[23] 病
最近非常に時間の流れが激しい。
今は5月。細かく言うと、11日午前11時金曜日。関係ないが何となく。
関係ない話を並べないと、考えることなくて暇なのだ。
もっとも、体を動かすのが鬱ってのもある。
近況報告をしよう。
入学式が終わり、俺の女子への軽蔑の目は、逆に恐怖へと変わっていた。
恐ろしい。俺は、香甲斐の兄と言う事だし、さらに秀二とも知りあいだ。そして、瑠那は秀二の姉だ。
俺と瑠那はひどいほど質問攻めに合うことになった。
ここで想像してみる。
第三者がこのような状況。当の本人は―――
気になった当日、香甲斐に訊いてみた。
香甲斐の奴もポーカーフェイスがうまく、無理をしているのか分からないときがあるのだ。俺もそうだったらしいが、今じゃそんな事がめっきり減ったらしい。
隠さなくても、平気になったって事なのだろうか……?
それは分からないが、平気か? と香甲斐に尋ねたところ、香甲斐は突然悟りきったような目つきになり、どこか遠くを見つめ、さらに『真っ白に燃え尽きたぜ』といわんばかりの声質で、『大丈夫』と答えた。
はっきり言って、同情した。
素直に言えばいいのに、と思いながら、生活していたわけだ。
そして、四月のある日、香甲斐はついに愚痴った。
全部暗唱可能だが、ま、長ったらしく、そして汚らしくなるのでそれはしない。
とりあえず、ひどいありさまだった。あんなに荒れた香甲斐は、初めてみたかもしれない。それほどうっぷんが溜まっていたのだ。
たっぷり、四捨五入で一時間愚痴った後の香甲斐の表情はまるで神か仏かってほどすっきりしていた。
ま、それで香甲斐が口走った話からいろいろ構成すると、香甲斐と秀二は会話をするらしい。たぶん他にも友達はいるのだろうが、問題は、女子の視線が痛いのだ。だから、他の男子は近寄りがたいらしい。
二人と仲のいい女子と言えば……、江津の妹、栄美なのだが、栄美が二人に話し掛けると、女子の目線はいっせいに厳しくなる。『気軽に話せてうらやましい』という女子もいるようだが、それは栄美と仲がいい女子と、その他少数の女子。
女子はそこら辺の関係が複雑らしいから、なかなか難しいだろう。
ってのが普通らしいが、栄美の場合、周りの視線を気にせずに、話し掛けているらしい。そして因縁をつけてくるやからには、徹底的に言い争い、そしてなぜか和解をする。
俺は栄美の精神を称えたいと思った瞬間でもあった。
秀二と俺も、結構仲がいい。そりゃ、先輩と後輩の仲だが、悩み事などを聞いたときもある。秀二も香甲斐と同じような悩みだ。愚痴に近い。
ともかく、その熱がひいてきた最近。
俺の体温熱が上がった。
反比例とでも言おうか。
どっと疲れが溜まっていたものが抜けたせいか。
生まれて初めて病気にかかった。
今、俺が寝込んでいる所は、隼先の家。
自分の家じゃ、病気で寝込む暇もなかっただろう。
……もっとも、前の隼先の家じゃ、絶対休まらないだろうが。
今は隼先の部屋はすごくスッキリしている。
塵一つ見えないし、台所もスッキリしているし、何より、エロ本を隠すような場所がなくなっている。
たぶん、美奈津先生と付き合い始めてから、すべて処分かましたのだろう。
それは置いといて、本当に隼先の部屋は疑うほど前と違う。
アニメ風イメージを加えるとしたら、なんかへこんだ四角みたいな白いものが、きらきらりーんと、ちりばめている事だろう。しゃらららーんという効果音も合うかもしれない。
洗濯物の山も消え、部屋の使い方が完全にうまくなり、部屋が二、三倍に広くなっている。俺がいろいろ教える前に、なぜ隼先は疑問に思わなかったのだろう。
それにしても……
病気の時って、こんなに暇だったんだな。
でも、体動かすの辛いし……。
なんで熱でたんだろう?
完全に健康管理は気を付けていたはずなのに。
うーん…………
……いいや、いま眠い。
俺は布団の隣に置いてあるコップの水を飲み干すと、眠りへとついた。
ふと、目を開けた。
目の前に何かあったが、とりあえず時計を見る。
午後五時。ひらがなにすると『ごごごじ』となる結構面白い時間だ。
かなり睡眠していた事となる。そのおかげか、今じゃ意外と体が軽い。軽くなったと言っても、やはりまだ熱は引いていない。少しだるい。
そして起き上がり、背伸びをする。
そして、もう一度だけ、違和感があった目の前をきちんと見てみる。
……目の前にいるのは五人。
ふほーしんにゅーだー……とか叫んでも無駄だ。
目の前にいたのは、知っていた人たちだったから。
「修! わーい、おきたぁ!」
まだ少しくらくらしている頭にずんとくる、瑠那の声。
「姉貴、修斗先輩は病気なんだから、静かにしないと」
そして、それを制止した秀二。
「おはよう」
にっこりと微笑みながらそう言った江津。
「修斗先輩大丈夫?」
そう言って、顔を覗き込む栄美。
「兄貴が病気にかかるなんて……」
呟いた香甲斐。
ああ、なーんだこの五人かぁ。
そして、俺はまた布団へともぐりこんだ。
あーあ、俺って、寝起きはあまり頭が働かないんだよね。
寝起き悪いって言われた事あるっけ……はははは……
がばぁっとまた飛び起きる。
視界にいるのは、五十音順で、栄美、江津、香甲斐、秀二、瑠那。
「……なんでここにいるんだ?」
俺の第一声がこれだった。普通すぎる質問だったが、今はそんな事関係ない。
「ただ単にお見舞い」
瑠那がそう言うと、皆がうなずく。
「瑠那と、秀二は家の方向だからいいけど、江津と栄美は……家まったく逆だろ?」
「関係ないよ」
瑠那が言う。その後ろで、なぜか香甲斐がため息をついていた。
「今日、修斗の家泊まるから」
なんだ? 空耳まで聞こえるのか? まだ俺は寝ぼけてるんだな。
「偶然と言うか、桐生さんと一緒だったし」
空耳がさらに続く。何が一緒だって? 鮎河瑠那と、桐生江津の何が同じだって?
何空耳に対して突っ込んでるんだよ、俺。
「ほら、修、覚えてる? 今日は何の日か?」
……現実と認めよう。で、瑠那は何を言ってるんだっけ?
江津も声を発する。
「私、一緒の人初めて見た」
「あ、私も」
めずらしく二人が笑顔で会話をしていたと思った瞬間、瑠那は俺に顔を近づけ、睨んだ。
「修に言ったよね、五月十一日は何の日か」
……………………あ。
「誕生日」
「当たり!」
思い出した。
確か、瑠那と穴の中に落ちた時に、瑠那が教えてくれたんだ。教えたと言うより、不可抗力で聞いてしまったというほうが正しいのは事実だが。
江津が、『私、一緒の人初めて見た』と言った事から、江津と瑠那は、誕生日が一緒。
性格が反対だと思っていたのに、誕生日が一緒か。
動物占いはあてにならないな。
「江津も、今日が誕生日なのか?」
「うん。鮎川さんと一緒なんだ」
「そう、だから、修のうちで、誕生パーティーを」
瑠那はトーン最大で言う。
ここアパートなんだから、少し静かにしてほしいと思う。
それはおいといても、まだ何か突っかかる。
……そうだ。
「待った、俺の家は駄目だ」
「なんで?」
江津は何となく分かっているようだが、瑠那は全く分かっていない。
「俺の家の中では、俺と江津は、―りに恋人同士って事になってるから……」
あ、『仮』の字が濁った。
……濁ってしまった。
―――やってはいけない失態を犯した。
ふと瑠那を見る。
何かうつむいていた。
オーラが黒かった。
どす黒かった。
「修と……桐生さんが……カップル?」
背筋に悪寒が走った。
体が硬直する。
何か危険な感じがする。
訂正すればいいのだが、瑠那のオーラがそうさせてくれない。
「なんで……だって……そんな……」
べとべとした空気。誰も動けない。弁解もできない。
……弁解?
いや、訂正もできない。
誰も一言もしゃべらない部屋の中で、瑠那の鼻をすする音が聞こえた。
……泣いてる?
違うって、だから、………………。
しゃべりだすのはきついが、言うか。
「瑠―――」
「修の馬鹿ー!!!!!」
瑠那が叫ぶ。一文字しかいえなかった。
刹那、瑠那は突然俺に襲い掛かってきた。
瑠那の右手の筋肉が強張る。そして、パンチの予定位置は俺の腹。
くそ、腹筋をかため……
瑠那の拳は驚くほど素早い打点で、そして強く、俺の腹にうずまる。
空気が漏れたような声を出した気がしたが、ブラックアウト。
HR
修斗、踏んだり蹴ったりですまんな。
気絶ってどんな感じなんだろう?
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