【41.例えばカノ友と僕のお話2】

 ミサキがよくつるんでいる友人は二人。イデさんと、もう一人がヤマモトリサさんだ。
 ヤマさんは僕とミサキと同じ中学校出身で、ミサキとはとても仲がよい。
 料理クラブに所属していて、性格はクッキーのようにさくさくしていて、本人曰くおせっかい焼き。
 ヤマさんとは中学校の頃から親しかった。ヤマさんはリーダー格の女子だったので、僕が中学校内の人間関係を知る時は、彼女にもお世話になった。
 ミサキを通してさらにヤマさんと親しくなったわけだが、ヤマさんはある一点だけ僕を嫌っていることがある。
「なーんでハセガワなんかにミサキ取られちゃうのかしらね」
 といったように、僕がミサキと付き合ってることが不満らしい。
「ハセガワ、言っとくけど、あんたがどれだけミサキチと一緒にいようとも、まだまだ私の方がミサキのこと知ってるからね」
 人間情報通の僕にとって、ミサキの彼氏である僕にとって聞き捨てならない言葉だ。
「今はそうかもしれないけど、いつか逆転するよ」
 ヤマさんは『あんたも言うようになったわね』とでも言わんばかりの不適な笑みを浮かべた。やっぱり永遠に逆転できないかもしれない。
「まあいいわ。ミサキ幸せそうだし。なんたってミサキチは中学の頃から、あんたのこと好きだったんだから」
「え、そうだったの? 中学ではほとんど接点なかったはずなんだけど」
「接点がなかったってそれ本気で言ってんの? あーあ、ミサキチも可哀想に。結局叶ったから良かったけどさ」
 ヤマさんは溜息をついてやれやれといった感じで首を振った。
 何も言い返せなくなった僕は、あとで中学校の頃の記憶を整理してみようと心に誓ったのだった。


【42.例えばヤマさんと醤油】

 ヤマさんはショウユラーだ。
 ケチャラーが「トマトケチャップがないと生きていけない人種」で、マヨラーが「マヨネーズがないと生きていけない人種」なら、ショウユラーは「ショウユがないと生きていけない人種」だ。
 目玉焼きには醤油派、醤油があればご飯三杯はいける、マイ醤油常備、食卓の上には業務用醤油をいつも置いておく、肉魚野菜穀物どんな料理にでも醤油をかける、こっちがちょっと引くぐらいのショウユラーである。
 と言うのは半分冗談。
「私も醤油は好きよ。日本人だし万能調味料だし、目玉焼きに醤油くらいは普通でしょ? でもね、ミサキやメグみたいにあんな気持ち悪い使用方法は無理。何あれ。素材の味完璧に消してるじゃない。適材適所ってもんがあるでしょうに」
 料理クラブに所属しているヤマさんはご立腹だ。
「それなのに、ミサキとメグミと来たら『リサは何派?』とかしつこく聞いてきたから、とりあえず醤油派にしといたの。別にケチャップもマヨネーズも私好きよ」
 ヤマさんは、二人の抗争に巻き込まれた上でのショウユラーなので半分だけなのだ。
「ところでハセガワは何派?」
「えーと、目玉焼きには塩かな。もちろんマイ塩なんて持ってないけど」
「オッケーオッケー。ハセガワはシオラー決定ね。それともソルトラーかしら?」
 『ラー』をつける基準が大甘になっているのは、あまり気にしないでおこう。


【43.例えばヤマさんとジョニーズの証】

 ヤマさんはジョニーズ、特に『証−AKASHI−』というグループが好きだ。
 証がでているすべての番組を録画しているというし、メンバー全員のプロフィールも完璧に暗記していて、コンサートに赴くために学校を丸々サボるなんてのも当たり前だ。
 ヤマさんの好きなメンバーは三宮くん。部屋には三宮くんのポスターがぺたぺた貼られており、証グッズの半分以上が三宮くん中心のものである。
「ジャニオタで結構よ。サンの影響でマジックも覚えたし、携帯ゲーム機だって手に入れたわ。大変なのよ。私お小遣い少ないから、コンサート行く回数も自重してるし、グッズもたくさん買えるわけじゃないのよね。早く自分でお金稼ぎたいわ」
 ヤマさんは言う。
「でも、よく考えたらこれくらいが丁度いいかしらね。際限なくお金かけちゃうと将来破綻しそうだし」
「僕もそう思うよ。のめりこみすぎは危ないし」
「そうよね。今みたいにテレビ見てたまにコンサート行くだけでも仮初めの満足はできるものね」
 現状に満足しているのかしていないのかわからない返答である。
 ジョニーズ好きにもう一人イデさんがいる。こちらはヤマさんほどの追っかけではないけれど、よくヤマさんと証の話で盛り上がっている。
「メグは証リーダーの小野が好きなのよ。そのへんがねー、ちょっとたまにお互い譲れないところが合って言い争うこともあるんだけど、まあ覇王っていうドラマの前から好きだったって言うから許せるわ」
 ジャニーズに興味のない僕にはよく解らないこだわりだ。 
「ミサキにも証に興味持ってもらおうって頑張ってるんだけど、番組見る程度なのよねぇ。なんとかならないかしら?」
 ミサキを染めるのは遠慮していただきたいと思ったが、僕はヤマさんに意見できるほど強い人間ではないのである。


【44.例えばヤマさんとお弁当】

 ヤマさんは料理を作るのが好きで、週に三回、月水金曜日は自分で弁当を作ってくる。火曜日、木曜日はミサキがパン食のため、それに合わせているのだという。
「一年のころはミサキと別のクラスだったから普通に毎日作ってたけどね。二年でせっかく同じクラスになれたんだから合わせるわよ。一年間離れたせいでミサキチが掻っ攫われるという不慮の事故もおきましたが」
 いちいち対抗心を燃やしているような台詞を入れないで欲しいのだが、面と向かってはお願いできない僕である。
 夏休みがあけてすぐの火曜日の昼休み、僕が冷水機に向かおうとミサキとヤマさんのクラスを通り過ぎたら、ヤマさんの姿はあるのにミサキの姿がなかった。この曜日はヤマさんとミサキが一緒にパンを買いに行っているはずなのだけれど、今日はどうしたのだろう。
「ヤマさん、今日は昼食パンじゃないの?」
 クラスに侵入してヤマさんに聞いてみた。
「んー、今日は母さんが弁当作ってくれたから、今日はお弁当。いっつも私に作らせるクセにさ、たまに唐突に張り切って作りたいって言うのよ」
 文句を言いながらも、どことなくヤマさんは嬉しそうだ。
 するとミサキがイデさんを連れて帰ってきた。
「リサがお母さんの弁当って聞いてついてきちゃった」とイデさん。ちなみに、イデさんの昼食は毎回パンを購入している。
「そんなにいいもんじゃないわよ?」
 ヤマさんは黒塗りに金の桜が描かれている二段の重箱を取り出した。運動部の男子でも使わなさそうな大きなサイズである。持たせてもらうとずっしり重い。
「すっごいおっきーね。これならあたしたちも一緒につまめそう」
「そうね。おそらく私だけじゃ食べきれないから、むしろお願いするわ。メグもハセガワも来てくれて助かったわ」
 みんなの視線が集まる中、ヤマさんは弁当の蓋を開けた。
 そして皆絶句した。弁当の中身が、黄色一色に染まっていたのである。
「送られてきたとうもろこしがまだ余ってるとか言ってたけど、ここまでやるわけ!?」
 ヤマさんが発狂した。
 弁当の中身はすべてとうもろこしの粒だった。輪切りにしてつめられているわけでなく、一粒一粒丁寧に解して敷き詰められている。てかてかと光る黄色い粒は太陽の恵みそのものだ。それは味なんてついてなくても風味豊かで美味しいんだよと主張しているかのよう。
少量なら弁当に彩りを加えるおかずも、一人二人ではとうてい食べきれない量を敷き詰められるともはや地獄絵図。禅料理の方がおそらく確実にどう足掻いても美味しい。
「僕自分のクラス行くね」
「あたしも自分のクラスでたーべよっと」
「私は、えっと、うう、逃げられない……」
「あんたら、ちょいまち」
 引き止められ、僕とイデさんは肩を落とした。ミサキはすでに涙目だ。
 今日の昼飯はとうもろこしのみ定食決定である。
 今回、ミサキのマイケチャップとイデさんのマイマヨネーズが活躍したことも明記しておく。周りの皆にも配りながら、味を変えながらなんとか完食できた。


【45.例えば僕と人物調査3】

 友人のカタヤマが好きになったタカハシトモカさんについて、僕は調査を進めている。
 今までと違い、タカハシさんは同級生だと言うのに得られる情報が限られていた。結局解ったのは、背が高く容姿は端麗、頭もよく成績はモチダ以上の実力を持つ。無口で人付き合いは少なく、ミステリアスな感じがうけているのか密かに男子からの人気も高い。
 あとは接触あるのみなのだが、どうやって関わろうかが悩みどころだ。接点がろくにないのである。
 僕がどうしようか考えていたある日、ヤマさんが僕に話し掛けてきた。
「ハセガワ、また誰かの恋愛を成就させようとしてるんだって?」
「あ、……うん」
「ハセガワも大変ね。で、今度は誰のことを調べてるのかしら?」
 僕一瞬ためらって、その人の名前を口にする。
「タカハシトモカさんって言うんだけど……」
「あー、うちのクラスの。誰だか知らないけど、面倒なコを好きになったわね」
「面倒?」
「そう。暗いし寡黙だし、話しかけると睨むのよ。睨むだけならいいけどたまに罵倒されるのよね。いきなりすべたとか言われたことがあって、私思わず笑っちゃったくらいよ。私も同じクラスになった以上頑張って仲良くなりたかったんだけど、向こうから拒絶されちゃ厳しいわ」
 タカハシさんは、誰にでも気さくなヤマさんでさえ難しい女子なのか。
「いじめとか……そんなのはある?」
「ないわね。タカハシさんのこと気に入らない女子はたっくさんいるのよ。ただね、前にタカハシさんのこと苛めようとした女子がいたんだけど、ちょっかい出した次の日、タカハシさんがその女子のところへ行ったと思ったら、問答無用で平手打ちにボディーブローが炸裂してね。クラス内での出来事だったんだけど、その女子は見事なまでに気絶して、それ以来タカハシさんに手を出す人はいなくなったわ」
「強いんだね」
「ええ。そのときは私含めみんな目をまん丸にしてたわ。本人は何もなかったかのようにまた自分の席に座っちゃったけどね」
 タカハシさんの人物像がいよいよ解らなくなってきた。コンタクトを仕掛けるにも接点が思い浮かばない。一度でも会話できる機会があれば、言いたいことがいくつかあるのに。
「情報はこんなもんでいいかしら?」
「うん、ありがとう」
「ところで、誰がタカハシさんを好きになったの?」
 やはりこの質問が投げかけられた。できればそれは言わずに立ち去りたかった。
 僕は目を伏せた。しばらくためらって、その人の名前を口にする。
「カタヤマなんだけど」
 僕はちらりとヤマさんを見た。ヤマさんに変化はなかった。
「またあいつ? ここ数ヶ月ないと思ったら、また一目ぼれ病が始まったのね」
 僕は小さくうなずいた。でもそれは嘘だった。
 本当は、カタヤマの一目ぼれ病は毎月、毎週のように発祥していた。僕がそのことを、ヤマさんに相談していなかっただけ。相談しないように避けていただけ。
「ごめんね。ありがとう」
 僕は恐る恐る言葉を発した。ヤマさんは優しい笑みを浮かべた。
「いいのよ。これからもどんどん相談しなさい。それじゃ、またね」
 ヤマさんは僕に背を向け歩き出した。
「……まったく、誰にも言ってないのに。ハセガワの洞察力は怖いわね」
 僕はもう一度、ごめん、ありがとうと言った。ヤマさんは振り向かずに手をひらひらさせた。その背中に、動揺なんて見られなかった。


【46.例えば彼女と引っ掛け問題2】

 彼女の家に遊びに来ていたとき、僕は彼女にひっかけ問題を出してみた。
「ダンスって十回言って?」
「なあにそれ?」
「いいから」
 彼女は首をかしげながら言う。
「ダンスダンスダンス……ダンス!」
「じゃあ、ふとんをしまう場所は?」
 この問題の答えは押入れ。しかしダンスと韻の先入観を与えられているため、タンスと誤回答させる引っ掛け問題だ。
 しかし彼女は、自信満々にこう言ったのだ。
「物置!」
「はずれ。ていうか、その、普通物置にはふとんしまわないよね? 答えは押入れなんだけど……」
 まさかタンスと答えずに物置と答えるとは。予想外の回答に、今回は勝ったのか負けたのか解らなくなってしまった。どちらかというと負けた気がする。
 彼女の不可思議な思考回路について考えていると、
「残念でした」
 なぜかミサキが得意げになっていた。
 僕は彼女に連れられ、家の外にある物置の前に案内される。
「え、まさか?」
「そのまさかです」
 物置を開けるミサキ。すると、物置の中から猫のカバーがかかった、ミサキがいつもつかっているはずのふとん等が現れた。
「……ミサキの部屋にはちゃんと押し入れあるのに、なんで今日に限って物置にあるの?」
「今日は寝ぼけててここにしまったみたい。問題出されて思い出しました」
 えっへんと勝ち誇っているミサキ。完璧に敗北を喫した僕は、とりあえず彼女の髪の毛をくしゃくしゃにしておいた。


【47.例えば彼女と風邪っぴき】

 彼女は雨に濡れるとすぐに風邪を引く。体が弱いというわけではないらしいのだが、体調を崩す日が雨の次の日に重なることが多いらしい。
 昨日雨が降ったからか、ミサキは今日の学校を休んだ。
『学校どうしたの?』
 僕は休み時間中に彼女にメールを送る。
『風邪引いた』
『具合はどう?』
『微熱。大したことないよ』
『学校終わったらお見舞いに行くね。何か食べたいものとかある? 買ってくよ』
『ようかん』
『解った』
 彼女の風邪が軽いようなので、僕は安堵してこの日の授業を受けた。
 学校が終わると、僕はお見舞いとして和菓子屋で羊羹を購入しミサキの家に向かう。ミサキの家に到着し、インターフォンを押した。
 返事はない。ミサキは寝ているのだろうかと携帯を取り出したとき、突然ドタドタと誰かが走る音がして、勢いよくドアが開いた。
「アキヒト……くん?」
 ミサキの表情には焦りが浮かんでいた。恐怖に怯えるように口元をゆがめ息を粗くして、目を丸くしながら僕を見ていた。しかし突然、ミサキのこわばっていた表情が糸が解けるように緩み、力なく微笑んだ。
「よかっ……た」
 その場でミサキが崩れ落ちた。僕は慌てて彼女の身体を支える。
「ミサキ! ミサキ!」
 呼びかけてもミサキに反応がない。僕は自分の血の気がサァと引く音を聞いた。あまりに予想外の辞退にパニックに陥りかけたが、ここで僕が混乱したら誰がミサキの面倒を見る! と自身を叱咤し思考を落ち着かせる。
 メールでのやり取りのあと熱が上がったのだろうか。それとも熱は、大事に至る病気の予兆だったのだろうか。緊急車両を呼ぶべきか、応急処置をする必要はあるのか。僕が学校を抜け出して看病に来ていればこんなことにはならなかったのにと後悔の念が僕を責める。
 僕は恐る恐る彼女の額に手を当てた。僕は額から伝わってくる熱に驚きを隠せなかった。
「……熱は特にないよね」
 おそらく平熱だった。ミサキの荒かった息も、今ではスースーと寝息のような音を立てている。
「もしかして、寝ぼけてただけ?」
 脱力した。抱えてたミサキをすべらせてしまうかと思ったくらい力が抜けた。本当に寝ぼけていたのなら、なんと迷惑な寝ぼけ方なんだろうか。
 もう一度ミサキの体温が平熱であることを確かめてから、頭を抱えたい衝動を押さえ、ただ平穏に寝ているだけのミサキを家の中の布団まで運んだのである。
 この事は、後で笑い話として使わせてもらおう。


【48.例えばモチダと紙飛行機】

 二学期後半の昼休み、カタヤマの机の中にプリントが大量に放置されていたので、なぜか紙飛行機を作って飛ばす流れになってしまった。初めは僕とカタヤマだけの参加だったのだが、周りの人も加わってきて、違うクラスなのにモチダもやってきて、教室の中で紙飛行機が入り乱れることになった。
 紙飛行機なんて誰が作っても同じかと思いきや、モチダが作った紙飛行機だけ滞空時間が長いことに気が付いた。
「翼の一番後ろの部分を軽く上に曲げるだけでだいぶ滞空時間が変わってくる」
 モチダにアドバイスをもらったけれど、やはりモチダほどは飛ばなかった。
 モチダの紙飛行機を見せてもらったら、僕たちの作ったような雑なものではなく、シメントリーで一切ねじれなどがない完璧な紙飛行機だった。作り上げる様は職人そのもので、他者の介入を一切受け付けない精神力を発揮していた。
 モチダの手から、繊細なまでの調和を保った紙飛行機が飛んでいく。その時タイミングよくクラスメイトの一人が、ベランダに出ようと窓を開けた。その隙間をするりと通り抜けた紙飛行機は、教室と言う狭い空間に別れを告げて、大空へと向かっていく。
 僕とモチダとカタヤマは外にでて、どこまでも飛んで行けと紙飛行機を見守った。しかし、外界の微風を叩きつけられた紙飛行機はコントロールを失い、不安定な軌道をとりながら落下していった。
 紙飛行機の落下地点には校長先生がいた。温厚で柔和で人の良い先生だけれども、頭のかつらのことになると豹変する先生である。かつらは命の次に大事だと言っていたくらいだから、汚しでもしようもんなら筆舌に尽くせない怒りをぶつけられる。
 落下した紙飛行機は、校長先生の髪の毛に突き刺さるような形で落下した。突き刺さった勢いでかつらがずれ、側にあった池に落下した。
 僕たちはあまりの出来事にしばらく呆然としていた。校長先生も訳が分からなかったのか、ぴくりとも動かなかった。
 一刻、事態の深刻さに恐れをなした僕とカタヤマは首を引っ込めた。モチダは犯人と言うこともあり、状況の飲み込みに時間がかかったのだろう。僕たちより行動に移るのが遅くなってしまい、それが命取りになった。
 校長先生がモチダを発見してしまった。モチダの表情が青ざめていた。これは新しいと思った。

 ちなみに、モチダが単独で先生に怒られたのは、後にも先にもこれ一回きりである。


【49.例えば友人と調査報告】

 友人は数多くの恋愛をしていて、惚れっぽいということもあってか回りからは尻軽男などと思われやすい。僕としても、友人の恋愛サイクルが早いということは否定できない。何せふられた次の日には誰か違う女性を好きになっているという有様なのだ。
 それでも、友人は同じ時期に複数の女性を好きになることはないし、ふられるまでは心変わりもない。頻繁に僕に情報を貰いにくるし、話題に出す女性は好きになったコだけだし、ふられれば泣く。友人はある意味、真剣で一途な恋をしていると僕は思っている。
「何かわかったことある?」
 今日も友人が訪ねてきた。
 毎日のように来るのだが、僕からの情報もそろそろ枯渇しかかっている。最近得た情報はヤマさんから聞いた、嫌がらせをした女子への報復行為のみ。
 ヤマさんから得たということは伏せておき、カタヤマにそれを話した。
 ヤマさんに限らず、誰からどんな情報を得たのかを話すことはほぼない。これは情報を提供してくれた人たちへの気遣いであり、今後の情報提供に支障を残さないための基本だ。
「なるほどなぁ。やっぱタカハシさんは俺の見込んだとおりの人だな!」
 どのように見込んでいたのかさっぱり解らないが、友人の中ではタカハシさんのキャラクターがある程度確立しているようだ。調べている僕がキャラクターを確立できずにいるのに、報告を聞いているだけの友人ができているというのは少々釈然としない。
「俺は元から勝手にキャラ作ってただけだしなぁ。それを完成させたのはお前の的確な情報のおかげなんだから気にすんなよ」
「別にいいけどね。で、これからどうするの?」
「何か話しかけるネタがあればいいんだけどなぁ」
「小銭とろうとしたときに見ちゃったことを謝りに行くのが接触しやすそうだけど」
「お、それいーね。帰りに待ち伏せしてみるかぁ。で、そのネタで話しかけて……あわよくば連絡先を聞いて、そのまま突っ走ればおーけーだな!」
 相変わらず気が早いが、行動をすぐに起こせるのはカタヤマのいいところだ。
 あとはカタヤマの行動結果待ちということになろうか。カタヤマの行動でタカハシさんがどのような反応をするか、いくつかパターンを想定しておき、すべてに対策を練っておく。今はこれしかないだろう。
 しかし、僕が想定したパターンから大きく逸脱した出来事が起ころうとは、このときに想定していなかったのである。


【50.例えば彼女と藍の雪】 ※R−12

 高校一年の冬。しんしんと雪が降ったその日。
 彼女の様子がいつにも増しておかしかった。
 僕の家に遊びに来たのはいいけれど、雑談を交わすときも、テレビを見るときも、お菓子を取りに行く時ですらべったりとくっついて離れない。手を握り、絡ませ、離れてしまえば二度と触れ合えない呪縛を背負わされたかのように。
 トイレの時はさすがに離れた。夕食時は家族の前ということもあって、隣の席ながらも密着はなかった。
 食べ終わると、彼女がお風呂に入ることになった。タオルや服は僕の母さんがどうにかしてくれる。彼女は風呂に向かい、僕は自分の部屋に戻った。
 僕はカーテンを開けて、窓にべったりと纏わりついている露をふき取り外を見た。雪は世界を覆い尽くすかのように、絶えることなくこんこんと降り続いている。白い花弁を、ほの暗い闇に撒き散らしていく。
 テレビもコンポも消して窓の外をずっと眺めていたら、彼女が戻ってきた。彼女は僕の姉さんのパジャマを着ているが、彼女の方が姉さんより小柄なためにだぼだぼで、袖が手の甲にかかっている。
 彼女は無言で僕の手を取り、もう片方の手でカーテンを閉める。間近にある彼女の瞳が不安そうに僕を見上げる。
 どうして雪が嫌いなの? とは聞けなかった。彼女のことを知るのが初めて怖いと思った。
 瞳を揺らしながら、彼女が口を開いた。
「……アキヒトは、私に何かしたい、とか……思わない、の?」
“くん”が抜けていた。
 いつもの彼女ではなかった。違う何者かが彼女に乗り移ったかのかと思った。彼女がキスを求めてきた。してしまえば後には引けないことは解っていた。いつもと違う彼女にそんなことをしてしまっていいのかと憤る理性を、扇情的な彼女の吐息が吹き飛ばす。僕も所詮は男だった。つまらない男だった。
 僕たちは口付けを交わした。互いが互いをなぶるように、互いが自分自身をなじるように、深長に互いを絡ませあう。
 窓の外では雪が降っている。重く冷たい雪が降っている。温もりを求め合うように、僕たちは抱き合う。
 白い花弁がやみ終わる、そのときまで。


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HR(独り言ルーム)

41.例えばカノ友と僕のお話2
 ヤマモトリサ。漢字で書くと山本理紗です。
 これで7人目になります。登場人物はあと一人です。
42.例えばヤマさんと醤油
 着実にラーが増えていきます。
 ラーの定義崩壊。
43.例えばヤマさんとジョニーズの証
 ジョニーズ。決してジャニーズとは関係ありません。
 証です。決して嵐とは関係ありません。
 覇王です。決して魔王とは関係ありません。
 メンバーは、小野、三宮、桜井、相花、竹本です。決して、大野、二宮、櫻井、相葉、松本とは関係ありません。
44.例えばヤマさんとお弁当
 こんなことされたら……。
 とうもろこしの粒をもぎっている、ヤマさんのお母さんの姿を想像すると楽しい。
45.例えば僕と人物調査3
 ええと、ヤマさんが○○をってことは解りましたよね?
 ここらは恋の一方通行物語。
 本当はヤマさんの話をもうちょっと書きたかったんですけど、早く展開を先に進めたいんで……
46.例えば彼女と引っ掛け問題2
 ちょっと無理があるかと思えた展開だったけど、ミサキチはこんなキャラだよね。(どんなキャラやねん)
47.例えば彼女と風邪っぴき
 雨に濡れると風邪を引くという冒頭の話を回収していないことに気が付いて執筆。
 もうちょっと風邪っぴき続くよ!
48.例えばモチダと紙飛行機
 シュール。
 青ざめたモチダを見てみたい。
49.例えば友人と調査報告
 まだタカハシさんは名前だけ。
 百話以内に完結するとは思えなくなってきました。
50.例えば彼女と藍の雪
 作者初の濡れ場執筆。なんか書いててドキドキした。
 キャラ同士を絡ませるって息子娘を絡ませるようで背徳感があるね! 嘘だよ!
 何箇所か韻を踏ませてます。べったりしているのが『彼女』だったり『露』だったり、やみが『闇』だったり『止み』だったり。

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