〔19〕 いらっしゃい

 

 

 いきなりで悪いが、今日は日曜日。

 つまり、江津が家にやってくる日だ。

 そしてまたしても唐突だが、今は高校の前。

 普通の私服を着て、江津を待っている。

 江津も、私服でやってくるであろう。

 一般論では、これをデートと言うんだろう。

 男が女を待っている。

 ……やっぱりそうだよなぁ……。

 最近、自分でいろいろな事を考えて自滅してないか? してるな。まったくそのとおりだ。

 考えなければそうでもないのに、なぜか考えてしまう。

 それは、やっぱり、『異性』として認識し始めただろうか?

 そうかもしれないが、違うかもしれない。

 まぁ……いいや、悩むのも疲れるし。

 今は、バレンタインや、みな絶対忘れていると思う作文のほうが悩む。

 圓城高校の前は、とても閑静だ。

 人や車はたまにしか通らない。

 ここは平日のほうが車通りが多いのだ。といってもたいした量じゃないけどな。

 俺がいたいのは、こんな静かな所。

 誰にも何も言われず、俺が俺であることが認識できる場所。

 静寂は逆にきついが、流れを感じさせるところが、俺の好きな所なんだ。

「しゅーとー」

いろいろ考えているうちに、江津がやってきた。

 私服ってのは、その人の性格をあらわすものでもある。

 江津の制服姿しか見たことのない俺。当たり前だが。

 なんというか……可憐な感じだよな。

 瑠那の場合の私服ってどんなんだろう?

 どうせミーハーなんだろうな。髪も少し茶色いし。おっと、この情報は初公開か。江津は真っ黒だ。

 余談になるが、外国にいる日本人は、染めないのが一般らしい。

「待った?」

 なんだか一般的なデートの会話になりつつあるぞ。

「うーん……20分」

『いや、全然待ってないよ。』なーんて、身もふたもないセリフは言わない。

「うそ、そんなに待った? ごめん」

「江津は謝る必要はないよ。思ったより道路がすいてて、バスが早く着いちゃったんだ」

 別に江津が謝る必要性はない。今は、待ち合わせ時刻ぴったりなのだ。

 とりあえず、俺らは、自分ちへ移動することにした。

 

 

 特に何もなく、バスから降りる。

 ここから江津にとって未開の地。

「修斗の家って、どれぐらい大きいの?」

興味津々に訊いてくる。

「まぁ……おおきい」

説明しづらい。

「説明になってない」

そのとおりです。

「東京ドーム8.5個分。ディズニーランド二分の一個分」

「その表現って良く使われるけどさ、具体的にどれぐらいなのかって分かんない」

 たしかに、作者もネットで調べる前は知らなかったからな。

 内輪話している場合じゃない。

「えっと、東京ドームは、46755平方メートル。ディズニーランドは、832239平方メートル。約な」

「……広……」江津は頭の中で計算して驚愕の色を浮かべる。

「坪換算だと約十二万坪」

「……ありすぎじゃない?」

「はは……広すぎるからいろんな人に安く貸してるんだけどな」隼先が住んでるマンションもそうだ。

 そう、父さんも、いろいろな意味で、完璧な人なのだ。

 嫌ってはいないのだが……メイド増やすのは遠慮して欲しい。

 

 

 そして、到着。

 江津は俺の家の大きさに茫然自失になっていた。

 瑠那が見たときはそれほど驚いていなかったが、江津は普通に驚いている。

 このリアクションが正しいのだ。

 俺も、他の人の家見た時に、『わーっちっちゃーい』ともらしたものだ。

 まだ小さいころだったが。

 そして、見るものを圧巻させる門を、江津が開ける。まるで知らないものを興味本位でつつく子供のようだ。

 そして中に入る。そこでもやっぱり子供のような笑顔。

 そう、とても無邪気な表情。

 ……憧れる。

 始めてみるものに対して、素直になれる心。俺には、もうそんな知らないものなど、偏狭に行かなければ無いかもしれない。あっても、蹴り捨ててしまうかもしれない。

 荒む心。潤いが足りない。器はあろうとも、そう、注ぎ込んでくるものが無い。

 分かっているが、これだけはどうも直せそうにない。

「さーて」

悩むのはやめた。とりあえず、目の前の事を遂行せねば。

「初めてきた人は、絶対迷うから」

「庭も?」

「庭のほうが迷うぞ。大きな建物はたくさんあるから」

 そう、まず本宅に、温室プール。美術室、トレーニングルーム。それから無駄なものまでそろっている。

「じゃあ、……あてて見せようか?」

にこりと笑い、庭に目を走らせる。

 当てられる……かな?

 本宅が一番でかいとはいえ、遠近感がある。

 ――― そのまえに、ここから本館は見えない。

「えっと……確か……ここからは見えないとか言ってたな……。」

 ……言ってた?

「誰が?」

「…………栄美が」

 栄美かぁ……。

「家のこと調べてたのか?」

「ご……ごめんね。私は止めたんだけど……ね、修斗だったら分かるでしょ。止められないってこと」

「ああ、無理だな」

栄美の性格なら、その場で止まっても、江津がいなくなったら行動するだろう。家に侵入は無理だろうから……情報源は隼先ってとこかな。あとで締めとこう。

 そして、まじですまなそうに謝っている江津を見る。

 ため息一つつき、江津に微笑む。

「ま、過ぎた事はしょうがないし」

「本当にごめんね」

最後にそう謝ると、江津はしゅんとしてしまった。

「調子悪くないんだったら、表情は明るくするべきだぞ」

「そうなの?」

「……覚えてないか」

「誰が言ったの?」

「いーや、俺もやっぱりよく覚えてないわ」

 そして、家に向かった。

 

――― 言った人。それは、江津だったんだけどね……。

 

 

      HR

       今までで一番短い作品。

       江津は四回になってしまいました。前回も短かったしね。

 

 

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