姿だけ見れば、趣味はピアノかダンスなど上品なもの、性格も温厚で人当たりがとても良さそう。出没頻度のレアさから、生徒会長のファンが着実に増えつつあった。
「ごめん、どのクラスかは僕も知らないんだ」
「そっかー、残念。また聞きに来るね」
 女子は僕の元から去っていった。やっぱり都市伝説なのかなぁと呟きながらクラスを出て行く。
「ハセガワくんは嘘つきだな」
 黒縁の眼鏡をかけた男子が話しかけてきた。
「そっちが嘘ついてくれって頼んでるんでしょ」
「解ってるよ。助かる助かる」
 話しかけてきた男子は前髪が眼鏡にかかるほど長く、制服が身丈より一回り大きい正で、どことなく野暮ったい容姿をしている。彼は人見知りで、自分の興味のない人間にはとても無愛想。超をつけてもおかしくないほどインドア派の彼は、いつでもどんなときでもゲームのことしか考えてないオタクである。本人はゲーマーだから間違えるなと言っていたけど。
 巷に蔓延っている生徒会長の容姿や性格とは正反対の彼だが、何を隠そう、彼こそが我が高校の現生徒会長なのだ。


【53.例えば生徒会長と僕のお話】

 生徒会長の名前はササキシンゴ。二年生で同じクラスの男子である。
 普段はぱっとしない高校生、だがみんなの前では爽やかな好青年、二つの人格を使い分けている人物だ。
 ササキくんとは同じクラスだったけれど、モチダの紹介で彼を知り、ヤマさんを通してようやく仲良くなったのだ。それまで彼と話した回数は少なかったが、今では気軽に話せる友達になっていた。
「いつもメガネ外してワックスつけてくればいいのに」
 彼の素体は元より悪くない。メガネをコンタクトにし、髪さえ整えればそれだけで好青年になるのである。そこに加えて、口調と言葉遣い、態度まで変化させたら、全校生徒の憧れの的である生徒会長が完成するのだ。
「いつも生徒会長でいたら、俺が安らぐ暇がないだろ。生徒会長は容姿と性格あっての役なんだ。つまりメガネをはずすってことは、性格も変化させなくちゃいけないってことなんだよ。わざわざ高校生活すべてで疲れることをする必要もないだろ? クラスでくらいゆっくりしたい、だから君に僕の招待をばらさないように頼んでるわけで」
 こんなことを言っているが、彼は恐ろしいまでにリアリストだ。
「で、いつ噂が広まるか楽しんでるんだよね」
「まあ、そういう設定の方が楽しいだろ? いつばれたっていいし、そんときはその時で楽しむ予定だしな。ただハセガワくんや僕を知ってる人から周りに漏れるのは、それは興醒めってもんだろ」
 彼のことを知っている人間は、先生を含めても二桁に達するかどうか。僕とモチダとカタヤマと、ミサキとイデさんとヤマさんに、先生が四,五名という奇跡の数字である。一応彼らにも緘口令を言い渡してはいるとはいえ少なすぎる。
 この人数の少なさは、『ササキ生徒会長』と言う音を当てにして、名簿で『佐々木』を捜す人が多いことに起因する。彼の苗字は『佐崎』なので、名簿を見ただけでは判別ができない。
 生徒会長を知る先生は、彼のことを二重人格だと言っていた。あれだけ器用に性格を使い分けられるなんて、二つ性格があるんじゃないかということだが、彼はそれを鼻で笑って否定した。
「二重人格なんてとんでもないね。それは他人が勝手に俺を画一付けようとして、それが統合できないからつまらない単語を使って俺をくくってるだけだ。生徒会長やってる俺も家の薄暗い部屋でゲームやってる俺もササキシンゴそのものじゃないか」
 理屈っぽいことをつらつらと語るのも彼の特長だ。
「ええと、薄暗い部屋でゲームは止めたほうがいいと思うよ。目が悪くなるし」
「……君って絶対面白い奴だよなあ。それならもっと早くから関わっておけばよかったよ」
 よく解らなかったけど、褒め言葉だと受け取りありがとうと言った。ササキくんはキツネにつままれたような顔になったあと、堪えられなくなったように破顔するのだ。 


【54.例えばササキくんと腕相撲】

 ゲーマーの基本は体力だという。ササキくんは言った。
「ゲームと向き合うには体力が必要なんだ。ゲームをクリアするのに二徹三徹は当たり前だけど、本業である学問を疎かにしないということは絶対条件だ。欲しいゲームソフトを手に入れるために極寒の冬でも構わず前日から列を作ることだってあるし、早売りする店までどんな手段を使ってでも赴かなければいけないこともある。体力がないとやっていけないよ」
 彼は毎日最低一時間のランニングを行い、休みの日にはジムにも通っているらしい。腕を見せてもらうと、インドアの人間とは思えないほどのスリムで無駄のない筋肉がついていた。
 そんなある日、クラス内で腕相撲大会が起こった。先生に急用が入り、その時間が自習となってしまったのだが、暇を持て余した男子がクラスの隅で始めた腕相撲が、体育会系の連中を囲ってトーナメント形式で行われるまでに発展した。
 参加者は十名前後。僕とササキくんは遠巻きに見ているだけで、参加はしなかった。
 トーナメントは終わり、だいたい予想通り、野球部でボウズの男子が優勝した。すると今度はその男子が周りの迷惑も考えず、クラスの人間を何人抜きできるかの挑戦となった。
 今まで戦ってきて疲れていたのだろう。文科系の弱そうな男子を物色しはじめ、僕たちに目をつけてきた。
「いいよ、俺がやろう」
 ササキくんが受けてたった。ササキくんは身長がそれほど高くないので、がたいのいいボウズの男子と組み合うと、それだけで敗者の姿に見える。
 レフェリーからゴーの声がかかった。勝負が始まると、ササキくんが劣勢だなんてとんでもなかった。互角の攻防で、行ったり来たりのシーソーゲームとなる。互いに顔が真っ赤になり、そして僅差でササキくんが敗れてしまった。
 そのあと僕も戦うことになったが、僕はあっさり負けた。
「ササキくん惜しかったね。もう少しで勝てそうだったのに」
「やっぱりそう見えたよな。本当はもう少しすんなり負ける予定だったのに、途中で勝とうかという考えが浮かんで、つい決着を引っ張ってしまったよ」
「え?」
 僕たちに勝利したボウズの男子は、また次の獲物を探している。しかしササキくんとの激闘で腕が疲れていたのか、文科系の男子数人相手にしただけで負けてしまった。
 対して、ササキくんに疲労の色は見られない。あれだけ激闘を繰り広げたのに腕を痛そうにもしていない。
「ササキくんもしかして……」
「この容姿のまま勝ちを得ても価値がないだろ。全力は生徒会長のときに出さないとな」
 ササキくんは意味深で、満足そうな笑みを浮かべたのだった。


【55.例えばササキくんと生徒会長】

 冴えない彼が生徒会長へと変身を遂げるためのアイテムはワックスと鏡だけだ。
 彼が生徒会長の仕事があるときは、その二つの道具を持ってトイレに篭る。するとカップラーメンが出来上がる三分ぴったりで扉が開き、そこに生徒会長が現れる。
「ササキくん、また仕事?」
「はい、そうなんです。そろそろ体育祭関係の書類を上げなければいけないから、最近は毎日生徒会室詰めなんですよ」
「ササキくんも大変だね」
「大したことないですよ。なんたって部下が優秀ですからね」
 こっちのササキくんは丁寧語を使い、柔らかい口調で穏やかに喋る。仕事振りも完璧で、なんでもテキパキこなすし、どんな仕事も何でも引き受けるので先生受けもよい。いつでも爽やかな笑顔を絶やさず、強きをくじき弱きを助けるをモットーにしている、まさに生徒会長の鑑である。
 生徒会長の彼は、出現率のレアさも絡み女子からの人気も高い。一緒に歩いていると、女子から彼に視線が向いているのが解る。生徒会長の姿は、憧れの王子様像として写っているのだろうか。「女子からの視線がすごいね」
「そうですね。俺なんかにはもったいないほどですが」
「先生からの人望も厚いし」
「その期待にもっと応えられるように働かないといけませんね」
「なんというか、さすがだね」
 ここまで完璧にキャラクターが別物だと、本当のことを知っている僕ですら疑心暗鬼に捉われることがある。
 ササキくんが生徒会室に入る前に、僕にだけ聞こえるように言った。
「騙される人が悪いんじゃないですか?」
 それでも、爽やかな笑顔で言い切った生徒会長を見ると、やはりこれはササキくん何だなぁと思わされるのだ。


【56.例えばササキくんとヤマさんのお話】

 ササキくんとヤマさんは仲がいい。
 普段女子とは絶対に喋らないササキくんも、ヤマさんのことを『リサ』と下の名前で、ヤマさんもササキくんのことを『シンゴ』と下の名前で呼び、親しそうに喋っている。
「幼馴染なんだ」と彼は言った。
 家が隣同士で親同士も仲がいいもんだから、小さい頃から二人でいる時間が長かったそうだ。
「私生活の半分はリサと一緒だったからね。どっちがどっちの家か解らないくらいに出入りしてたし、互いのプライバシーなんてあったもんじゃない、長所から欠点から飽きるまで羅列できるよ。同じ釜の飯を食った同士、もはや家族同然、俺とリサの仲が悪いわけがないんだ。もうお互いに無遠慮でやりたい放題だよ。特にリサ側は酷いけどな。親しき仲にも礼儀ありと何度も言い聞かせたんだが、態度が一向に軟化しない。そういや俺が新品で買った携帯ゲーム機をただ同然の値段で買われたことがあったりもしたな……」
 このようにササキくんとヤマさんは幼なじみだ。ただし、僕はヤマさんと中学が一緒だったけれど、ササキくんとは一緒の中学ではない。ササキくんとヤマさんの家の中間がちょうど学校区分の境目だったからだ。一緒の学校に行きたいと言えば変更は可能だったけれど、別に学校生活まで同じじゃなくていいだろうということで手続きは踏まなかったそうだ。
「学校が違っても、休みの日は互いの部屋でだらだらごろごろしたりもしてたんだ。学校が違って逆に良かったと思うよ。今は同じ学校だけど、まあ予想通りよく会うし話はするし、登下校が重なることも多くてさ。あいつモテるから俺が変に嫉妬されて困るんだ」
 ヤマさんは気さくな性格ゆえに、男女から人気は高い。僕のところにもヤマさんが好きだということで恋愛相談が何件か来たことがあり、そのたびに出るのがササキくんと付き合ってるの? という質問だった。
「そもそもあいつが好きなやつは、なあ、ハセガワくんも知ってるだろ?」
「知ってるけど……やっぱりササキくんも知ってるんだ」
「ああ。あいつは誰かを好きになっても誰にも相談しないんだ。もちろん俺にもな。しかもそういう素振りをなかなか見せないから、ハセガワくんみたいによっぽど観察眼がないと気づかない」
 いつも近くにいるミサキもイデさんも、ヤマさんに好きな人がいることに気づいていない。
「ただ、俺がリサのことで解らんことはないからな。誰が好きかなんて朝飯前で解る」
「僕も手伝ってあげたいけど、相手が相手だしね」
「そうなんだよ。好きになる相手を選べばいいものをな」
 ササキくんは苦笑した。
「あいつはいっつも、報われない恋をしてるんだ」
 そして寂しそうに笑うのだ。


【57.例えば僕らとラーのお話】

 高校の近くには、安くて美味しくて量の多いラーメンを出してくれるお店がある。はやっても良さそうなラーメン店なのに、店の風体や店舗の場所が悪いせいで、客の入りがよいとは言えない。
 高校一年のころにカタヤマがこのラーメン店を見つけて、僕とモチダが誘われ、二年二学期になるとササキくんも一緒に来るようになる。部活後や小腹がすいた時、学校帰りに寄っていくのだ。
 今日は珍しく帰宅の時間が四人そろったのでそのラーメン屋に向かうことになった。
「俺チャーシュー!」
「俺は醤油に豚の角煮で頼む」
「じゃあ僕は天然塩とワカメのラーメンで」
「俺はどうしようかな。おすすめのしじみらーめんにするか」
 四者四様のラーメンを注文し、今日の授業の文句を述べながら待っていると、ほとんど四つ同時にラーメンがやってくる。
 モチダは相変わらず大量の胡椒をラーメンに投入していく。僕たちはその儀式を見守り、自分のラーメンへと取り掛かる。
「そういえば」僕は言った。「みんなは目玉焼きに何をかける?」
 カタヤマがチャーシューをくわえながら喋る。
「ん? 何か派閥の話?」
「まあそんな感じかな」
「んー、俺はソースが好きかなぁ」
 カタヤマはソースラー。
「モチダは胡椒だよね」
「ああ」
 言わずもがな、モチダは胡椒ラー、いやペッパラーとでも言うべきか。
「ササキくんは?」
「俺は何もかけない派。コロッケとかてんぷらとかもそのまま食うし。ところでそんなの聞いてどうするんだい?」
 何もかけない場合は何ラーと呼べばいいのだろう。後でヤマさんと相談しなくてはならなくなった。
 一人悩み始める僕に、他の三人は怪訝そうな顔をするのだった。


【58.例えば彼女と風邪っぴき2】

 寝ぼけて外に飛び出した彼女を抱え、部屋に運び込み布団に寝かしつけた。熱はすでに引いており、息遣いは穏やかだ。
 僕はお見舞いに持ってきたようかんを冷蔵庫にしまった。ミサキの家で飼っている猫たちが、腹をすかせたのか僕に擦り寄ってきたので、棚から猫の餌を取り出してお皿にいれてやった。この猫たちは、何度もこの家に訪れる僕に慣れている。最初は撫でられるのすら嫌がっていたが、今では心行くまで撫でさせてくれる。
「今は食事中だからってのもあるけどね」
 猫たちから離れ、すやすや布団で眠るミサキの横に座る。僕がミサキの看病に来ることは稀ではない。今日は微熱ということで学校が終わってから来たが、彼女の容態によってはサボって看病に来ることもある。今回はもう風邪が治ってるようなので特に看病をする必要はないが、彼女が目覚めるか、彼女の母が帰ってくるまで側にいてあげたいと思う。
「アキヒト……くん……」
 ミサキの寝言だ。悩ましげな表情を浮かべながら自分の名前を呟かれると照れくさい。どんな夢を見ているか解らないが、寝顔から悪夢ではなさそうだ。
 じっと、無防備で可愛い彼女の顔を見つめていたら、つい衝動に駆られ、僕は彼女が起きないようににそっと顔を近づけた。
「……うん、これなら怒られないかな」
 やはり、寝ている人の顔にラクガキが定番だろう。
 水性ペンで描くあたり、僕はとても良心的なのだ。


【59.例えば友人とサイコロのお話】

 二年のある日、カタヤマと共に昼飯を食べているとき、彼は箸を持ちながら舟をこぐほど眠そうにしていた。食後も変わらず眠そうだったので、僕はその理由を聞いてみた。
「実は、最近あんまり寝てないんだ」
「どうして?」
「サイコロあるだろ? ハセガワはさ、五つを同時にふって、1のゾロ目が出る確率はわかるか?」
「えっと……6の五乗だから……」
 携帯の計算機を使ったら、7776と出た。
「1/7776だよね」
「そうだよな、1/7776になるよな。合ってるよな」
「それで?」
「だからさ、7776回サイコロを振れば、サイコロ五個で1ゾロが拝めると思って、毎日頑張って夜な夜な振ってたんだよ。まあ昨日でようやく6000回振ったからさ、後2000回も振らずに7776回には到達するんだ。今日やれば1ゾロが拝める計算だから、そうすりゃ苦労が報われるってもんだ……」
 僕は首を傾げた。確率が足していけるならその解は正しいけど……。
 僕はこの友人に、本当のことを伝えていいのだろうか。残酷な真実を教えるべきなのだろうか。友人は今日の夜に向けて今を全力で過ごしている。その彼の努力を無に帰す答えを述べていいのだろうか。
「あのさ、カタヤマ……」
「大丈夫、1ゾロが出たらシャメにとって送ってやっから。楽しみにしておけ!」
 友人は、ゴール目前といったような、もはや誰にも打ち砕けない満面の笑顔を浮かべていた。
 僕は真実を伝えることができず、奇跡が起こるのを願うだけだった。

 翌日、確率の真実を知ったカタヤマが砂になったのは言うまでもない。


【60.例えばイデさんとサイコロのお話】

 休み時間、僕はサイコロを転がして遊んでいた。カタヤマから譲り受けた五個のサイコロだ。
 サイコロの1の目が出る確率は1/6だけど、6回投げたからと言って必ず1が出るわけではないと言うことは、数学で確率を習ったときに教わる基礎的なことだ。
 五個振ったときに1ゾロが出る確率は1/7776だけど、7776回振っても出ないことだって当然ある。下手をしたら100万回振っても出ない可能性だってあるのだ。
「なにやってるの?」
 イデさんが話しかけてきた。
「サイコロ五個振って、全部1にしようとしてるんだ」
 僕は先日、カタヤマが1ゾロを出そうと夜な夜なサイコロを振り続けたことを伝えた。
 イデさんは確率のことをきちんと解っているらしく、カタヤマの愚行を失笑気味に聞いていた。
「やっぱバカはバカだね。あいつはバカだから、きっと数え間違えて7775回しか振らなかったんだね。どうして数え間違えてるって思わなかったかなー?」
 やっぱり解っていなかった。とんでもなく履き違えていた。しかもカタヤマよりひどいレベルで理解している様子。
 イデさんは突然叫んだ。
「あ、そうだ! あたしが今振ればちょうど7776回目かもしれないってことだよね!」
 イデさんは僕から五個のサイコロを取り上げ、机にサイコロを転がした。サイコロはぶつかり合い散りながら、賽の目を変えていく。
 机の上の光景を見て、僕は目を疑った。サイコロがすべて赤いぽっちが一つある、1の面を上に向けていたからだ。
「やっぱり7776回目だったじゃん。あたしすごーい」
 凄すぎて言葉が出ない。喜ぶイデさんと、赤い五つの目を見比べ、僕は苦笑するしかなかった。
 豪運の前に確率は無力なり。


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HR(独り言ルーム)

51.例えば彼女と翠の雪
 初めは、『突き上げるたびに、ごめんねと泣いた―』という文章でした。
 直接的過ぎたかと思い変更。別にこれくらいよかったかなー?
 そして色の選択が難しくなってきた件。
52.例えば生徒会長と七不思議
 これで八人目。主要登場人物は全員そろいました。
 ササキシンゴ。漢字で書くと佐崎進吾です。
53.例えば生徒会長と僕のお話
 モチダの上司と言うことで。
 あんまり非現実的な事はやりたくなかったんですが、でもこれくらいいいよね?
 理屈っぽいキャラは書いてて楽しい。自分がちょっと理屈っぽいし。
54.例えばササキくんと腕相撲
 腕力なら恐らく学校最強のゲーマー。
 ただし、喧嘩とかそういう技術的なものは苦手設定。
55.例えばササキくんと生徒会長
 主人公ですら不安になるくらいの変貌ぶり。
 生徒会長の学内での出現頻度ははぐれメタル並です。倒したら経験地仰山です。
56.例えばササキくんとヤマさんのお話
 幼なじみ。幼なじみの関係を書くのは二回目かな。
 ただし、こちらは恋愛関係にはありませんが。
57.例えば僕らとラーのお話
 まるでラーのバーゲンセーry
58.例えば彼女と風邪っぴき2
 何と書いたかは3で
 寝言で名前を呟かれるってなかなかだと思うんです。
59.例えば友人とサイコロのお話
 五つゾロ目とか出してみたい。
 確率上だと頑張れば出そうな気もするんですけどね。
60.例えばイデさんとサイコロのお話
 続サイコロ。
 運気ではイデさんには敵いません。
 ちなみに、イデさんの方がカタヤマより成績は悪いです。
 それでもイデさんにバカと呼ばれるカタヤマ……。

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