[31] ビターライフ

 

 美奈津先生の家は、昔、民宿を営んでいたそうだ。

 だからだろうか、とても広い畳の空間がこさえられている。

 10×40Mが概算。ふすまで仕切れば五つの部屋ができる。

 今は空気の流れを作るためふすまがとられている。敷居はもう長い間使われていない。

 先生の母の趣味は、家事一般らしい。だから、畳はあまりいたんでいない。

 部屋の様子を観察し、淡々と語っていると、女性陣が帰ってくる。

「修斗君どうしたの? そんな部屋のど真ん中に座って。それと健次さんは?」

「健次さんなら香甲斐と秀二を連れて、花火を買いに出かけました」

 自分でも分かるくらい、抑揚の無い声で答える。

「――修斗? 疲れてる?」

 江津が問うた声が、右耳から入り左耳から抜けていく。抜けていけなかった声が脳みその海馬辺りで再構築され、何とか言葉を拾う事ができた。

「――なんだか、ここ数ヶ月の疲れがここに来てどっと出た感じです」

 何が引き金となったのか、先生の家についた瞬間に、四股五臓六腑が重くなり、何をするにも億劫になってしまった。

 そして、喋り言葉が敬語となっている。

「修、風呂入ってきなよ」

 流石の瑠那も心配そうにしている。

「背中流してあげるから」

「いや、遠慮しておきます」 

 でも、やっぱり瑠那は瑠那だった。

「修斗先輩、すごいやつれてる……大丈夫ですか?」

 栄美の声がぎりぎり届く。

 コクリと頷いておいたが、本当は、少し駄目そうだ。

 一通り答え終わり、さらに疲労がたまる。

 首を回し、四人を見る。

 体が火照り、湯気が立ち上がっていた。軽く紅潮したほおを持つ顔は、妙に色っぽい。

 四人は先ほど風呂に入っていたのだ。民宿だった頃大きい風呂があったらしく、それを掃除して使ったそうだ。ただ、中のお湯は温泉などではなく、ただのお湯だったそうだが。

 四人とも旅館にありそうな浴衣を着ていた。

 青ベースで、白いラインが上から下まで降りている。着心地もよさそうで、とても涼しそうだ。夏にぴったりだ。

 多分俺や、男性陣三人もこれを着ることになるだろう。

「修斗?」

 いつの間にか四人が近寄ってきて、江津が俺の顔を覗き込んでいた。

 江津の顔に焦点が合わない。風邪ではない、熱でもない。それぐらい自分で分かるのだが、どうしてもやる気が起きない。

 瑠那がぷにぷにと俺のほおをつつく。微妙な感覚しか分からないのだが、かすかな電気信号がそれを感知させた。

 抵抗する余力も無く、ただ遊ばれるだけ。

「修〜、生きてる〜?」

 あ、そうか。女性人が俺を呼ぶとき、全員違う風に呼んでるんだな。

 瑠那が「修」で、江津が「修斗」、栄美が「修斗先輩」で、美奈津先生が「修斗君」。

 これは楽だ。脳みそで声紋判断しなくても誰の言葉か分かるぞ。

「先輩、風邪って訳ではないもんな……夏風邪は馬鹿がひくものだし」

 先ほど言ったように風邪ではない。ふらふらと視界がよどんでいる訳ではないのだ。前ひいた風邪の感覚とは違う。

 虚脱感。魂が抜けたような感じ。強いて言うなら雨風に数年さらされたカカシみたいな状態だろうか。

「今さらですけど、美奈津先生のって大きいですよね」

「………………?」

 栄美の問いの意図がいささか分からなかったのか、先生は一瞬目線を上に上げた。そして目線をまた栄美に戻す。

「そうでもないわよ」

「でも……明らかに私のよりは……」

「まだ栄美ちゃんは高校一年生じゃない。まだまだ成長するわよ」

「でも、最近成長の兆しが見えないんですよ……」

「栄美? 先生? 一応修斗の前だからそう言う話はしないほうがいいと思いますけど……」

「修は何を話してるか分からないんじゃない?」

「――それもそうか」

 ―――存分に分かってますよ、流石に。どう描写していいか分からなかったから、戸惑ってんだよ。

「どうすればいいですかね。私この四人の中で一番あれだし……」

「まぁ、小さいのが好きな人もいるって話だけどね。健次さんはどっちでもいいとか言ってたわよ」

「大は小をかねるって言うじゃないですか」

「栄美、その用法ちょっと違うし……それと、本当にそろそろこの話やめたほうが……」

「桐生さん大丈夫だって、今の修の思考正常じゃないんだから。それに、私も栄美ちゃんと同じ悩みをもっていたときがあったから、共感もてるんだ」

「瑠那先輩! 何か良い対策ありました!?」

「うーん、私の場合勝手になったなぁ」

「いいなぁ……どうすればいいかなぁ……先生、知りません?」

「そうねぇ……栄美ちゃん、大きくしたいなら、揉―――」

「ストップ!!!!」

 叫び、会話を中断させる。声が部屋中に響き渡る。

 四人は突然の叫び声によって黙り、聴こえてくるのは夏虫たちの声だけとなった。

 頼むから、俺の周りでそういう話をしないで欲しい。するなら女性人同士でして欲しいものだ。

 それに、美奈津先生が言おうとしたことは、科学的根拠ないし。

 少々癪だが、叫んだおかげで、多少脳みそが活性化したようだ。

 両手の指を、小指から順に曲げていき、親指まで曲った事を確認すると、自分の頬を叩いた。

 パシンと、何かふぬけたような音がする。やっぱり、力をいれづらい。

 気を抜いたら、まただるくなりそうだ。

「風呂入ってきます」

 ギリギリ聴こえるぐらいの声で呟いた俺は、ゆっくりと立ち上がり、そしてふらふらとおぼつかない足取りで風呂場へと向かった。

 

 

「ふぅ―――」

 湯船に浸かり、ため息が漏れる。

 やはり古いの風呂をを無理やり使えるようにしたのだろう。いたるところかびている。だが、それらがあまり気にならないぐらい、他の所がきれいになってた。

 聴いた話によると、先生の両親が一生懸命掃除したそうだ。娘が帰ってくるということで。それだけだったら掃除をしなかっただろう。ただ、俺らが一緒についてきた――俺は強制的にだったが。とにかく、だからこの大きな風呂をまた使えるようにしたんだそうだ。この大きさはだと、四人は悠に入れるだろう

 大きいといっても、俺の家の風呂よりは小さい。

 ―――でも、自分の家より休まる。

 気取った桐の風呂じゃなく、不必要なほど広くなく。

 俺だけを包み込んでくれる浴槽。

 家なんて、広すぎて逆に気分が悪い。

 同じ広いでも、ここの広さは、俺を癒してくれる広さだった。

 疲れが抜けていく。こんな感覚初めてだ。

 目に見えるかのように、俺と言う器にたまった疲れという液体が、どこかから抜けてゆく。

 こういうのを、気持ちがいいというのだろうか。

 ―――しかし、訳がわからない。

 どうして俺は今になって疲れが出たのだろうか?

 昼間の出来事からか? それともここに着いたということの安心感か?

 

 

 それとも―――虚として襲ってきた不安に負けたのか……。

 

 

 あれは、先生たちの野暮用が終わり、先生たちが迎えにきて、そして、タクシーで先生の家に向かっていた時だった。

 タクシー一台では足りず、かといってワゴンタクシーが無かったので、二台で向かう事になった。

 乗るタクシーは、様々な意見が出たため――具体的に言うと、いや、よそう。とにかく、グーパーで決める事になった。地域によっては、グーチーというのもあるらしいが、そこらへんはどちらでも良い。流石に大人は一人一台ずつのっていないといけないので、先生たちは分かれて乗ることとなった。

 厳正なる抽選の結果―――

 一台目『俺、江津、瑠那、隼先』 二代目『香甲斐、秀二、栄美、美奈津先生』

 と、明らかにオカシイ偶然極まりない風に分かれ、そしてタクシーへと乗り込んだのだ。

 これは隼先に仕組まれたのだが、助手席が隼先。後部座席が、瑠那、俺、江津の順で座らせられた。これは後々聞いたのだが、二台目の連中も同じように座らせられたらしい。

 俺が抗う術も無くこういう状態に持ってこさせたのだから、先生たちの『こういう事』に関しての技量は、俺をはるかにしのぐ。

 そこらへんが先生達の怖い所だ―――

 二人の間に乗せられた俺は、どうする事もできなくてただ隼先を睨んでいた。

 この状況でどうすりゃいいんだ。表情には出さないように細心の注意を払いながら心の中で悶絶する。

 今思えば、二人同時に近くに来たのは初めてかも知れない。初めてではないのかもしれないが、気持ちに気付いてからでは絶対に初めてだ。

 俺がまずそういう状況に持っていかなかったし、二人もそういう状況を作らなかったし―――。

 だから余計に気まずい。

 江津は窓の外を見ているし、瑠那ですら窓の外を見ている。いったい俺はどうすればいいのでしょう?

 呼びかけに答える者は当然ながら誰もいない。

 とりあえず、寝る事にした。海にいたので少々疲れていたし、この状況から抜け出したい。着くまであまり時間はかからないらしいが、仮眠ぐらい可能だろう。

 そう思い、目を閉じた。少しずつだが、確実に意識は闇に落ちようとしてい―――――

 …………………………コトリ。

 音こそしないが、そんな感じの衝撃を両肩から受ける。

 嫌な感じしかしない。想像が容易につく。

 ……まさかな……ありえないよな……なんで両肩に衝撃を受けているんだ?

 あはははは……は。

 想像が間違いである事を願いつつ、俺は、目を開けた。

 目を閉じた。

 戸惑いが顔に出ないように、徹底的に自分を制御しながら、眠ろうとする。

 なんで二人とも俺に寄りかかって寝ているんだ?

「後ろの子供らはお子さんなんですか?」

「いやいや、私は先生をしてましてね。生徒なんですよ」

「ほう、先生をしてるんですか」

 隼先が子供持ち―――想像できない。

 そんなタクシー運転手と隼先の会話を聞きながら、現状況を忘れようと努力する。

「真ん中の男の子と、両脇の女の子のどちらか、恋仲とかですか?」

「うーん……実はですね、これが、類い希なる三角関係というものでして」

「ほう、それは楽しみですな」

「ええ、私も楽しみで。もうこいつらの動向を見ているだけでこっちがはらはらしますよ。真ん中の……修斗、って言うんですがね、修をこの旅に誘ったら、この女子が『是非行きたい!』って」

「いやー、愛されてますな。羨ましい限りです」

 散れ、隼先。

 めっちゃ尾ひれ付いてるし。ありもしない事を付加しやがって。

 駄目だ、前方二人の会話を聞いていてもこの現状を忘れられない。

 ――でも、こういうのを、三角関係というんだな……。

 マンガやアニメや小説や、それらの三角関係は、ありえないほど奪い合いが熾烈で、積極的で、誰から見てもおかしいという物ばかりだ。

 あれは、激しすぎる。現実では起こらない。

 でも―――今の俺の状態は?

 まだ……穏やか……であろう。いくらなんでも、揃い揃って徹底的に俺を求めているわけではない。今ですら辛いのにそんな事されたら、死んでしまう。

 それらの関係が偶然のように、この関係も、偶然だ。

 それに……この旅行も、ある程度偶然だ。

 俺がこの旅行に行く事になったのは必然ではあるが、隼先と美奈津先生が付き合いださなければ、旅行はありえなかったのだ。

 俺が学校に出かけたのも偶然ならば、その前のピクニックに行ったことも偶然で、さらに前に瑠那と知り合ったのも偶然で、もっと前に江津と知り合ったのも偶然で……?

 もし、運命という言葉があるのなら、このことなのだろうか?

 幾千万の人生の中での軌跡。その軌跡は、偶然の集まりかもしれない。

 ―――ただ、それは必然。

 必然の集まり。運命があるのなら、人生はその集合体でしかないのだ。

 だからこそ、俺は認めたくない。

 ―――何時、これが終わるのか、どういう形で終わるのかが、決められているなんて。

 二人がいる。そんな時間が、一生続くなんてありえないのだ。終焉の形は分からない。片方を選ぶのか、片方をを捨てるのか、片方がいなくなるか、片方が―――――

 両方が、いなくなるか……

 突然いたものが、突然いなくなるなんて、不思議な事ではない。

 明日、もしかしたら俺だっていないのかもしれない。死は、自分の思考に構わずやってくる。

 それとは違うが、双方が去っていくのを、否定する事はできないのだ。

 求める、というより、一緒にいたい、願望。そっちの方が強いのかもしれない。

 ―――俺がそうであるように、二人もそうなのだろうか? 求めるより一緒にいたい気持ちが強い俺は、わがままなんじゃないだろうか?

 もし二人は、求められる事を欲し、求めたいのであって、ただ一緒にいたいのではなく、ただ二人でいたいのであって、その中心にいる俺が悩んでいて、二人のことを悩まして、だけど俺は今の状態を保ちがくて、二人はこの状況から抜け出したくて、双方の意見が相反して、離れたくはないけど相手を気遣って、だけどやっぱり俺を求めていて、俺は俺でどちらかを求めなくて、二人の気持ちがどこかへ飛んで、それがやだから俺はそれを追いかけて、戻ってきてもまたすれ違って、俺は悩んで、苦しんで、二人も苦しんで……!?

 ―――何? これ? 自分で考えてて、気持ちワルイ……

 イ ヤ ダ  コ ワ イ 

 独りになるのが、怖い。

 昔は、こんなの日常茶飯事じゃなかったじゃないか。

 お父さんは家にいなくて、お母さんもたまにしかいなくて。いるのは執事かメイドで、小さい頃は俺のご機嫌をとろうと苦労していて。

 下心を持って、俺に接してきていて、テイゾクなヤカラ。

 もちろん、そう言う連中じゃ無いのもいた。今はもういないハルさんは、そういう人だった。

 とりあえず、慣れていたじゃないか。

 この容貌、頭、体、すべて! これらのせいで、人々から壁を作られ、俺は作る事を余儀なくされ!

 独りになれていたじゃないか!?

 恋と言う感情も、下心の一種で、二人とも低俗なヤカラジャナイノカ……?

 違う! そんなんじゃない! 認めない―――――

 ―――待てよ、どこからこんな話に派生した?

 はは、馬鹿げてる。本当になんだよ、この話。

 …………ありえないよ、絶対。

 ………………絶対…………絶対…………絶対…………

 

 

―――漠然とした不安が付きまとう。 

 目を瞑りながら、鼻でギリギリ呼吸できるぐらいまで顔を沈め、ぶくぶくと泡を出していた。

 泡は二十分ぐらい出っ放しにしている。方法によっては、ずっと口から息を吐きつづけることは可能なのだ。

 不安を消すには、別な事をするほか無い。

 なぜか、派生した不安。さらに派生しそうだったが、家についたおかげで、それは食い止められた。

 ただ、俺にまとうには、充分すぎるほど広がりすぎていた 

 ホント、なんであんな話になっちゃったんだろう。

 …………やめた。

 悩むの禁止。

 頭こんがらがるし、面倒臭い。

 とりあえず、今は今を考えよう。

 そう思い、鼻で息を吸い込むと、それはほとんどお湯だ―――――

「げほっ、げほっ」

 思わぬ攻撃に立ち上がる。鼻の奥に針で刺されているような痛みが走る。

 むせ返りながら目を開けると、そこには全裸の隼先がいた。なぜがガッツポーズをとっている。

「初めて修に一撃喰らわした……」

 何を感動しているのか、悦っている隼先。どうやら、隼先が俺の顔にお湯をかけたらしい。水面に近い所に鼻があったのも問題だった。

 その前に、隼先の攻撃すら避けられないほど悩んでたのか。馬鹿らしい。

「何ガッツポーズとってるんですか?」

 後ろから(というか脱衣室から)秀二がひょこりと出てくる。

「いや、実はな、初めて修に一撃喰らわしたんだ」

「おお、すごいですね」

 何で凄いんだよ。

「何が凄いの?」

 まだ着替え中(予想)の香甲斐の声が浴室中に響く。

「隼也先生が修斗先輩に始めて一撃喰らわしたんだって」

「うっそ、マジ?」

 ……俺って、そんな役割だったか?

 ここでふと湧き上がる疑問。俺は、いったいこの三人にどう思われているのだろうか。

 女性人も、何か固定観念で俺の役割決めてるみたいだし。

 ここで訊いてみるのも悪くない……。

「あ? あー頭がよくて、顔もよくて、ちょっと性格ひねくれてるけど、いざとなったらめっちゃくちゃ使える子分」

「えっと……、微妙に人のいい、居れば得する役に立つ兄貴」

「そうですね……………………人をいじめるの好きっぽい、何となくパーフェクトチックな先輩」

「お前らっ!」

「うあ、怒った」

 訊いたのが間違いだった。

 流石に少しずつ冗談は交じっていたが、少しずつってところが気に食わない。

「修、怒るな怒るな」

「怒ってませんけどね……」

 怒っているというより、疲れた。

 今は四人とも湯船に浸かってのんびりしている所。四人入っても、ずらせば足が伸ばせる。これを一般的に広いというのだが、あまりぴんとこない。多分、香甲斐も一緒だろう。

 でも俺はやっぱり、こういうのもかまわないと、逆にいいと思う。

「しかし、こういうの、小さい頃以来かな」

 隼先は感慨にふけるように呟く。この呟きは普通じゃ聞き取れないだろう。

 ああ、そういえば隼先って、もう大人だったっけ。

「懐かしいなぁ。お泊りといえば、暴露大会や、エロ話やら。若かったよな……おい、修、聴こえてるんだろ?」

 『……』以降は普通の声量となっていた。隼先は、そろそろ俺の能力値を把握し始めている。

「どうだ? 少しそういう話に花を咲かせないか? 久しぶりに若人の感覚を味わいたくなったからな」

 隼先も十分若いだろうに。

 そして、俺が承諾しないまま、話を押し進める。

「よし、お前らは高校生らしからぬほどピュアだからな。例えばだ、ここの風呂、俺らが浸かる前は、女性人が入ってたわけだ。汗とか、溶け込んでるわけだよな?」

「……入り辛く するな」 しないで下さい」 しないで」

 隼先以外の三人が語尾こそ違えど、はもる。ちなみに、俺、秀二、香甲斐の順。

 そんな俺たちを見て、隼先は爆笑する。ちくしょう。斬ってやりたい。

 したり顔となり、さらに続ける。

「もしかしたら、四人とも体を洗わずに飛び込んだかもしれないぞ。鮎河とか桐生妹なんてありそうだろ? 美奈津さんとか桐生姉だって、それに便乗する可能性もゼロじゃないし……」

「先出ます」

「お前ら本当に純情だな」

 言動がすべて一致した三人を見渡しながら、隼先は腹を抱えて笑う。

 別にそういう話が嫌いなわけではないし、どちらかというと好きではあるのが、今の気持ちが気持ちだ。そんな事いわれてずっと浸かっていられるほど勇気はない。

 隼先以外の三人が浴槽から出て、おもむろにシャワーを浴びている。

 はぁ、なんで俺はここでこんなことしてるんだろう? 馬鹿みたいじゃん。

「俺ら先上がってますんで」

 俺がぼおっとシャワーを浴びてると、二人が先に脱衣室に入る。

 それと同時に、隼先がこっちに来いと言うジェスチャーをした。

「なんすか?」

 俺があからさまに嫌そうな顔をして振り返ると、隼先は軽く苦笑して、

「いいから、こっちに来いって」

 手招きをする。

 浴槽に入れということなのだろうか。だってさっきあんな話した後に入るのは抵抗ある。しかもこれ以上湯に浸かってるとのぼせそうだし。

 でも、隼先が、いつになくまともな面持ちで呼んでるし。

「ったく、お前な、女性人は体洗ってから飛び込んだに決まってんだろ? 常識じゃないか」

「飛び込んだのはあえて否定しないんですね」

 悩んでる俺が馬鹿みたいじゃないか。

 でも、入る気にはなれず、椅子に座って、先生の応対を待つ。先生はどことなく不満そうだ。

 先生は、ふうと、息を吐き、まっすぐ俺を見据え、そして言った。

「一つだけ、言っておくぞ」

 いつになく真剣な隼先。少し驚きながら隼先を見ていた。

「お前は悩みすぎなんだ。キャパは多くても、その事に関してのキャパは低い。なのに二人の事を考えるなんて、お前には重荷すぎるからな。……少しぐらい、自分の事だけ、考えてもいいんだぞ。人生使い分けが大事なんだから。少し、ゆっくり考えてみろ、客観的に。お前だったらできるだろ?」

 そうして、隼先は破顔し、浴槽から上がった。

「じゃあな、先あがってるぞ」

 ぺたぺたと足音を立てながら俺の横を通り過ぎ、脱衣所へ消えていった。

 隼先が出たことによって作られた波紋を目で追う。

 ……悩み……すぎか……。

 そうなのかな。悩みすぎなのかな。

 解からないけど……―――――そうだな、悩みすぎという事にしておこう。

 隼先の意見に便乗するのもなんだが、ここはもうどうでもいい。

 今は、ただ、さっぱりしたい。

 大丈夫。心配なんて取るに足らないさ。

「うっし、出るか」

 太ももをパシンと叩き、そして、風呂場を後にした。

 

 

 大丈夫。問題なんて、すぐに解決してやるさ。

 どんな問題だって、難問だって。

 

 ――――――――――…………大丈夫。

 

 

 

HR

     うー、長かった……そして眠い。

     一時間で三(一ページ=18×40)ページ進んだとして、

     7時間超。かなぁ……つか今二十五時(凄い限定時事ネタ)で

     頭あまり働いてないから、誤字脱字その他諸々のミスがありそう。

 

 

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