〔12〕 偶然……?

 

  今は午前五時。

 俺は朝早く起きて、弁当を作っていた。

 間違えて多めに作っちゃったんだよな……。三人で食えるかってほど。

 いいや。残ったら家に帰って食えばいいし。

 俺が料理をしていると、誰かがトントンとノックした。

「勝手に入れ」

この時間に入ってくる人と言えば……弟の香甲斐しかいない。

「失礼します」

入る時だけ礼儀正しい。

「兄貴、何で今日料理作ってんの?」

「お前は何で俺の部屋に来た?」

香甲斐が部屋に入ってくる時は、何となくか、悩みを抱えている時か。だいたい前者が多いんだけどな。

「何となく」

ほらな。

「いやあ、朝早く起きちゃって、そして、家ん中歩いてたら、兄貴の部屋からいいにおいがしたもんで……」

というと、香甲斐は料理を作っている俺のそばに来た。

「疲れてるからって、早く寝るもんじゃないね。さすがに五時は早すぎたか……」

早すぎだよ。

「兄貴は、こんな時間に起きてて平気?」

「眠いけど……しゃあないだろ。約束してるし」

俺は不機嫌な声でいう。

「誰と?」

「お前が聞いたら、腰を抜かすな」

「有名人?」

「いや」

俺は軽く首を横に振った。

「女」

俺は呟くようにいった。香甲斐はひどく驚いている様子だ。香甲斐は、俺が女嫌いだという事を知っている。

「…………彼女?」

「違う。一人は同年代。もう一人はお前とタメだ。なんだか、なりゆきでこうなっちゃって……」

俺は少し自嘲した。なんで『いいよ』なんて言ったんだろうか……。

「じゃあさ、俺も連れてってよ」

「はっ?」

「俺、今日暇だしさ、たまには息抜きしないと」

「本音は?」

俺は訊いた。嘘を言っている事は明らかだ。

「……暇だと……若メイドが襲って来るんだよ……」

深刻だ……。俺もそうだしな……。この前、香甲斐は、ニセの恋人を連れてきて、『俺には彼女がいるから、もう来るなよ』と言ったらしいんだが……。全然効いてないな。むしろひどくなったような気がする。あとで、どうして失敗したのか訊いてみるか。

「しょうがないな……。じゃあ来るか?」

「あたぼうよ!」

 どうせ八人前は作っちゃったし……別にいいよな。

 

 そして、いろいろと準備ができて、出発するのみとなった。

 俺はバッグの中に、いろいろと詰め込む。

 弁当は、香甲斐に持たせた。『連れて行かないぞ』って脅したら、素直にきいてくれた。本当は冗談で言ったんだけどな……。その代わり、俺はその他の物を持つ事になった。香甲斐の荷物もだ。

 そして、準備が完全に終わった。

「いくぞ」

俺は香甲斐に言う。

「あいよ」

俺と香甲斐は、ラフな格好をしている。俺が香甲斐に言っておいた。香甲斐は何でか分かってないみたいだけど、後で分かるだろう。香甲斐も、走るのが好きだからな。香甲斐は長距離のほうが得意だけど、短距離もそこそこ速い。

 俺たちは玄関へと向かった。

 俺んちは、初めての人が入ったら、迷子になる事が確実だ。俺の部屋から、入り口まで、ゆうに百メートルは越えている。

「なあ兄貴」

「なんだ?」

入り口のドアが見え初めている。

「なんで俺にラフなカッコさせたんだ?」

「いけば分かる」

俺は取っ手に手をかけた。

 その時だ、俺の第六感が、『扉を開けるな』と堂々たる発言をした。

 だけど……開けない訳にはいかないし……。

「何やってんだよ兄貴」

俺の行動がとろかったので、香甲斐が代わりにドアを開けた。

 ……嫌な予感が……マックスへと到達しそうになった。

 庭は広い。噴水やらプールやら。なにやら何までそろっている。

 家から、庭に入るための鉄格子まで、約五百メートル。その間には、綺麗に手入れされている花壇や植木。家には、果実が生る木もいっぱいあるので、小さいころは、いろいろ取って食って遊んでた。

 いろいろ考えていると、もう鉄格子の所までついた。

 そして、右の大きな鉄格子に付いている、小さな扉をくぐろうとした。

 不安マックス。

 ……勇気を出せ修斗。

自分に言い聞かせ、俺は勇気を出して、外に出た……。

 そこで俺は見たものは…………。

 勇気を出さなきゃよかったかもしれない……。と言うか……出さなきゃよかった……。

 俺が硬直していると、俺が見たものが、俺へと近づいてくる。

 香甲斐は、何で固まってるんだか不思議に思ってるんだろうな……。

「修……不法侵入?」

目の前にいたのは……瑠那だった。しかも、男ひきつれて、男は、中三かな? 最近中三の人出過ぎだよ。

 いやいや。そんな冷静に対処している場合ではない。

「……香甲斐。行くぞ」

「えっいいの?」

「問題ない」

俺は急いで駆け出そうとした。

 しかし、そこに、瑠那のタックルが決まった。

 バランスを崩し、止まらざるをえなかった。

「ねぇねぇ。ここって、修の家なの? 表札延暦寺だし」

神よ主よ、そして作者よ。私を見捨てるのですね……。

 隠しようがなくなった。

「兄貴」

香甲斐は俺に近づいてきた。

「彼女?」

「そうそう。これからなる予定♪」

瑠那は俺に抱きついてきた。

「いや……偶然に会っただけで……」

「偶然じゃないよ」

瑠那が言った。

……何!?

「修の家探してたら、延暦寺って名字ここしかなかったから……ちょっと弟と散歩でね」

 延暦寺なんて名字……俺しかいない……珍名字はこういう時に不利なんだー!

「散歩? ったくくそ姉貴。俺は、無理やりここに来させられたんだろ」

へぇ……これが瑠那の弟君ですか。あぁ……瑠那も言ってたような気がしたな……。弟いるって。しかも、圓城高校入るって。

「うっさい。(しゅう)()は黙ってろ」

瑠那がその弟、秀二を睨む。秀二は蛇に睨まれたかえるのようにおとなしくなった。瑠那強し。

「もう隠すのは不可能だろ?」

俺はあきらめ気味で訊いた。

「もち♪」

瑠那は微笑む。俺の秘密って……ばれるためにあるのか?

 

「―――という事で隠してくれよ」

 俺は適当に説明した。もうなんだか投げやりだ。

「なるほど……修っておぼっちゃんなんだ……でもさ、今からどこ行く予定だったの?」

俺が沈んでる時に容赦ないな……。

「ちょっと―――」

「私も行く♪」

俺まだ何も言ってないんですけど。

「はぁ? 姉貴何言ってんだよ」

「何いってんの? 秀二もいくの」

「俺も!?」

秀二は困惑しているようだ。ていうか、何勝手に行く事決まってんだ?

「ねえ、隣にいる人は誰? 修に劣らずにマブイ人だけど」

「俺の弟。香甲斐だよ」

紹介された香甲斐は、俺の事を憐れじみた目で見つめている。同情か……分かってくれるんだな、俺の辛み。秀二も俺の事を哀れだと思っているんだろう。姉の性格は、百も承知しているだろうからな。

 

 ほぼ無理やり俺は瑠那と、秀二を連れて行くはめになった。

 秀二も、結構カッコイイのかな……? たぶん。一般論からだとそうだろう。香甲斐よりは劣るか……?

 それはさておき、弁当は八人分。

 六人だったら全部食えるかな? 

 俺は、この前きいた江津の家に寄ると、江津と栄美と、香甲斐と、瑠那と秀二の五人と一緒に歩きだした。

 もう、瑠那にばれたし……その時に、江津にも俺の家の事を話した。もう何かどうにでもなれって感じ。

 その話ししている時に、なんだか江津は、驚いていたような気がしたけど……その中に、ちょっと悲しげな表情があったんだよな……。これも気のせいという事にしておくか。簡単に言うと、詮索がめんどい。頭がつかれてるんだよな……。

 さっきも言ったけど本当にきつかった。

 そこらかしこの有名な会社のお偉いさんが、酒臭いまま俺とか香甲斐とかに寄って来ては、意味分かんない事を話しかけて来たし……。それを必死で解読。そして会話のキャッチボールを成功させる。きつすぎ……。

酒を飲みたいけど、その年齢になる前に酒嫌いになりそうだ。

 歩いている時の構図。

 俺が先頭。その左隣に……至近距離に瑠那。右には江津。後ろで、香甲斐と秀二はけっこう意気投合したらしい。その中に割って入るように、栄美が乱入している。同年代で楽しくね。こっちも同じ状況になればいいんだけど……。

 瑠那が俺の腕にしがみついて江津を牽制している。

 江津は、瑠那と目が合うと、瑠那を見て苦笑いで返す。

 間にいる俺はいったいどうなるんでしょうか?

「瑠那……もうちょっと江津と仲良くできない?」

俺は耐えかねずにそう訊いた

「気に食わないの。なんで桐生さんといっしょに仲良くお食事をしようとしてた訳?」

顔が相当不機嫌だ。

「それは……、後ろにいる、江津の妹栄美がね、無理やり誘ったんだよ俺を」

俺は親指で後ろにいる栄美を指差した。

 瑠那は栄美を睨み付けた。

 俺は後ろを見てみると、栄美は香甲斐と秀二の後ろに隠れている。

 ……怖かったんだろうな……瑠那の睨みが。

 さてさて、そろそろ俺が気づいた事を言おうか。

 隠してても、聞こえるんだよね、足音とか。ミラーとかもチェックして、その姿も見たし……。

「おーい。出てこい」

その人はでてこようとしない。

「俺さ〜」

俺はわざとらしく大きな声で言った。みんな不思議そうに俺を見ている。

「この前さ〜。美奈津先生の携帯の電話番号(メモリー)もらったんだよね〜」

まだでてこないか。

「呼ぼうかな〜。家もこの近くだってきいたしな〜」

俺は携帯を取り出した。

「待て!」

そこに一人の男性が飛び出してきた。

「あっ、隼也先生」

瑠那と江津が同時に言った。

 先生は急いで飛び出してきた。

「や、め、ろ」

先生はものすごい剣幕で俺を睨んできた。周りは視界に入ってないらしい。

「はい」

俺はにこやかな笑顔で先生に携帯を渡す。

「なんだ?」

先生は携帯を受け取った。

 実は、本当にメモリー持ってたりするんだなこれが。

「はっはい!?」

先生は声を裏返して言った。美奈津先生の声に驚いてるんだろう。

 先生は動揺しまくり、何を言っているのか俺にでさえ分からない。

 俺は見かねて携帯を取った。

「美奈津先生? 俺です。修斗です」

『あら、修斗君? どうしたの? さっきのって、隼也先生よね?』

「そうです。ところで、今日暇ですか?」

『ええ。今日は特別に予定も入ってないし、暇よ。どうしたの?』

「家って河崎町辺ですよね?」

『そうよ』

「だったら、今から、近くにある川に来てくれませんか? あの……川辺に四角の空き地があるところ」

俺の製作した空き地です。

『……あそこね』

「大丈夫ですか?」

『ええ、平気よ』

「そこに来てください。いろいろな人も来るんで、ピクニックです。ご飯もこちらで用意しましたから」

『おもしろそうね。今から?』

「はい。三十分後ぐらいに来ればいいですよ」

『分かった。じゃあまた後でね』

「さようなら」

俺は携帯を切った。そして、呆然としている隼先の方を見た。

「つけてきた罰だ」

俺はにやりと笑った。隣にいる江津や、俺にしがみついている瑠那は、何が起こっているのか分からない様子だ。

「ちょっと放して」

俺は瑠那に言った。思ったより瑠那はあっさりと放してくれた。

 俺は隼先の隣に来た。

 そして、何事もなかったようにみんな歩きだした。

「何でつけてきたの?」

「いや……窓から外見たら、お前らが歩いてたから……面白そうだなって……な」

先生はものすごく動揺している。うれしいんだろうけど、突然すぎたからな。これがねらいだけど。

「先生。がんばってね」

俺はにやっと笑い、先生の肩をたたいた。

 先生は何か言おうとしたが、言葉が詰まったみたいだ。面白いね。

「おーい香甲斐ー久しぶりだな」

先生は逃げるように香甲斐の方に向かった。

 今日は俺がからかえるな。

 もう俺の秘密はほとんどと言っていいほどばれてるし。もう心配する必要は微塵もない。

 香甲斐と、先生も結構仲がいい。たぶん。春になったら登校時は俺と香甲斐が、先生の車に乗っていく事になるだろう。

 先生とすれ違いざまに、江津と瑠那がやってきた。

「ねぇ。隼也先生と美奈津先生って、訳あり?」

瑠那がきいてきた。江津も興味津々にきいている。

「隼せーん。言っていい?」

俺は一応きいた。

「言ったらころス。」

「あのな、先生は……」

俺は先生の方をちらちら見ながら大声で言った。

「言うなー!」

先生が叫ぶ。

「言って」

瑠那と江津が同時に言う。ここでは意気投合。

「もう勝手にしろ……」

先生はあきらめたような感じで言った。先生は香甲斐と秀二と栄美に愚痴をこぼしている。

「あのな、先生は、美奈津先生の事が好きなんだよ」

「そうなんだ」

江津が言った。

「先生がんばってネ♪」

瑠那が先生の方を向いて言った。

 先生はそれに苦笑で答えた。

 さてと……どうなるかな?

 いろんな意味で楽しみだ。隼也先生はどうでるかな?

 

           HR

            次は全員大集合。

            騒がしくなる事は確実!?

 

 

 

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