No.69

2004/03/23(火) 21:20:43

進凛北

 

第2章 10話

 

 宝箱が目の前にあった。綺麗なつくり、これぞ宝箱という見本、開ければ金銀財宝が飛び出してきそうな体裁。それを疑わずに開けてしまったのが失態だった。
 巨大なマジックハンドが現れたかと思うと、ヤクラめがけて突進、それをひらりとかわすと今度はクリスに突撃、胴体を鷲づかみにするとクリスの叫び声虚しく上方にもちあげられていった。
 宝箱にはコイン投入口みたいなのが設置されていた。
『仲間を助けたければバッジを三個入れよ』
 簡素に記されている文字を見て、ヤクラは思わず感心してしまった。さすがカール。相手をネチネチと甚振る悪知恵は俺の数倍上を行く。
「早く助けなさいよ!」
 上方でなおも叫ぶクリス。あのまま放置しておいてもいいのだが、終了時にパートナーが居ないと失格にさせられかねない。
 バッジ三つは痛いが、背に腹は変えられないだろう。
 ――――――。
「クリス」
「なによ」
「お前がバッジ持ってるんだよな?」
「あんたの以外は持ってるわよ!」
 状況を簡素に説明してやると、クリスは表情を青くした。
「バッジはポケットに入ってて、つかまれてて取れないわよ?」
 さて、どうしたものか。

 

No.70

2004/03/29(月) 17:39:40

Dの領域

 

第2章 11話

 

面倒な事になった。ヤクラは考え中のポーズを取り、宝箱とクリスを眺めていた。頭の中に選択肢が浮かぶ。

1.クリスの持っているバッジをどうにかして手に入れる。
2.他のチームのバッジを奪ってくる。
3.宝箱を破壊する。

1を選んだ場合。クリスを掴む手が離れないかぎりバッジは受け取る事は難しい。しかも手が離れたならクリスは助かるのだからバッジをどうする必要もない。それならバッジも3個のままだ。
クリスからバッジを受け取れたとしたらクリスは救出できる。しかし、バッジは無くなってしまう。
2は俺の実力なら簡単な事だ。とりあえず2個バッジを奪ってくればいい。この場合クリスの分のバッジが2個残ることになる。だが、クリスをこのままにしておいて果たして大丈夫だろうか。
3が一番手っ取り早い方法ではある。バッジも減らずにすむ。しかしカールの事だ、この宝箱を破壊するのは困難かもしれない。

「ちょっと、どうするのよ!?」
クリスが甲高い声をあげる。先ほどから動こうと努力しているが、宝箱の手の力は強く、まったく動く事ができない。
「やっぱシンプルにいこう、3に決定」
ヤクラは考えるのを止め、床に魔方陣を描き始めた。面倒なのは性に合わない。
「その宝箱を破壊する」

 

No.71

2004/03/30(火) 03:23:36

 

Re:第2章 12話

 

破壊の選択肢は三つ。
1つは錬金術で宝箱を分解する。
その点欠点は錬金術は物質の分解、構成のことを指し、生物を分解することはできない・・・つまり、言術と混合でつかうしかない。
2は、薄く無色の盾をクリスの体にかけ、宝箱に攻撃する。
欠点は、薄いので、攻撃力の高い術で攻撃するとクリスが傷ついてしまう。
3、白状してクリスの目の前で言術を使う。
その利点は考古術だと言い張れる。

考古術。
失われた過去の魔法。
文献も少なく、今現在も研究されている謎に包まれている学術だ。
主に陣を書いて使う魔法だ。
ぶっちゃけ言術だって考古術に入るんだけどね。

「答えは3・・・だな。クリス、これから考古術を使う。お前が使える術で1番強いシールドを張ってくれ」

現状からみて、自分でどうにもならないのだ、俺の言うことは従うらしい、呪文を唱え始めた。

さて・・・考古術・・・・魔法陣を書き始める。
別に考古術で助けてもいいのだが、ついつい言術に変ってしまうから困る。
言術の魔力と普通の魔法の魔力とは質が違い、何故か言術と考古術との魔力は一緒なのだ。
やはり過去の魔法とはそう言う物なのだろうか・・・・。
そうこうしている内に陣は書き終わりクリスはシールドを張り終えたようだ。
「じゃあ、いくぞー、失敗したら供養してやるからな」
そう言うと罵声が飛んできた。
なんだ、全然元気じゃん。


言霊。
そう誰かが呼んでいたのを思い出す。
それが誰だったかなんて随分前なので顔は覚えていない・・・あれは、だれなんだろう・・・・。
オボロゲな記憶、確かにあの時俺は[ジークリード]の名だった。
師匠も一緒だった・・・・あの頃の記憶がぽっかりと穴を空けている。


見せ掛けの考古術は成功し、クリスは自由になり俺に文句を言っている。


あの頃に記憶がないけど・・・今を楽しめれば俺は良い。
過去より今を楽しめれば良い。
こんなガキや、変な奴等と戯れて、俺の[一生]と言う名の牢獄で楽しめればそれで良いんだ・・・な[雅]

!?

記憶の断片が少し・・・ホントに少しだが、横切り[そいつ]の名を思い出した。
だが、また記憶の泉に沈んでいき、淡く消え去る。


「聞いてるの!?ヤクラ!!」
急に俺の顔の前に少女の顔が現れる。
どうやら黙り込んでいたらしい。
「あ・・あぁ、悪い、死なずにすんでよかったな」
軽い皮肉を言いつつ、1つの事に気がつく。
初めてだな・・・ヤクラとコイツに呼ばれるのは。


そうして、俺達は無駄な体力を消耗しないように身を隠し、そして・・・

「あーあ・・・サバイバルテストはー、しゅーりょーで〜す。皆さんご苦労様でした〜」
スピーカーから女性の声が入る。

カールじゃないのか・・・・

少しの不安を思いつつ、やっとこのジャリガキと離れられると思い、ホっと胸を撫で下ろす。
そして、ここに来た時の用に、足元が暗闇の穴が空く。

またこれか〜〜〜〜〜〜〜〜〜


目を開けるとそこは綺麗な部屋だった。
木製の机が2つ、本棚も2つ、2段ベットが1つ、テーブルが1つ・・・その他色々だ。
「ここは・・・・」
ピーンポーンパーンポーン。
アナウンスが入る。
「え〜っとー、今皆さんがいる部屋は、これから3年間住む自室です〜、でぇ〜、隣にいるのが一緒に・・・コレなんて読むの?」
なんだこのアナウンス。
「あぁ〜、3年間学を共にする同室者らしいです〜。仲良くしてね〜〜」
スースー
隣にいる奴って・・・・
右を向くとそこには!!!
「誰もいない、な?」
スースー
なにか、さっきっから聞える寝息のようなこの音は・・・
2段ベットの一段目に座っている俺は上のベットに登ろうとする。
・・・・・・。


なんだろう・・・・このお約束的展開は・・・・読者はこんなの望んでいないぞ!!
俺の平穏な日々を返せ!!


そこで可愛らしく寝息を立てているのは紛れも無くクリスィード=トッケルンその人だった。

 

No.72

2004/03/30(火) 23:53:56

Bucho-

 

第2章 13話(お久し振りです)

 

「あはは、面白い事をやってるなぁ」
 水晶球に映し出されている映像を見ながら、その男は楽しそうにケラケラと笑った。闇が混じると血の色になる、赤いローブを纏っていた。
「………」
 その向かいには、闇を切り裂くような銀髪の女性が無表情に水晶を眺めている。
 完璧な球体にされた水晶球に遠くの『ビジョン』を映し出すというクラシカルな主題の背景は、これまたオーソドックスに真暗の闇が担当していた。
 二人が見ているのは、当然のようにヤクラがクリスィードと二人きりにされた室内の映像であり、その他にもカールやクリストファー達の様子がサブディスプレイとして映っている。
 術としては『遠隔透視』の名を持つ。長い研究の末漸くおぼろげに解明された『考古術』の一つである。『術者の精神のリズムを遠くの場所にあるものと連動させ、精神内にその地の映像を投影し、更に、媒介となるもの―物質的な魔力が高い水晶などの鉱物や水が主だが、そこに投影する』。そう男は教わっていたが、ハッキリ言ってよく分からなかった。頭脳も魔力も人並み以上と言われてきたし自覚もしているから、純粋に興味がないからかも知れない。
 まあ、言術師に気付かれないその技術は素直に凄いと思う。
 言術師はその魔力の高さ故、自分に向けられる魔力はすぐさま察知出来てしまう。攻撃であれ、観察であれ、ほぼ例外はない。加えて、魔術学院の周りには、ヤクラの自宅と同じように魔術や言術の結界が幾重にも張り巡らされている。高い魔力を持つ生徒や教員が拉致・悪用されない為だ。
 にも拘らずカノンを誘拐し追跡を振り切った『黒の牙』の技術の高さは、これで分かるだろう。
 『考古術』を行使するばかりか、言術師にすら悟られぬ技術を持つ『そいつ』も。
 今は闇の中で立っているが、説明通りとするならば、その精神内には今までのビジョンが逐一映し出されていた筈だ。当然、ヤクラの一瞬の葛藤も見抜き、深層部だけでの苦笑を浮かべたに違いない。
 男は水晶表面を細い指でなぞりながら、
「まさか動の言術師自ら潜入するとは思わなかったよ。また計画を練り直さなきゃ。いやはや、面白い面白い」
 水晶の中ではカールが腕組みをして何か考え込み、クリスが何かの書類を書き終えてため息を吐き、ヤクラが苦渋の顔で髪をがしがしと掻いている。
「…余裕ね」
 女性が口を開いた。抑揚がなく平板で、呆れているのか怒っているのか分からない声だった。
「まさか。こんな厄介な仕事なんてほっぽり出して、南の島にでも行ってバカンスしたい気分だよ。でも彼らに預けない限り『彼女』は目覚めそうにもないし、仕方ないんじゃない?」
「貴方は楽しければいいんでしょう?」
「まあね」
 即答し、またビジョンに見入った男に、女性はふと笑みらしきものを浮かべた。それは本当に分かるか分からないかで、『笑われた』男も気付いていないだろうが、『そいつ』は認めた。『自分』に向けられるものとは違う、聖母のような笑みだという事も。
「ま、予想通り保守的な方向になるみたいだから、ご要望にお応えして仕掛けようか」
 男は至極楽しそうに言い、後ろの闇に問い掛ける。
「合成獣(キメラ)のリストは出せる?」
 暗闇からパチン、と指を鳴らす音が響き、男の右側に蛍光緑のリストが現れた。水晶の中と同じ、魔力によるビジョンである。
 熱心に、そして楽しそうに吟味する男を見て、女性はため息も吐かず言った。
「早過ぎない?」
「遅いくらいだよ。このまま彼らが本気で『彼女』を守ろうとしたら面倒な事になる。その前に思い知らさなければいけない。闘うしかないんだ、とね」
 その笑みは、楽しそうで、誇らしげで、―そしてほんの少し、哀しげで。
「僕らにはもう、手段を選んでいる時間は無いのさ」
 女性はただ、頷いた。闇は何も言わなかった。
 一頻りリストを眺め、何か思う所があったのか男はすっと立ち上がる。その体が闇の一方向を向いて歩き出した時、漸く女性も立ち上がり、水晶のビジョンは消えた。
「あ、『透視』ありがとね。やっぱり僕らじゃ、言術師の結界を潜るのは無理…じゃないにしても、疲れるからさ」
 闇は答えないが、男は構わず続ける。
「でも凄いなぁ、考古術を簡単に使いこなしちゃうなんて。ダテに言術師さん達と知り合いで、且つ彼らに憎まれながらも生き残ってるだけはあるよね」
 闇は答えない。
「でも今回は少し辛いんじゃないのかい? 『彼女』を犠牲にしなきゃならないんだから。ま、君には大して…」
「フォクス」
 女性が初めて、口を挟んだ。
「…ごめんよ、ネイド」
 悪びれず肩を竦め、フォクス―フォクスフラントはネイドに謝った。そしてくすりと闇に笑いかけ、また歩き出す。右手を翳すと闇が開け、白く獰猛な光が部屋に差し込んだ。
 その光で、闇にいる『そいつ』の顔が薄く照らされる。
「じゃね、リオン」
 闇―リオンは終始無言を通した。それは無視にも似ていた。
「………」
 ネイドは暫くリオンを見つめ、そうしてゆっくりと足を踏み出した。ドアではなく、リオンの方へ。一拍子遅れて、リオンも歩み寄る。ネイドをギリギリ光の中に置くように、その歩みは完璧に計算されていた。
 彼女はそっと、リオンの頬に両手を伸ばした。
  冷たいのは、ネイドの手か、リオンの肌か。
 それから、労わるように、呪うように、歌うように声を紡ぐ。
「フォクスの言う事を聞いては駄目。『彼女』を愛しても駄目。言術師を憎んでも駄目。自分を責めても駄目」
「………」
 闇を切り裂く銀と、光を拒絶する黒。光に溶ける白と、闇に包まれた白。光を吸い込む黒と、闇を踏みにじる金と赫。
   決して相反さない、しかし同じ道にも立たない、二つ。
「貴方は私達の…いえ、私のものよ、フェアバインフェルト」
 『絶望』の名を冠する者の顔が、歪む。それは科学的には笑っている筈なのに、どうしても『歪んでいる』としか言えなかった。
「分かっているよ…ネイド」

 ネイドは去り、扉は閉じた。

 

No.73

2004/03/31(水) 14:22:37

少年アリス

 

Re:第2章 14話

 

・・・・・・・・・・・・
「ん?もう良いみたいだぞ」
焔鬼に言うと、体から力を抜いて椅子に倒れこむ。
「あぁぁあああ、疲れた〜」
ハハ、と苦笑し、焔鬼に近づく。
「微かの魔の匂いに気が付いて良かったな」
「だね〜」

俺と焔鬼は一緒に今後に付いて話してい時、微かに魔の匂いがしたので、一事中断し、心を無にするという芸当を行ったていたのだ。
かなり精神をすり減らしてもうヘトヘトだった。

「中々だな、相手」
「ホントに微量だったけど・・・お前がいたからね〜」
ヤクラや、クリスは気が付いて無いだろうな〜と思う。
「俺はこう言う時の為に、ここに居る様に言われてるからな。たまには役立たないと」
その言葉を聞いた時、少々顔が強張る。
「焔鬼、ソレに付いて・・・」
「解ってるよ、ヤクラの前では言わないって」
・・・・・・・・・・・・・過去の記憶と代償に得た物は世界。


それから暫くして魔力の塊が近づくのが解った。

「どうする?」
「知っての通り、僕は攻撃は出来ないからね?」
あの体での焔鬼は守備、妨害、回復専門の鬼なので攻撃参加は殆どしない。
封印を解けば、圧倒的な攻撃力を持つ本物の鬼となる。

間も無くして、カールの家に突っ込んできたのはサイみたいな顔に飛べるのか不明な悪魔の羽、体は虎のようにしなやかだ。

「なんか、ブッサイクー」
指さして言う焔鬼。
「んじゃ、始めるか」




__________________________________________________________________________________________________
同時刻。
聖王都、騎士団クリスの自室。


「はぁ〜・・・・」
深くため息をしていると、部屋の奥から言い匂いが漂ってきた。
「何してるの〜?」
私の部屋は普通の1兵士が住めるような部屋ではない。
当然と言えば当然なのかもしれないが、私はここでの身分は高い。
それは兵力的にも、表向きにしてもだ。
私はここではジークリードの名を公表している。
戦いにおけても、脅しとしても私がこの国いるだけで色々と役立つのだろう。

私にとってはこんな広い部屋など要らないのだが、国としてはそうも行かないらしい。
まぁ、どうでも良いのだが。
そう思っていると奥から2つのカップを持って真鬼が現れる。

「ん、お疲れ様」
単調に表情を動かさず言うのは真鬼の特徴だ。
何を考えているか解らないポーカーフェイスだ。
「ありがと・・・・・・うむ、美味しい」
「ん」
彼の「ん」は色々な所で使われる。
大体はこうして返事の役割としているが、他の所でも使う時がある。
ときたま喋るとしても
「今後どうする?」
と疲れる話ばかりだ。
「ん〜ソレなんだよね〜、ヤクラは学園内に潜入、彼女の身の回りを守る。カールはやる事があるとか言って、情報伝達が途絶えた。私にしてもこの国を離れるわけにはいかないし、帝国に付いても何か探りをいれたいし・・・あれやってこれやってってのはカールの仕事だからな、私には向かないよ」
「ん」
今の「ん」は同意の返事だろう。


「真鬼はさ、もし自分の・・・・自分の主人を殺せ、もしくは、自分の主人にクリソツな奴を殺せって言われたら殺せる?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
唐突過ぎたかな?
「俺は、お前を守るように言われている。お前の命令で有らば、どんな相手だろうと」
「止めなさい!!」
それ以上は聞きたくない。
イヤ、聞きたくないのは今の回答全てだ。
「貴方は」
書類が散乱している机の上にコーヒーが入ったカップを置き、真鬼に近づく。
「貴方は、貴方の意思で動いて。そう出来なかった者達の達のために」
真鬼の頬は女の子みたくツヤツヤで、冷たくて。

千年前の戦いでは、鬼の傀儡が使われた。
意思を持たない傀儡は、死を恐れず戦い続けた。
あんなモノは一生見たくない。

「暗い話は嫌だ。帝国に付いて探りを入れる。真鬼、行ってくれるな?」
「御意に」

 

No.74

2004/04/08(木) 00:40:21

進凛北

 

第2章 15話

 

 ヤクラは歩いていた。赤い絨毯が敷かれ窓から青空が覗くクソ長い廊下を、クソつまらなそうにして不機嫌さを満面に出しながら歩いていた。
「殺す」
 拳に力が入る。このまま拳を突き出せば、数十メートル先に見える石工の像が木っ端微塵に砕け散る事だろう。
 ヤクラは校長室、つまりカールの部屋に向かっていた。ミニクリスと部屋を同じにした事への抗議と、そして復讐をする為にである。
「たしかに、カノンの部屋には近いけどな」
 カノンに割り振られている部屋はヤクラに割り振られた部屋の隣。何かがあれば駆けつけやすいし、最終手段として壁をぶち破る事だって可能だ。
 ただ、女と同室。それだけでも問題なのに、性格がアレときてる。やってられる訳が無い。
 校長室前に着くと、躊躇うことなくドアを壊すほどの勢いで、蹴り開けた。
「カール!」
 叫ぶなりヤクラは校長机の椅子に座っているカールの胸倉を掴んだ。
「お前、楽しんでるだろ?」
 ヤクラの怒号も睨みも受け流し、カールはふふふと笑みを浮かべた。
「ほら、焔鬼、ヤクラが来ただろう?」
 ヤクラは焔鬼を見た。カールを睨んだままの形相だったので、一瞬焔鬼は怯んだが、ふぅとため息をついた。
「ほんと、おまえには負けるよ〜。かなりの横着もんだね」
「カール、お前、何隠してる?」
 ヤクラは改めてカールを睨んだ。カールはまたふふふと笑みを浮かべた。
「なぁに。隠してるんじゃない、少しの間動きを止めさせてもらったんだよ。私の力量じゃ少々骨が折れる仕事だったし、ヤクラが来ると踏んでたからね。でだ」カールは窓のほうを指差した。「そろそろ、効果が切れる」
 ヤクラも窓のほうを見た。ヤクラは怒る気も失せ、ため息をついた。様々なものが散乱しているものの中心に、とてもブサイクな剥製が鎮座している。
「おいカール」
「なんだい?」
「この校長室、ぶっ壊れてもいいのか?」
「問題ないよ。基本的にここにある重要なものは全部フェイクだから」
「解かった。じゃあ安心して、全力でぶつかれるな」
 ヤクラはブサイクな魔物に体を向けた。
「焔鬼私たちは外ヘ行こうか」
「少しぐらいおまえも戦えよなぁ」
「私は参謀なんだよ。それに、本気のヤクラの近くにいたら、私たちだって危ないのは、知ってるだろう?」
「まぁねぇ」
 カールと焔鬼が部屋の外へ出たと同時に、魔物の束縛が解けた。ヤクラは不敵な笑みを浮かべた。

 

No.76

2004/04/10(土) 00:31:11

 

Re:第2章 16話

 



「後片付けはしないからな」
そうソファに踏ん反り返ってるカール達に言い放つと魔物を見下ろす。
体格、身長から言えば[見下ろす]という表現はおかしいのだろうが、それは[見下ろす]と言えるプレッシャー。

─────舐められたものだ・・・。

「消えろ」
それは世界の命令。
それは、魔界の掟。
それが俺達の法則。

ブサイク魔物は・・・イヤ、魔物の周りが一瞬歪み、俺が向いている方の壁が蒸発する。
「ふむ・・・言術が効かないのか・・・興味深い」
言術。
それは世界の法則を自分の法則に変える力。
法則は俺の言葉に反応し、それが現実になる。
それをあの、ブッサイクな魔物に効かない。
・・・・。


「カール、ちょっと派手にやるから部屋から出て行け」
後で焔鬼とくっちゃべってるカールに言う。

「別にここに居ても問題ないと思うが・・・確かに行った方が良さそうだな。焔鬼、行こうか」

焔鬼は今の会話の意味がわかっていないのか、それとももう少し観戦していたいのか、少々渋っていたが、そこは一応人に使える者。
カールについて、部屋を出て行った。

「さて・・・オイ、ブッサイク野郎、さっきっから手も足も出してこないのは俺舐めてるのか?」
「我は主に使える者、主の命がなければ我は動かない」
やはり知識があったか・・・。
─────つまりここに行けと言われているだけか。
「手ぇ出してこないなら、」
右手を前に出し、空間に穴を空ける。
「さっさと終わらせようか」
空間から剣を引きぬく。
「式・水鬼」
水鬼の魔力で出来ている剣。
常に魔力の消費を強いるが、その魔力は水鬼から流れていく。
魔力の提供者が死ぬ、もしくは魔力が底をつくかしない限りこの剣は存在し続ける。
これなら魔力を最小限に抑え、守りに回せる。
「それっと・・・我等を護る世界の盾よ、魔を喰いいて我と共に歩まん」





深く踏みこみ、横薙ぎに一閃。
だが

カンッ!

簡単に弾かれ、それを見計らってブッサイク野郎が筋肉質な右腕を振り上げる。
モーションが遅い事で簡単に避けられるが

っズン!!
部屋のあちこちの小さなクレーターは奴が付けたもり。

戦いが始まってそろそろ10分が立つ。
切っても弾かれ、カウンターがきても簡単に避けられる。
この繰り返しだった。
最初に派手にやると言ったものの、護りに力を入れすぎたか、魔力の消費が激しい。
「弱ったな・・・・どうよ・・・そろそろ頭の上に浮かんでいるのを落してくれないか?」
1つの間が時を歩く。
「ほぅ、気付いていたか」
「コーティングはされていたのだろうけど、あれだけの魔力に気が付かない訳が無い」

コイツが現れた頃から校舎の上の辺りが暑いと思っていたら、ズーーーッと魔力を貯めていたのだ。
「命令はあれをここに落す事か・・・まったく・・・」
今頃カール達が生徒を非難させ、校舎全体にシールドを張ってるんだろう。
俺もできる限りの魔力を校舎内に注いでいた。
入学そうそう、こんな事しないくちゃならないとは・・・めんどいな。


「直径1Kの魔力の塊を防げるとでも思っているのか、人間風情が?」
始めて表情を変えた顔は汚い笑みだった。

「ブサイクな者に俺は負ける訳が無いのだよ」
自信のある言葉。
そう言うと、言術を使う。

「魔を喰らいて、我の長き手となれ。祖は我の僕なり」
召喚。
俺が呼べる最強の魔。
その名は
「我は祖の僕なり。 来い!魔界よ!!」

一瞬の出来事。
俺が魔界を使役できるのは精々5秒弱。
相手を呑み込むのに1秒も掛からないだろう。


召喚後、俺は全壊した部屋の中心でぶっ倒れて空を眺める。
「どうやら・・・・落ちてこなかったらしいな」

生徒の非難の時間稼ぎって、なんでこんなに時間かかるんだか。
そんな事を思いながら、意識を失っていく。
部屋の片隅でカタカタと音を立て振るえる少女に気付いた時には既に目を閉じていた。

 

 

 

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