〔11〕 懺悔
……どうしよう……。
俺は題名の通りザンゲする。
この話しって一人称でしょ?
それでさ……俺が聴いてないと、皆様にも伝わらないわけですよ……ね。
「何かあったの……?」俺はあくび交じりでそう言った後の江津の言葉……
聴いてませんでした。
要点だけ言っておこう。それだけは聴いておいた。勝手に頭に入った。
お父さん。金持ち。警察。汚職。殉職。
……推測すると、お父さんが金持ちで、警察で、汚職して、殉職した?
わけが分からん!
それと、小4とか、速いとか、悲しいとか……
はぁ……じゃあ、俺が起きたとこから話しいれるから。
俺は寝ぼけたまま腕時計を見た……。
三時二十分……。二時間ぐらい寝たのか?
俺は軽く体を起こした。
横ではスースーという寝息が聞こえる。隣を見ると、江津が隣で昼寝をしていた。……俺いつの間に寝たんだろ?
俺は頭の整理に走る。寝る前に……何か言ったような気が……。
ここで、さっきの懺悔が入る。
江津が何を言ったのか、全く覚えていない。
江津が最後に、「って修斗、もう寝てるよ……」と言ってたような気がするな……。
俺悪い事した?
したね。江津に対しても、これ読んでる人に対しても。
とりあえず、俺は立ち上がった。
背伸びをする。
久しぶりに気持ちのいい目覚めかもしれないな。
そして、また俺はシートに座り込んだ。
こっからどうしたらいいんだ?
シートの上には江津が乗ってるから、帰る訳にもいかないし……。
じゃあ、また走るか。
俺は立ち上がった。
そして、ストップウォッチを取りにいこうとした。
動けない。誰かが俺の服をひっぱている。
「ねえ。あなた、お姉ちゃんの彼氏?」
「はぁ?」いきなり何を……?
俺は声の主の方を見る。女の子だった。
「だから、彼氏?」
お姉ちゃんって誰だ? てゆうか、こいつは誰だ? 何だいきなり話し掛けてきて……。
しかも、こいつは見るからに年下。敬語を使おうぜ。
「……君、誰?」
「私? それより、彼氏?」
よく分かんない……けどな……すぐに会話を終わらして、逃げたいような気がするしな……。一応答えるか。
「違う」
俺は、彼女を持った事は一回もないので、そう答えた。
そう言うと、その女のこの顔は、急に軽蔑の顔になった。
「うわ最低。そうやって顔のいい奴は、女をたぶらかして遊んでるんだ」
はい?
「お姉ちゃんも可愛そうに……」
そう言うと、その女の子はしゃがみこみ、江津の顔を二、三回叩いた。
「お姉ちゃん。起きて」
江津がお姉ちゃん……?
俺の頭が混乱している時に、江津はうっすらと目を開けた。
「あれ……なんで栄美がいるの?」
「お姉ちゃんが、帰ってこないから探しに来たの」
「ああ……今何時?」
「三時過ぎ」
この女の子……たぶん栄美って言うんだろう。俺はもう何がなんだか。
江津は体を起こし、背伸びをした。
「はふ……あ、修斗、何でそんなところに突っ立ってんの?」
いや……現状が飲み込めなくて……。
「お姉ちゃん!」
栄美は、江津の服をつかんで、前後に激しく揺らした。
「だまされてるんだよ! はやくこの男からはなれないと、お姉ちゃん全部奪われるよ!」
「???」
江津も何がなんだか状態だ。ただ無抵抗に揺さぶられている。
俺は、江津がどいた事でフリーになったシートをたたみ、バックにしまった。
「あんたー!」
やな予感が俺を包む。
「お姉ちゃんに何をして何をして何をしたー!!!」
この暴走娘を言い聞かせるのに、俺と江津二人でたっぷり一時間かかってしまった。家に帰るのいつになるだろう……?
「なーんだ。私てっきり、こいつがお姉ちゃんで遊んでるものかと……」
いや……俺はそんな事しないから。この子は、俺の事を尻軽男とか、くそナンパ野郎とか思っていたらしい。だったらさっきの言動も納得。いや、できないかも……。
「修斗、ごめんね変な事になっちゃって」
大丈夫です。最近変な事が起こりまくってますから。
「じゃあ紹介」
江津が、栄美の肩をポンとたたいた。
「はーい。私は、桐生栄美。ぴっちぴちの中学三年です」
えっ!? もっと下かと思ってた……俺の眼力も落ちたもんだな。ていうか……ぴっちぴちって……。
「それで、高校は、圓城高校に入りまーす」
ほー……そうか。圓城高校の入試は、冬休み前に終わるからな…………なぬ!? えっ!?
「へ……」
俺はふと情けない声を出してしまった。
「ねえお姉ちゃん。この人も、圓城高校の人?」
「そうよ。私と同じ学年」
「じゃあこの人? お姉ちゃんが最近―――」
江津はすぐさま栄美の口を抑えた。
「あはははは。気にしないでね」
江津が苦笑する。続きが気になるんだけどな……。
そう言えば……下に妹がいるって言ってたな……。まさかその子もずば抜けて頭がよくて、圓城高校にはいるとは……。
「俺は延暦寺修斗。ご察知の通り、圓城高校一年生だよ」
俺も一応自己紹介する。
「延暦寺?」
「そ」
「すごい変わってる……」
俺の名字聴いた時の第一声なんて、みんな同じなんだよな。変わってるとか、変とか。
「でも本当にカッコイイ人だね」
「そうでしょ。だけどね、学校ではね、伊達メガネなんかかけてて、目立たないようにしてるんだよ。女の子に騒がれたくないんだってさ」
「変わってる。じゃあお姉ちゃんも苦―――」
江津はまた栄美の口を抑えて苦笑した。めちゃくちゃ気になる。
「とりあえず……」
江津は話しを変えた。
「さっきさ、私の話、聴いてなかったよね?」
「う……」
いたい所を突かれた。
「……聞いてなかった……教えてくれない?」
「もうやだ、栄美もいるし、……もうあの話しはしたくないし」
そんな話しを俺にさっきしてたのか?きいときゃよかった……。
「もう一回走ってよ」
江津が言った。そして、ストップウォッチを手にする。
「さっきさ、11秒03出したのに、うれしそうじゃなかったよね?」
「ああ……本当は、11秒を切りたい」
「え、この人、五十メートル11秒も切れないの? 遅すぎ。どっか障害者?」
おまえ……五十メートルこの歳で11秒切れないって、何様だよ。
「栄美、百メートルだよ」
江津が言ってくれた。
「百メートル!? それだったら、かなり速いよね!?」
ふう……この子……瑠那似か?
江津と栄美に催促され、また走る羽目になった。しかも本気で。もう本気は嫌だったんだけどな……。軽くだったらいいのに。
なんだ、11秒20あたりでいいか? 準備運動もしてないから、本気で走ってもそこらだろうな。さすがに俺だって、タイムの計算はできないよ。
そして、俺はスタートの体勢になる。
「よーい……ドン!」
ゴール地点から、声が聞こえる。そして、俺は反射的に飛び出した。
走り終わり、あっという間と言うか、もう終わったと言う感じがした。
タイムは、11秒16。一発目でこのタイムはいいんじゃないか?
「さっきより遅いよ」
江津が言った。
「しょうがないだろ。準備運動もなしで走ったんだから」
「これでも充分速いんじゃないの?」
栄美が言った。
「でも、修斗は不満なんでしょ?」
「まあ、不満じゃないと言ったら嘘だけどな」
「ぜいたく」
栄美が俺の顔を睨みつける。
なんだかな……ほんと瑠那と同じ気迫をかんじる。やな予感がするよ……。
「それとね、修斗は、料理もうまいんだよ」
江津は、なんだか気まずい雰囲気に陥りそうだったので、すぐに話題を変えた。
「うそ! ほとんど完璧だね」
それが嫌なんだけどね。
「じゃあさ。修斗先輩! 五、六年後、私のお兄ちゃんになって! 自慢になるから!」
栄美は俺に飛びついてきた。
はぁ? どういう事……?
「栄美!」
江津が叱る。歳は一歳しか違わなくても、やっぱり姉は姉だ。栄美は、すごすごと俺からはなれた。
江津がなんだか動揺しているように見える。
……気のせいかな?
「修斗先輩。またここ来る?」
「……多分くるよ」
今年はこないとして……来年になってすぐに来るかな。
「いつ?」
「いつって……そうだな……一月三日」
この日は、用事がない。この日から、その日までの間には、クリスマスパーティーでの接待や、正月でお偉いさんに会ったり、いろいろしなくてはならない。その三日だけがちょうど空いている。
「じゃあその日に、私たちの分も作ってきてよ」
「?」
何?
俺が不思議そうな顔をしていると、栄美が言った。
「お弁当。私の分と、お姉ちゃんの分と、修斗先輩の分」
「えっ!?」
何を言ってるんだ? 作ってこいって?
「駄目だよ。修斗が困ってるから」
江津が言った。江津も大変そうだな……栄美のお守りで……仮にも中3なんだろ? もうちょっと人の事を考えた行動を取って欲しいけどな……。
「別に俺は大丈夫だけど」
確かにめんどくさいけど……3日は暇だし。
「じゃあ決まり」
栄美は満面の笑みを浮かべた。江津はあきれている。
何がなんだかよくわからないうちに、決定してしまった。
次の日から、恐ろしいほど俺は大忙しだった。
うちは五人兄弟。俺が長男で、その下に、弟、妹、妹、弟の順だ。
次男、香甲斐は、もう中三で……栄美とタメだな。それは置いといて、中三だから、しっかりしている。香甲斐は、俺と同じ圓城高校に入りたいと言っていた。俺ほどではないが、香甲斐も、いろいろとすごい。それで、顔を隠してないから、かなりもてる。そのせいで、俺と同じ女嫌いだ。俺よりは軽いけどな。俺が圓城高校入ったから、親は反対できなかった。それでも、香甲斐の奴はそうとうがんばってたけどな。あいつも貴族のための学校なんてやだったんだろうな……。
そして、その下の三人は、まだ小学生低学年で、俺と香甲斐二人係で面倒を見た。それだけだったらマシだったかもしれない。
だけど、そこに客の接待が入っている。
俺と香甲斐は、朽ち果てた。ぼろぼろになるまで、親に使われた。
三日なんて、約束しなければよかった……。
今日は一月三日の夜。眠い。
自分の部屋に、簡易キッチンがある。
簡易と言っても、結構しっかりしてる。
俺は、鶏肉を俺特製ダレに浸してから、布団にもぐりこんで寝た。
はーぁあ……明日……やな予感がするんだよな…………。
HR
兄が完璧なら、弟も完璧ですか。
血はつながってるんですね……。
江津と栄美も、両方頭いいし。
気になっていると思うのが、江津の話。ま、いつか公開しますよ。(たぶん)
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