パーフェクト外伝
―すみません。あなたって、修斗さんですよね。
―……まあそうだけど。だれですか?
―えっと……秋です。松永 秋。隣のクラスの。
―……ああ、名前だけなら知ってます。
―どうして知ってるんですか?
―学校中の人の名前だったら暗唱できますから。
―すごいですね。
―……で、何の用ですか?
―いえ、特にないんですけど、一目、私と同じ女性からキャーキャー言われてる修斗さんをみようと思って……。
―なんで?
―いえ……特に何でもありません。
―そう……何も用ないんですか。
―あの……迷惑ですか?
―いや……そうじゃなくて、めずらしい人だなって・・。思っただけです。
― ?
―秋さーん。行きましょ。
―はーい。じゃあ、また来ますから。
―来なくていいです。
―じゃあ、また。
―え……。
―秋さん、修斗さんと話してたんですか?
―ええ、まあ。
―いいですね。私も話してみたいです。
―あんな完璧な人と、いっしょになれたら素敵ですよね。
―……でも、結構陰がありましたよ。
―そうなの? あんなステキな人が?
―完璧すぎて、神の人って感じですよね……―――
心地よい風。
木の葉のさえずり。
小鳥達のハーモニー。
水面が揺れ、魅力ある光沢を放っている。
そんな中にいたら、必ず眠りに落ちてしまう。
俺も必然的に眠りに落ちていた。
そこからのぼり、目をぼんやりと開く。
秋……。今の時期の事ではない。
めずらしく、俺に一人で、用もなく話し掛けてきた女子。
このころは、確かもう例の事件の後で、学校中が俺を上に見ていた。
そんな中。普通に話し掛けてきたのが……秋だった。
中学時代。敬語を使っていたんだな……。
夢に見てて吐き気がした。
貴族用高校に入学しなくて本当に良かったと思う。
圓城高校は、気楽だ。
中学のころも、高校と同じように、憩いの場所を作っていたんだ。
今みたいに湖はないけれど、心休まる場所。
ほとんど毎日、そして、授業もふけていったときもしばしば。
そして、それは、授業をサボってその場所に行った時……。
「なんでこんな問題解かなくちゃいけないんだ?」
問題集に目を落としながら愚痴を吐く。
問題が簡単すぎる。
見ただけで即答できそうな問題ばっかだ。
溜め息をついて、木に体を預ける。
そして目をつぶる。
心地よい風に、木の葉のさえずり。小鳥達のハーモニー。
日光がちょうどいい具合に差し込んでいる。
そして、誰かの足音……!?
「あ、サボり発見」
俺は体を起こし、声の発生源に目を走らせる。
女子が立っていた。
俺は目を見開き、その女子を見る。
「……誰だっけ?」
「……秋です。」
名前だけ訊くと、あとは何も興味がなくなってしまったので、また木に体重を預けた。
「あの……隣、迷惑でしょうか?」
「別に」
そう言い放つ。
秋さんは戸惑っていたが、俺の隣の木に体重を預けた。
「サボってて良いのですか?」
「そりゃお互い様だと思うけど……」
「私は大丈夫です。もう今やってる授業すべて百点取る自信ありますから」
「そういう問題でもないんだけどね……」
会話が途切れる。
俺は元からどうでも良かったので、途切れる事はどうでもないのだが、秋さんは何を話そうか一生懸命考えている。
俺はまた眠りかけていると、ある疑問が浮かぶ。
ここは俺しか来てないはずだ。なぜ秋さんがこの場所を知っているんだ?
「どうやってここまで来たの?」
「歩いてです」
「質問の仕方が悪かった。どうやってここを知った?」
秋さんは俺から視線をはずす。そして、また俺のほうを見た。
「修斗さんって、ここではタメ口なんですね」
180度話題転換させられた。なにか触れてはいけない質問をしたのだろうか。もしかしてストーカーだったり……。
「いっときますけど、付けてきたわけではありませんからね」
心を読んだのか俺の表情に表れていたのか知らないが、秋さんは慌てて言った。
「まあ……タメ口ってのは……つーか、敬語が嫌いなんだ。学校では使わないとダメだろ? ここではどうでも良いからな」
「私には話してますね」
「……学校外だからな」
たぶん。そう思う。秋さんにため口だという意味はないと思う。思う。うん。
「修斗さんってあれですよね、今、連続で百点取りつづけてますよね」
「まあ……な」
もうばれてから、隠そうなんて思わなくなったし、テストも、全力と言うかそんな感じでやっている。
ていうか、今かなり眠い状態なのだ。
「驚異の怒涛の連続百点快進撃を続けてるんですよね」
「……読みづらい」眠いからなおさら。
「驚異の怒涛の連続百点快進撃です」
「だから、漢字続けすぎ」
「そんな、読者側から意見言わないで下さいよ」
「だって……なぁ……」
「わかりました。きょういのどとうのれんぞくひゃくてんかいしんげき」
「平仮名にすると、もっと読みづらいぞ」
「じゃあ、キョウイノドトウノレンゾ―――」
「もういい」
俺は起き上がり、秋さんの口を抑える。一生くだらない会話で、過ごさなければいけなくなりそうだったからだ。
「なんでそんなくだらない事を言うんだ?」
やれやれといった感じで言う。眠気は飛んだ。
「私、何かおかしな事言いましたか?」
これが彼女の素なのだろう。
思わず笑ってしまう。
「変な奴だな。お前って」
秋さんも微笑して返事を返す。
「そうですか?」
そして、秋さんは微笑みながら話を続ける。
「修斗さん。やっと笑いましたね。
「へ?」
「ずっと、修斗さんって、学校内では全部作り笑いだったから、本当の笑い見てみたかったんです」
「……よく分かったな」
確かに、本当に笑うときはたまにだ。いつも表情を作り、それが当たり前になってしまった。表情が強張っていったんだろう。
「ってみんなが言ってました」
イタズラっぽい笑顔を浮かべ、俺を見る。
「そうか、じゃあ、もっとポーカーフェイスを鍛えないとな」
「わかりやすい性格の人のほうが好かれますよ」
「いーんだよ。俺が決めた事なんだから」
またお互いに笑っていた。
そう、このとき、初めて女子と気楽に話せたのだ。
それから、2,3日、このように会話していたが、秋は、親の都合で、外国に行かなければいけなくなり、その一週間後に転校した。
後々聞けば、秋は俺のことが好きだったという。
だから、俺に勇気をだして話し掛けたのだろう。
俺も、あのころは、秋のことが気になってしょうがなかったんだと思う。
最後に会いに来て、言った言葉。
『修斗さんだったら、絶対いい人見つかりますよ。』
どうだろうか……?
見つかるのだろうか……?
秋への想いももうとっくに消えていたのだが、久しぶりに思い出した。
ま、このまま独身でもかまわないし、どうせ親がお見合いで結婚相手を決めるだろう。好きな奴がいればそれはしないと言っていたが、出来そうにないしな。
もう会える事はないだろう。例え会っても、もう気持ちは戻らないと思う。ぶり返す事はないだろう。
もう、あのころと違って、俺の心は、もっと堅いものになってしまっているから。
俺をみんなに見せる事が、……抜け出す事なのかもしれない。
ま、気長に考えよう。
また……気楽に話せる女の人は、出てくるのだろうか……。
―――江津と瑠那と出逢う、一週間前の出来事であった。
HR
いきなりですいませんが、本編に秋さんを出す予定は一切ありません。
四角関係なんて、まっぴらゴメンです。
物語に名前は出てくるでしょうが、人物は出しません。
いやです。何があろうと出しません。
外伝だけの人物です。
出しませんからね。(しつこい)
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