No.33

2004/01/20(火) 00:11:33

Bucho-

 

10話(長い?)

 

 ヤクラが叫んだ瞬間、龍に乗った二人がこちらを向いた。
「言術師か…」
 確かに、男はそう言った。
 そして静かに指を振る。
「ピギィィィヤアアア!!」
 小竜が一斉に二人に向かった。

「奴ら、まさか…」
「お前が何を言おうとしているのか推測しか出来ないが、恐らくそれは当たっているよ」
「その推測が間違ってるかも知れねえから言うよ! 奴らは『黒の牙』か!?」
「だろうな。確証はないが、確率はかなり…」
「あーもうじゃあお前を信用するよ! 奴らは『黒の牙』だ!!」
「有難う」
 果てしなく噛み合っていない会話をしながら、二人は小竜を避ける。

 その後ろに騎士団の人間が駆け付けた。自分達の長である人間が闘っているので、当然ながら驚いている。
「だっ、団長、これは…」
 その声と視界に入った姿で漸く己の部下の存在を認識し、クリスは悠々と、
「ああ、お前らか。丁度いい、街の人間を避難させろ。と言っても、てんでばらばらの方向に逃げ惑っているから、落ち着かせろと言った方が正しいかな。避難させたらお前達は城で待機だ。喚き散らす議員どもも黙らせておけ」
「は? し、しかし…」
「さっさと行け、団長命令だ!」
「はっ、はい!」
 一般人とさして変わらぬ程度に慌てながら、騎士団は行動を開始する。
 その後ろ姿を見送ったヤクラは、
「…お前んトコの騎士団さ、いくらなんでもだらけ過ぎじゃないか?」
「そうだな。実力は遥かに魔法部隊の方が上だからな」
 行政関係者が聞いたら悲鳴を上げそうな事をさらっと言ってのける。
「…どうにかしろよ、クリス」
「役に立ちそうもない連中を鍛えるのは嫌いなんだ」
 じゃあなんで騎士団長なんかになったんだというツッコミを抑えつつ、ヤクラは至極面倒くさい性格の上司を持ってしまった騎士団員達に心から同情した。

「さて、邪魔も少なくなったし、そろそろ本気を出すか」
 クリスの言う通り、広場とその周辺から彼ら以外の気配は消えている。言術の中には広範囲魔法もあるので、そう迂闊には使えないのだ。
「フラッペ=アンサンブル=フレイム!」
 クリスが呪文を唱えると。
 小竜が群れている周りの空気が冷え、小竜自体が凍ってしまった。次の瞬間、そこは炎に包まれ、凍った竜は粉々に砕け散る。氷と炎の連続攻撃。
 対極にある二つのものをほぼ同時に発動させる、言術師ならではの魔法だ。
 その隣でヤクラも。
「アイシクル!!」
 空中につららを作り出し、竜に落とす。見事、全て命中。
 動いている小竜はいなくなった。

 一足先に終わらせていたクリスがヤクラの方に歩いてきた。
「レイスラストは使わなかったのか。お前はあれが気に入っているだろう?」
 気に入っているわけではないんだがな、と苦笑しながら、
「偶にはな。お前に合わせてみたんだよ」
「そうか」
 笑い、視線を上げる。赤い龍は微動だにしておらず、その上の男女もそうだった。
 場が沈黙する。そして、それはすぐに破られる。
「悪いが」
 クリスが口を開く。
「あまり長い時間見上げていると首が痛くなりそうだ。用件は手短に済ませて頂こう」

 

No.41 (修正済)

2004/01/22(木) 13:30:44

 

11話

 

クリスのそんな声を聞きヤクラは右手を口元にやり、考えるポーズをとる。
それがどう言う意味を持つかを知っていてクリスは喋るのを止め、沈黙がその場を包み込む。

辺りの物や者が燃える音。臭い。
そんなモノ達が支配した空間。

「色々聞きたいことがあるのだが・・・・・1つ問う・・・
なんだこれは
怒りが篭った声にクリスは驚き、暫く龍を見て気付く。
「俺等は1000年以上生きてる身。そんな俺でもこんな龍は知らない。つまり、新種か・・・・・創ったとしか考えられない。どうだ?」
少々の間を明けて相手が答える。

「だとしたら何か?言術師様」
皮肉が篭ったセリフ。
「魔法と魔法の混合は御法度。召喚した龍に錬金術で体内の改造をしたのか?龍に空間を空ける力など無い・・・・・つまり、龍と制定者を混ぜたのか」
「ご名答」

龍だって感情はある、龍にだって・・・・・クリス!!潰すぞ!!!
怒りと悲しみとの眼はまだ龍に乗っている2人に向けられていた。

 

No.44 (修正済)

2004/01/30(金) 23:39:44

進凛北

 

12―いろいろと折り曲げます。

 

 ヤクラはベッドの上で死んだように眠る少女を見つめていた。
 眠りつづける少女がいったい何を内に孕み吐き出そうとしているのか、そしていつ外で歪んだ幻想が弾け飛んでしまうのか。
「恨むぜぇカール」
 ヤクラは今だ昏々と眠りつづける少女を見た。
 あいつはこれを隠してやがったのか。
 彼女自身は当然何も知らないのだろう。知っていたとしても、それがいかに重い事か解かっていないに違いない。
 この女は言術師に成れるなんて、そんな安い玉じゃない。

 知動心の言術師を生み出したといわれる言与師(げんよし)、すべてを凌駕し統べる事のできる神、―――この世界の『源』
 その存在になり得る器だ。



―――――――――――さかのぼる事数時間――――――――――――



「潰すだなんて物騒なことを言わないで下さいよ、動の言術師さん?」
 龍の上から声がする。こんな惨劇を起こしておいて何と間の抜けた声か。
「心の言術師さんも、そんな物騒な言術唱えようとしないで」
 クリスは顔をあげた。ややあって、やれやれと首を小さく横に振り、途中まで溜まっていた気を解いた。
 相手の気を吸い取り自らのモノにしてしまう『スティール』。最も練るのに気付かれづらい言術とされているのに気付かれてしまうとは。
「ちょっと預けたい物があってね」
 ふわりと上から何かが降って来た。地に近づくにつれて姿がはっきりとしてくる。人だ、しかも少女。
 さっきから上に載っている二人の内の片方しか喋っていないのを訝りながら、クリスはその少女を受け取った。
「ヤクラ、この娘。お主の依頼の娘だ」
「はぁ?」
 また、上から声が降って来る。
「プレゼントだよ。正確にはさっきも言ったけど預け物だけどね」
「貴様! 何のつもりだ!」
「やっぱり『オリジナル』の言術師じゃないと覚醒させられないみたいだからね」
「どういうことだ?」
「僕、ジークリードはそんな質問しないほど頭がいいと思ってたんだけど?」
「ヤクラは別格で莫迦なのだ。気にしないでくれ」
「クリス! お前裏切ったな!」
「裏切るも何も、真実だろう?」
 わなわなと拳を作り耐えるヤクラに、妖艶と笑むクリス、その二人を見て、上の声は笑う。
「面白いね。とりあえず、それだけだから。じゃね〜」
「逃がすか! レイスラスト!」
 有無を言わさず、ヤクラは唱えた。無数もの光の槍が、一点めがけて殺到する。
「それだけだっていったのに。とりあえず、よろしくね」
 余裕綽々のその表情に、槍が突き刺さろうとした瞬間、
「浄光(クリア)」
 ―――光が膨張した。


 光が収まったときには、もう既に目の前には奴らの姿はなくなっていた。

 

No.46 (修正済)

2004/01/31(土) 14:20:55

夜神

 

13話

 

─────時間は戻りクリスの家─────

沈黙を破るようにヤクラは言葉を発した。
「恨むぜぇカール」(12話のヤクラのセリフです)
確かに言与師がいれば、俺の研究も進むだろう。しかし…
三人とも眠りつづける少女の顔を見ている。その顔は、純真無垢というような、何も知らない…幸せそうな顔だった。
「ああ、いつか話さなければならないとは思ってはいたが…」
間を置いてカールは言った。その顔は昨日とは打って変わって真剣だった。
再び沈黙が部屋を包み込む。
「はぁ、今はそんな事を言っている場合ではない…
キレッド・マークイーン様の言葉を覚えているか?」
クリスが静かに言った。その顔は真剣で、何かを考えている。
「ああ。『二度と言与師を蘇らせてはならない。次に言与師が覚醒する時は世界が消滅する。もし、言与師となる者が見つかったのなら…覚醒する前に殺せ』そう言って息を引き取られた」
ヤクラはしばらく考えたあと、努めて冷静に言った。
涙もろいカールは思い出して目に涙をためている。


言与師の存在があったことを知る者ももう少ない。
キレッド・マークイーン────六代目にして最後の言与師。言与師は万物を越える神とも言われる存在。すべての源にして創造と消滅の神。すべてを創造し、すべてを消滅させる力を持つ。この世界を創造したのも、初代言与師。とすれば言与師なら、この世界を消滅させることもたやすい。
しかし万能に思える言与師にも死というものは存在する。もちろん言術師にも。ただ常人よりはるかに寿命は長いが。
言与師の覚醒は言与師によって為される。しかし、マークイーンは七代目を覚醒させることなく息を引き取った。その為、言与師の変わりに言術師を作った


「莫迦にしては良い記憶力だ。もしマークイーン様の言う通りにするなら…この娘を殺さなければならない」
クリスはヤクラをバカにしつつ、真面目な顔で言った。
一日に二度もバカにされ、ヤクラは怒りで顔が赤い。手にも拳を作っている。
「しかし…」
「それはイカン。絶対イカン。断じてイカーーーーーーーン」
カールはヤクラの言葉を遮って叫んだ。と言うよりも泣き叫んだと言ったほうが正確か…
「自分の生徒を殺すなど、この命に代えてもできることではない」
泣きながら(?)カールは言った。
「そうだ。できれば俺も殺すようなことはしたくない。我々が覚醒させることはできないのか?クリス」
「やはり筋金入りの莫迦か。そんな事をしたら『黒の牙』の思う壷だ。それに我らがやるには危険が大きすぎる。下手したら…世界が滅ぶ」
ヤクラは赤い顔をさらに赤くした。
ヤクラにとっては世界の滅亡より、自分がバカにされたことのほうが上らしい。
「それならやはり殺すしか方法はないのか」
ヤクラは怒り狂った声で言った。
「はぁぁぁ。もう救いようのない莫迦だな。誰がそんな事を言った。もう少しその中身のない脳みそで考えろ。我もできればそんなことはしたくない。我々がするべきことは二つだ。一つ目はその少女が言与師として覚醒しないように注意すること。二つ目は『黒の牙』を壊滅させることだ。どうだ?その頭の中に入っているタケヤみそでも分かっただろう?」
ついにヤクラもプッツンきた。
「クゥリィスゥゥゥゥゥ!!!」
ダダダダ  ドォン  バッコーン
言術を使ってヤクラがクリスを追いまわして、その横でカールはまだ泣いている。
ガガガガガガ  ダーン
真面目な話のはずが、何故こうなるのか?
それは誰にもわからない…

そんな騒ぎで、原因の少女が目を覚ました。

 

No.47 (修正済)

2004/02/02(月) 23:54:27

Bucho-

 

14話(うあー)

 

「ん…?」
 睡眠から覚醒へと向かう意識が、少女に僅かな声を上げさせる。
 カールがこれからの行く先を考え雄叫びを上げる室内、ヤクラに追い掛け回されている状況で、クリスがその微かな声を聞き取ってひょいと眉を上げた。
 そして、全力疾走から運動量0へ。
「うっ、おわっ、お前っ、んな突然止まるな…っ!!」
 当然、その後ろを走っていたヤクラは対応出来ない。
「ん? ああ、すまんな」
 クリスはすっと体を捩る。
 当然、止まれないヤクラはクリスのいた場所を通過して…
「げはぁっ!!」
 盛大に、壁に激突する。
「猪のように走っているからだ。この阿呆が」
「て、てめえ…莫迦だけならず阿呆とまでも…」
 既にヤクラの中ではクリスへの殺意が殺した状況を想像出来る程ハッキリした形を取っていたのだが、
「そんな事より、お姫様のお目覚めだぞ。大人しくしろ」
 その声で、一気に消えた。
「何だって!?」
 大慌てで立ち上がり、ベッドの方を見る。
 そこには。
「君、大丈夫か? 私の事は分かるかい?」
 ヤクラ達から『お姫様』の姿が見えないほど、ベッドに圧し掛かっているカールがいた。
「………この、変態ジジイがあああああああ!!」
 慌てて(というより、遂にブチ切れて)カールをどかそうとしたヤクラだが、クリスに止められた。正しく言えば、転ばされて止められた。
「がほぁっ!!」
「静かにしろ。彼女が錯乱したらどうするんだ」
「し、しかし…」
 腕組みをして、クリスは眉間に皺を寄せながら言う。
「この中で彼女と面識があるのはカールだけだ。誠に不本意ではあるが、彼に委ねるしかあるまい」
「(不本意って)だ、だがもしあの馬鹿が道を踏み違えたら…」
「その時はそのまま地獄まで落ちてもらおう」
 クリスの目は本気だった。
 彼女はいつだって、(ある意味で)三人の中で一番強い。

   (…貴方は、誰…?)
 闇とも光とも取れぬ意識の中、少女は『その人』に問い掛ける。
 いつだって自分を見ていてくれる人。自分を深い所で支えてくれた人。自分の幸せを、何よりも祈ってくれている人。
「      」
 声が聞こえた。自分の名前。自分だけの名前。それがあるから、自分と認識出来るもの。でも、『それ』を呼ぶ人は…
   ねえ、貴方は、誰…?
 少女はゆっくりと目を開けた。

「おお、気が付いたか!」
 目が覚めて最初に見たものは、自分の面前5cmにあるダンディーな三十歳くらいの男の顔。
「………」
 暫くフリーズしていた少女の頭は、ちょうど3.26秒後にフルスロットルで起動した。
 そして、オヤジの体を満身の力で突き飛ばす。
「………いやああああああああああああ!!」
 打撃の前に息を吐くと威力は上がる。少女の攻撃の仕方は、この上もなく正しかった。
「………」
「………」
 仁王立ちのクリスと片足にやや体重を傾けて立っていたヤクラは、壁に激突し気絶したカールとベッドの上で荒い息を吐いている少女を暫く見た。
「お前、どっちの味方?」
 ヤクラが無表情に問う。
「…愚問だな」
 クリスも無表情に答える。
「何でイく? 俺はやっぱ、ストレートに火あぶりがいいと思うんだけど」
「私の家まで燃やすつもりか」
「じゃあ、絶対零度まで凍らせて粉々に砕く?」
「それもいいが、何か捻りが欲しいな」
「魔獣のエサ…は、食わされる方が可哀想か」
「魔法実験の素体も、結果に影響が出そうだしな…」
「う〜ん…」
 クリスが二、三回頭を振って、それからふと顔を上げた。
「そうだ」
「ん?」
「さっきは失敗してしまったから、この技を使おう。おいヤクラ、手伝ってくれ」
 きょとんとしていたヤクラだったが、意味が分かると露骨に嫌そうな顔をする。
「早くしろ。一度やってみたいと思っていたんだ。言術師クラスへの『スティール』の使用」
 クリスは子供のようにはしゃいだ。

 

No.49 (修正済)

2004/02/07(土) 18:57:23

少年アリス

 

15話真鬼サイド

 

「クリスやめろ。彼女が怖がるであろう」
先程から騒がしくしていた世界1強い言術師達は二度目の沈黙を要した。
「大丈夫か?何処か痛みや、吐き気はないか?」
「あ、あの、彼方は?」
「っと、スマナイ。自己紹介を忘れていたな。俺の名前は真鬼だ。そこでカールを弄っている女性が俺の主人のクリスだ。その隣の少年がヤクラ。そして、転がっているのがお前も知っているだろうカールだ」
指を刺しながら説明する真鬼。

「真鬼、少年はないだろう?」
と、ヤクラが軽くパンチしてくる。
「買出しご苦労」
とクリス。
「はがぁぁ〜」
とカール。

「あのココは何所なんですか?」
「先に俺の質問に答えてくれ。何処か異常はないか?」
人間は弱い。
俺の主人達は普通の人間じゃないし外傷など、殆ど付けられた事がないので心配はしないが、普通の人間は違う。
人間は弱い。
「あ、えっと、大丈夫です」
確認するように腕などを曲げてみたりする。
「それでは、お前の質問に答え・・・・」
「乱暴だねぇ、レディに対してお前お前って・・・マドマーゼル、貴女のお名前をお聞きして宜しいか?」
また新キャラが現れる。
「焔鬼!!」
カールが逆さになりながら叫ぶ。

 

No.52

2004/02/07(土) 20:41:57

少年アリス

 

ここで、キャラの整理をしようと思う

 

ハイ、15話まで来ちゃいましたが・・・・題名にクルト魔術学院と書いてるのに学院が出てきてない!!!(涙)
っということで、そのうち一気にそう言う展開にしようと思う今日この頃。

さて、ここまで来て、色々キャラが増えたので、整理しようと思う。


主役
ヤクラ=ジークリード
言術師
動のジークリードと呼ばれ、体術を得意とする。
キレやすいが冷めやすい。
考えているが、野性的に動く。
術のタイプは炎と風を得意とするらしい。

クリストファー・ジークリード
言術師
心のジークリード。
体の一部を変化させる術が得意。
剣と言術の力を両立して使う。
ジークリードの中では、心を静め、本来の力を出す能力がある。

カール・ジークリード
言術師
知のジークリード
ダンディな形だが、ジークリードの中では1番弱い気がする
どちらかと言えば、作戦参謀の力が高い
ヤラレ役っぽい(笑)

憑き鬼
水鬼
ヤクラの憑き鬼
水の聖霊が鬼と融合した聖鬼
冷静沈着無表情

真鬼
クリスの憑き鬼
真の鬼
鬼の中の純血種
戦闘能力は聖鬼より勝る。
無礼な口調だが、相手を思いやる心を持つ。

焔鬼
カールの憑き鬼
焔の聖霊が鬼と融合した聖鬼
紳士(以上(だって全然出てないんだもん))

赤いローブを身に纏った男性
不明
何か偉そう。


銀の髪を持つ言与師になり得る少女(長いな)
未だ名前がない中心人物。
誰か名前を与えてあげて(笑)


以上。

 

No.53 (修正済)

2004/02/08(日) 20:19:34

夜神

 

16話 その少女の名を知るものは…叫んでいた?!

 

少女は次々現れる新キャラに戸惑っていた。
「真鬼に焔鬼、ヤメーーーーイ!!」
ヤクラが助け舟を出した。
「お前らのせいで彼女が怯えてるじゃないか!!」
「そうだぞ、真鬼。お前にはスキンシップと言うものが足りん。
  手本を見せてやる。ちゃんと見てろよ
☆%&$●」
カールはわけの分からない言葉を発し、少女にもう一度抱きつこうとした。
というより襲いかかった。
「キャー!!」
ボコ バキ ドス
ものすごい効果音と共にカールは床に突っ伏した。
どうやらヤクラの助け舟は裏目に出たようだ。
少女はさらに怯えている?のか
顔を真っ赤にして、フゥフゥ言っている。
「さて、今度は何が良いかなぁ?
 殺ろう♪殺ろう♪どうやって殺ろう♪ 
 凍死?焼死?それとも溺死?爆死?どれがいい?♪」
クリスのカールを殺る時の歌──作詞・作曲クリス 編曲ヤクラ
クリスはとても嬉しそうに歌っている。
その顔は天使の微笑みとも、般若の形相とも取れる顔だった。
一種の死刑宣告である。
「ギャー!ヤメテー!!」
カールが叫んでいるが、誰も助けようとしない。
それどころか、焔鬼と真鬼に押さえつけられている。
 
 
「さて、あっちはほっといて、一つずつ解決していこう」
もうあきれたのか、向こうは無いかのようにヤクラが進める。
「まず、君の質問だったね。ここは聖王国の中で、クリスの家だよ。クリスはあっちで遊んでいる主犯格」
「はぁ」
少女は向こうが気になるのか、目をキョロキョロさせている。
「とりあえず、君の名前聞かせてもらえるかな?」
「分かりました。私の名前は…名前は
 ………分かりません」
すべてが沈黙した。
クリスたちも遊びながら聞いていたのだろう。
全員が黙りこくった。

 

いや、変な物体以外が
「ヤ〜メ〜テ〜ク〜レ〜!」
変な物体はそう叫んでいた

 

No.54 (修正済)

2004/02/08(日) 23:54:29

Bucho-

 

17話(遂にやってしまった…)

 

「分からない?」
 微妙に硬直した顔で、ヤクラがゆっくりと訊き返す。
「はい…分かりません」
「イヤーやめてーそれだけはー!! 末代までわーらーわーれーるー!!」
 後ろでは、未だ叫び声が続いている。
「…黙れ」
 低い声と、言葉では表現出来ないような壮絶な音が一度だけ響き、再び室内は静かになった。
 ヤクラは改めて、目の前の少女を見つめた。
 身体的にも異常はない(と思う。クリスが診たので不服だが正しい)。見た所、容姿以外はごくごく普通の子に見えるし、その容姿も、悪いというよりか良い。というか、メチャメチャ可愛い。長い銀髪も、しっかりしているようで幼さの残る顔立ちも、全てヤクラのストライ…
「…ヤクラ? どうかしたのかな?」
 クリスが鈴のような声で訊いてくる。
  …寒気がした。いや気のせいだ。ああそうに違いない。
「いや、何でもない。で、本当に名前が分からないのか?」
「はい。分かりません」
 はっきりしすぎる回答を貰って、ヤクラは思わずため息をついてしまった。
「年齢は?」
 後ろから、腕組みをしたクリスが問い掛ける。混乱しながらも彼女は答えた。「16…7歳」曖昧なものではあったが。
 それから暫く、二人の質問と回答は続く。年齢。家族構成。クルト魔術学院のこと。これらはおぼろげに憶えていた。ただ、最近の記憶や子供の頃の記憶、そして名前は、忘れている。
「…どうだ?」
「どうにも中途半端だな。忘れている記憶もあれば、憶えているものもある。しかし、どれかを忘れさせどれかを残そう、という意思が見受けられない。全て消そうとして失敗した、というのが最も有力だが、私からすれば、腑に落ちんな」
 ヤクラが訊いてクリスが答え、もう一度、二人は考え込む。
 彼らを不安そうに見ていた少女の銀糸の髪が、一度だけ、揺れた。

「ナディア=スベトラーナ」
 窓枠に腰掛け、『そいつ』はそう言った。
 腰まである漆黒の髪。長めの前髪から覗く、金色と赫の瞳。精悍な女性にも、女顔の男性にも見える顔立ち。言葉を紡いだ声も、男にしてはやや高く女にしては低い。
「君の名前だよ、お嬢さん」
 呆然とする全員を労わるかのように、『そいつ』は薄く微笑んだ。
「…っ!! 貴様!!!」
 突如、鬼のような形相でヤクラが叫ぶ。左手には既に言術のエネルギーが集結しつつあった。
「やめろ」
 クリスが殴り事なきを得る。当のヤクラは床に沈んでしまったが。
 『そいつ』が決して自分達に危害を加えない事を、だからこそ、ヤクラが『そいつ』をいつも殺そうとする事を、彼女は十分知っていた。
「私の、名前…?」
 震える声で少女が尋ねる。安心させるように『そいつ』は微笑んだままだ。
「そう。付けたのは君の御両親ではないけれど、でも、君にとってとても大切な人が与えた名だ」
「え? じ、じゃあ、お父さん達が付けてくれた名前は…」
「その辺は『彼』が知っているよ。何せ君は、そこの男の、命より大事な生徒だからね」
 カールを指しておどけたように言い、ベッドに近寄って少女の髪を撫でる。
「…沢山怖かったし、淋しかったし、辛かったよね。これからも、きっとそうだよね。でも安心して欲しい。君には、君と共に歩いてくれる人達が沢山いる。君の幸せを、何より祈る人もね。だから、きっと乗り越えていける」
 その瞳は、深く、暗く、暖かく、優しく、どこまでも―救いのない、金と赫。
「忘れないで」
 何も出来ない彼らを尻目に、『そいつ』はナディアと呼んだ少女の髪に、キスをした。
「君は、望まれて生まれてきた。そしてその未来には、必ず、希望と幸福がある」
 いとおしむように言って、身を翻し窓へ向かう。
「待って!」
 少女は急いで呼び止めた。
「貴方は…貴方は誰?」
 『そいつ』は、初めて微笑を崩し、笑っているが泣きそうな、やりきれない顔になった。
「…絶望だよ」
「…?」
 吐息のようなその一言が答えだと知るまで、数秒。
「この世の何よりも、絶望『らしい』、絶望」
 だから、その瞳は、笑顔は、どこまでも、病んでいる。
「………わ、私は」
 かさかさに渇く喉から、少女は必死に声を絞り出した。
「貴方の、名前を訊いたの…!!」
 『そいつ』は目を見開いて驚き、そしてまた、笑う。
「…フェアバインフェルト。でも殆どは、『リオン』…って、呼ばれてる」
 『リオン』と名乗ったそいつは最初のように笑うと、呆然とする少女を残し、窓枠に立った。
 そして、振り返る。
「ナディア」
 ナディアの目が見開いた。
「さよなら」
 リオンは笑って―消えた。

 

 

 

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