予防

 

 

 今年65歳になる、頭のいい男性がいた。

 趣味は小説を読むことで、これまでに何千と小説を読んできたし、これからも読み続けるつもりだった。特に好きなジャンルは推理小説で、犯人は誰かと探りながら読むのが楽しかった。

 そんなある日、彼は自分の体がなまっていることに気が付いた。単純な労作業なのにすぐにばててしまうのだ。

 頭のいい彼は、これではいけないと、体の老化を予防するために、彼はジョギングを日課に組み込むことにした。

 決意した次の日、彼は走り出した。ルートは決めていない。気の向くままに走ろうと考えていた。

 何も考えることなく真っ直ぐに進む。突き当たりに来たら右に進む。それを繰り返していたら、三十分後、家に戻ってきた。

 彼は驚いた。快感が彼を通り抜けていった。走り終わった後の爽やかさは彼を恍惚とさせた。何も考えずに進んでいくだけで適度な時間走り、家の前に戻ってくる。そして何より、走り終わった時の昂揚感は何とも言えなかった。

 彼は走ることが好きになった。何も考えずに運動できて、その後に得られる快楽が大好きになった。暇さえあれば走ると言う毎日で、趣味は走ることに変わった。

 二十年が過ぎた。彼は85歳になる、健康な体をもった男性だった。

 誰かが、彼に尋ねた。

「健康の秘訣はなんですか?」

「はて……なにかのう」

 確かに体の老化の予防は完璧だった。しかし、頭の老化は予防できなかったのである。

 

 

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