[33] LWIM 〜LOVE WAR IN 枕投げ〜 始動

 

 

 隼先が問うた。

『お前の空の中で、俺はどんな役割に配属されてる?』

 俺は答えた。

『雲』

 どうやらその雲は、瞬間最大風速を40mを軽く記録してしまいそうな、台風だったようだ。

 

 

「枕投げ?」

「多分。隼也先生がやろうとか言ってたから」

 俺が問うと、江津が答える。

 俺が便所に行っている間に、それは決まったらしい。

 疾風迅雷。まさに神業的な早さ。

 しかしながら、発案者が隼先というところに引っかかる。

 あの大きな広間の入り口付近に、俺ら二人は立っていた。

 江津は、俺がトイレに向った後、枕投げをなんたらと聞いたところで、台所に飲み物を貰いに行ったらしい。つまり、俺らはハブラレたわけだ。

 中には誰もいない。多分、枕を取りに行っているのだろう。物置辺りにしまってあるんじゃないかな。

「修斗? 枕投げをするには、枕どれぐらい必要だと思う?」

「そうだな……これだけ広いから、一人二個持てるぐらい……十数個かな」

 あまり多すぎても面白くないが少なすぎても逆に面白くない。拾いに行くのにひぃひぃ言いながらなんて、考えただけで馬鹿らしい。

「なあ……江津?」

「ん? 何?」

「――栄美が、何か言ってなかった?」

「え、修斗関連で?」

「そう」

「えっと……」黙考してから、「……あの事?」

「俺は読心術を使えるほど人間離れしてないからな」

「だって……言い辛いし……私の口からじゃ……」

「じゃあいい。だいたい分かったから」

 栄美はフェアな戦いを好んでいたはずだ。ということは、瑠那も知っているわけか。

 俺が、二人を、好きだって言うこと。

 栄美が言わないはずがないとは思ってたけど、やはり、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 とにかく、今はその考えを捨てる。

「とりあえずさ、ここに立ってないで中入らないか?」

「あ、そうだね」

 さっきも述べたけど、入り口付近に俺らはいるわけだ。具体的にいうと、江津が敷居の上にいて、俺が部屋の外にいる。

 江津が中に入ろうとして、体を部屋の中に向けた。一歩歩いたところでぴたりと立ち止まり、俺を見た。

「……広いって、困るよね」

「確かにな」

 つまるところ、江津はこのただっぴろい部屋(しかもあるのは畳のみ)で、どこにどう自分は存在していいのか分からないのだろう。

 部屋の中央ってのもでしゃばっている気がするし、端ってのも陰鬱だし、それらの中間ってのも優柔不断っぽいし。

 はは……俺の部屋を髣髴(ほうふつ)とさせるな。

 俺の部屋は家具があるからまだしも……こういう虚とした空間に、人間はひたすら弱い。

「江津の好きなところに行けば? 俺はそれに合わせるし」

「―――じゃあここでいいや」

「ふーん………決断はいいけどさ、とりあえずそこをどいてくんない?」

 突然の声に、俺らはいっせいに部屋の中に入った。

 体勢を立て直し、声の主を見やる。

「あ、瑠那」

 確信はない。声質だけで判断した。

 枕であろう物体を、何個か分からないぐらい持っているので瑠那の顔が望めない。

 何だか見ていて居た堪れなくなったので、顔が見えるぐらいまで白い物体を持ってあげた。

「―――これ、まくらだよな」

「うん、それ以外に何かにみえる?」

「じゃ……何個ほど持ってきたんだ?」

「十三個。まったく、女の子にこんなことさせるなんて」

 そう言って、瑠那は枕を部屋の中に放り投げた。俺も数個の枕を投げる。

 ―――瑠那が十三個。さて、単純計算で枕はあと何個やってくるでしょう?

 瑠那の他に、香甲斐、秀二、栄美、隼先、美奈津先生の五人が運んでくるのだ。

 瑠那が十三個。つーことは、美奈津先生も十三……いや、八個だな。なんというか、勘というか。

 栄美もそんな感じだと思う。ちゃっかり五個かもしれない。

 香甲斐……そうだな、十五個。そうすると秀二も十五個だろう。

 隼先……言い出しっぺらしいし、十六個で。

 合計、七十二個。キリが悪いから七十個。

 

 ――数分後。

 

「どこからかき集めてきたんですか?」

「修斗君も野暮ね。うちは民宿だったのよ。ちょっと古いけど、使えないことはないわ」

 計六十九個。

 各々が持ってきた総数もほぼ一緒だ。違いは隼先が持ってきた枕が一つ少なかったぐらい。

 美奈津先生の親は、物をなかなか捨てられないタイプらしい。そうやって物はたまってって、どんどん押入れが窮屈になっていく。そういうのってパンパンになった時に気付くんだから、世話無いよな。

 ――つーか、まったく脈絡ねぇ。

「で、枕なげなんだっけ?」

 いつの間にか近くに来ていた隼先に訊いてみる。

「そうそう。まさしく修学旅行って感じがするよな」

 目が爛々と輝いている。まさに少年。

 ――仕方ない、俺も、今日ぐらい、―――本気でやってやるか。

 などと安穏に思いつつ、枕たちを部屋の中心に運んだ。

 山が出来上がった。棒でも立てて山崩しでもしたら面白いんじゃないかな。

 妙に感心しながらその山を眺めていると、ふと隼先と美奈津先生が視界に入った。どうやら俗に言う内緒話をしている。

「……ってのはどう……」

「……君は……かも……」

「……れたら…………とか……」

「………対……すよ」

 途切れ途切れの声が聞こえる。常人だったらこうも聞き取れないだろう。といっても、これじゃ聞き取れないと同じなんだけど。

 ただ、第六感が告げている。

 この会話を中断させないと、危険なことになるぞ。

 第六感をどう解釈すれば妥当か、目を瞑って考えてみる。

 刹那、俺は右手を顔の高さで左から右へと払った。ばんっと腕に何かが当たり、勢いを反らされたそれは俺の横に落下した。

 目を開けると、隼先と目が合った。

「ほら、言った通りでしょう?」美奈津先生にそう言った後、「よし、修斗、的になってくれないか」

 

 

 ルール。

 エリアを設定するので(一辺7、8メートルの正方形)その中からは投げないこと。

 枕は、投げられるのなら数個投げても良い。

 的となる人は、飛んできた枕を回避やキャッチするのはよいが、その枕を投げ返さないこと。

 的となる人、つまり俺だ。

 俺は不承不承真ん中に立っていた。

 いくら俺だって反対したさ。そんな七対一になるような状況を好む人はいないだろ? だけど俺が今こうしている理由。ははは、聞くのは野暮ってもんじゃないか? 誰がこの七人の同盟に勝てるって言うんだ……。

 

『いいか、この勝負は重要なんだ。だからこそ、当たりづらいお前が真ん中をやらなくちゃいけない。秀二と香甲斐が、明日の栄美独占権をかけてのゲームなんだ』

『いや、人を賞品にするのはどうかと……』

『栄美も乗り気だ』

『さいですか』

『簡単に当たってしまうやつじゃ駄目なんだよ。だからこそお前が真ん中だ。簡単に避ける自信はあるだろ?』

『ケースバイケースです』

『よし、決まりだ。そうそう、賞品はお前も含まれてるからな』

『は?』

『よし、全部避けたら俺が何かしてやろう』

 

 隼先との会話。

 これが決定打って訳ではないんだが、この会話一つで皆がやる気になっている事が判明。俺は潔く自分の人生を呪った。

 ――どうにかして、イジラレを治さないと……

 泣きたくなってきたが、これがどうも俺の幸福の条件みたいだ。前にも思ったが、こんどはそれ以上に強い思いだ。

 あと一つのルール。

 俺の上半身に当てなければ意味が無い。

 この制約のおかげでかなり楽ができる。もちろん、脚にも当てさせるつもりはないのだが。

 ここで見返してやらなきゃいけない。俺がどれだけすごいのか。俺にイジラレというレッテルを貼ったことがどれだけ無謀なことだったのか。なーんて、それはただの口実で、とにかく、自分の力を久々に見てみたくなったんだ。

 前の段落の決意が、真ん中に立ってから考えた、なぜ俺はこうしているのかという事の理由。あまりにもポジティブな理由に、実際の俺はしおれた。

 とにかく―――本気でやる。こうしたほうが自分に納得がいく。

 これだったら事足りる。

 はっきり言って自分でも避けられる自信は無い。むしろ不可能。

 部屋の真ん中に俺、ワンサイドに男性陣。もう一方に女性陣。といっても、美奈津先生はほとんど後方で見学だ。

 実質六人での挟み撃ち。

 よし、やってやるよ。避けつづけてやる。

「じゃ、枕投げはじまりな」

 隼先が告げた。

 さぁ、開始だ。

 

 

 

 HR

     まくらなげ開始ですねぇ。修斗が真ん中になった理由がちょっとこじつけ……(泣)

     きにしなーい、きにしない。

     パーフェクト最後のコメディーと言う所でしょうかねぇ……。

     うう、シリアスは書き飽きたよ〜

 

 

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