〔7〕 天罰
いきなり愚痴で悪いが言わせてもらう。
隼也先生は、俺を使って楽しんでいるんだろう。
そりゃあね、言い争いでは俺の方が優勢だよ。
だからってさ、こう言う状況を作るってのはどうかと思う。
教室に響くカリカリという音。さらには先生のあくび。
時計の針の音さえ大きく聞こえる。
今日は十二月上旬。
今日は第二回クリーンバトル会議があって、クラスごとに集めた意見を発表した。
はずだったんだが……。
俺は意見の数に驚いた。
一学年十一クラス。なので一学年四百四十人。そして全校生徒は千三百二十人。
新しい意見なんて、クラスで多くても五、六個が限度だろうと思っていた。
だが、そんな考えは甘かった。
さすが有名高校に集められた人たちだと痛感した。
一人1,5個ぐらいの意見を出してくる。
しかも全部ダブってないときたもんだ。
なので、いったん学年ごとにまとめる事になった。
そして、学年の学級委員20名の中から、先生は無作為に三名残したはずなんだ。
はず……ない。ぜったいわざとだよな。
今教室にいる人は俺と、先生と……江津と瑠那。
俺は集計しながら、二人に警戒をはらっていた。
瑠那はもちろん俺のメガネを取らせる事を阻止する事。
江津の場合は、俺がメガネとるとカッコイイ人になるって事をしゃべらせない事。
ダブルで緊迫状態だ。
俺はあのバスの出来事以来、俺は瑠那にストーカーのごとく付きまとわれた。
どんな意見もどんな行動も受け流していた。
一番ひどかったのは、家までつけられそうになった事。
あの時は先生宅にかくまってもらったのだが、その選択は誤りだったかもしれない。
ちょっとこの回想を読んで欲しい。
バタン!
俺は先生の家に逃げるようにして飛び込むと、急いでかぎをしめた。
俺はドアに耳をあてて、瑠那の声に集中した。
追われる身ってこんなに辛いものなんだな。
俺は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「あぁ! もう! もうちょっとで尾行成功だったのに!」
でも瑠那の行動は尾行というより、鬼ごっこの鬼に近いような気がしたのだが……。
「ここらへんに入ったと思ったのにな……」
確かに入ったけどね。
「あーあ。しょうがない。今度にするか」
瑠那の舌打ち音が聞こえると、階段を誰かが降りる音がした。
助かった……。
だけど今度にするかってのは気になる。
そうか……これからは乗るバスを一個ずらすか。
でもクラス一緒だしな……。
変えようにもなかなか変えらんないよ……。
「そういえば」
瑠那の声が突然聞こえた。
俺はいそいで耳を傾ける。
「隣に大きい家があったな……」
となりの大きい家……俺んちかい!
「ちょっと覗いてこうかな」
ヤヴァイ……表札が……。
『延暦寺』なんて名字、全国探しても俺ぐらいだろう。
隣の家の姓が、『延暦寺』って事が判明したら、顔よりもまずい事が起きる。
俺が金持ちボンボンのお坊ちゃまってことがばれる!
行くな!
見に行かないでくれ!
普通の生活が送れなくなるだろ!
「いいややっぱり。絶対今度は探し出してやる」
これでもう声は聞こえなくなった。
俺はその場に座り込んだ。
最後の瑠那の言葉を思い出すと、背中がゾクッとする。
顔ならまだしも家までばれたんじゃ……俺学校止めるかもな。
とりあえず俺はメガネをはずし、アイロンでしゃんとなっている制服に着替え直し、髪をくしでといた。
今すぐでたら見つかりそうだよな……。
俺は先生宅に少しの間いる事にした。
俺は隼先宅の合鍵を持っている。
先生と俺がここに入るのは、ほとんどばらばらなので、俺は合鍵を持ってなくてはならない。
一度、『俺なんかにこんなもん持たせといて、俺が何か盗んだらどうすんだ?』と訊いた事がある。俺と先生との会話は、周りに誰もいない限り五割方タメ口だ。
『お前が盗むわきゃね〜だろ。お前は好きなもんなんでも手にはいんだし』
確かにその通りだったが……寂しいものがあるよな。
俺はほとんど親のすねかじりかもしれない。
一個だけ自分で作ったものもあったけどな。
それは小学五年生のころ……
やめとこ。長くなりそうだしな。
俺は部屋の中に目をやった。
いつも通り汚い。
俺は脱ぎっぱなしになっている服を摘み上げてみた。
思ったより臭くはないんだが……先入観がな……。
「しょうがない。いつも世話になってるからな」
俺は先生のとてつもなく汚い部屋を掃除し始めた。
本当は先生が自分でやったほうがいいんだろうけど、先生は絶対やらない。そんなんだから恋人ができないんだ。
などと愚痴交じりで作業していた。
だがあまり苦ではない。
掃除洗濯家事一般なら何でもできる自信があるし、なにより掃除するのが好きだ。汚いのはほっとけない。湖のほとりの手入れも時々している。学校全体は無理だけどな。
あといいストレス発散になるし。こっちの方が本音かもしれない。
そして黙々と作業をして三十分。
部屋の半分が綺麗になった。
まだ半分かって感じもするが、初めの汚さと比べたら全然いい。
俺は淡々と作業を続けていた。
小一時間ぐらい経ったろうか。いやもっと経った。すっかり部屋は片付いた。最後に乾燥機が止まれば完成だ。乾燥機がちょっと壊れてたんで、それを直すのにも時間を喰った。
「ふう」
俺は部屋を見渡してため息をつく。
異様な光景だ。
何が異様って、先生の部屋が綺麗なんてまずありえない。
すると、ガチャガチャっとドアの方で音が聞こえる。
「あれ?」
先生の声がした。
俺の位置からじゃ先生は見えない。逆もまたしかり。
なんでか分からないが、少しの間沈黙が訪れた。
「間違えました。すいません」
今度は先生のすまなそうな声が聞こえる。
って、え!?
「先生待った!」
俺は急いで飛び出して先生を引きとめた。
「合ってるから大丈夫」
「お、やっぱり合ってたか。いや、俺の部屋とは思えないほど綺麗だったから」
そう言うと、先生が部屋に上がってきた。
先生は部屋を見渡している。
「修、お前がやったのか?」
「感謝してよ」
「……俺の部屋ってこんなに広かったか?」
先生は自分の部屋の広さに感動している。
俺は部屋の真ん中に座り込んだ。
自分で綺麗にした部屋は気持ちがいいな。たとえ他人の家でも。
「お前……俺の使用人になれ」
先生は俺の前に座り、俺の肩をたたいた。
「却下」
俺はにっこりと微笑み即答した。
「まあ冗談はともかく」
先生は話しを変えた。癖は癖だな。
「お前……下心あるだろ」
いきなりこんな事したから疑うのもしょうがないかもしれない。
何となくってのは先生につうじない。
ストーカー(瑠那)の事もかねて相談してみるか。
「ちょっとストレス発散のためにね」
「ふーん……そういえば、俺の物どこやった」
何も訊いてこねェ。
とりあえず返答する俺。
「汚れた先生の服の下にあったものとか、書類と一緒に混ざってたやつとか、敷布団の下に、置いてあったか隠してあったか分かんないけど、それとか、引出しの奥の奥の方に―――」
「全部言うな。とりあえずそれだ」
「えっと……確か引出しの中に入れたと思うけど」
「アホか。引き出しに入れたら誰かが中に入ってきた時のスリルがないだろう!」
先生は力説した。
「入ってくる人なんて俺ぐらいのくせに……」
俺はぼそぼそつぶやいた。だが悪口はいくら小さくても聞こえるもので、先生にも聞こえていた。
「お前な、その事ばっかで俺をいじめてるといつか天罰下るぞ。覚えてろよ」
「どうなるか」
俺はあざけ笑うかのごとくそれを回避した。
「それは置いといて」
やっぱり先生は話題変えるの早い。
「一応礼はいっておく。さてと、おまえさ、ストレスとか言ってたよな」
……ん? 何の事だ?
ああ、さっきの話しね。
先生の返答が遅すぎたんで忘れそうになっちゃったよ。
「そうそう。俺学校の女子にばれそうになっちゃってさ……ほぼばれてるんだけど」
俺はため息をついた。
「でさ、その女子がさ、うちのクラスの瑠那って名前で―――」
中途半端なところで回想を切ったが、この後俺は瑠那の事、江津の事。ほとんどと言っていいほど話した。
心配事は話すといいもんだね。
気が楽になったよ……ってのはその日の感想で、今はまったく違う。
先生をからかうもんじゃないと……悟ったよ。
少し席は離れているものの、俺は江津と瑠那にはさまれた状態に置かれている。
これも先生の策略だとおもう。
先生。俺が困るの前提でやってるだろうな。
確信犯だ……。先生は自分の利益のためにしか働かないエゴイストなんだ・・。
はあ。
何とか助かってるのは、今この場に先生がいるって事。
いなければ俺はこの場にいる事でさえ昇天しそうだ……………………!?
ガタっ。俺はその音に驚き、先生の方を向いた。
何!? 先生! 行く気か! 止めろ!
俺の心の叫びを嘲笑うごとく先生は無情にも立ち上がり、ドアに向かった。
「じゃあ、先生は他の教室に行くから、絶対に喋らずにやってろよ」
先生は微笑んで出て行った……。
先生……わざわざ注意の部分を強調するなよ……。人間心理上、そんな風に言われると破りたくなるんだよ……とくに瑠那みたいな性格の人は……。
―――って何!? このまま次回まで持ち越し!?
間をはさむな! 俺のこと少しは考えろ!
HR
考えません。(これだけだと独り言ルームじゃなくて、一言ルームだね。
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