〔10〕 WINTERVACATION

 

 十二月……なんだか騒がしい一ヶ月だった。

 瑠那が俺にしつこく迫ってくるから、俺は他の人にばれないように必死だった。

 何度学校中を走り回った事か……。

 学級委員の仕事で何度か瑠那と一緒になった時がある。

 だけどなんだかんだで、俺は楽しんでたのかもしれないな。

 最近になって、瑠那の扱い方もなれてきたし、結構一緒にいて楽しい。

 江津は、湖にくる回数が、1,5回ってとこになった。

 つまり、二週間に三回だ。

 その時に、弁当をわけてもらったりした。

 だけど……からあげはうまく作れないんだよな……。

 なんど食べて、味を確認して……何かがないんだよな……。

 一番ショック。

 何とあれ。珍しく充実した一ヶ月だったかもしれない。

 そして、冬休みに入った。

 

 思い立ったが吉日。

 そんな言葉があるように、俺はふと思った事があった。

 中学一年の春休みを最後に、そこに行かなくなってしまった。

 俺の思い出の場所。

 自分で作った初めての物でもある。

 俺はそこに向かっていた。

 そこは、俺の家の近くの駅から、電車で一時間半揺られて、着いた駅から20分歩くと着く。

 久しぶりだな……。

 川辺の土手から見える、川の周りにある、空き地というか……その風景は、草が枯れ、なんだか寂しい場所だった。

 だけど、ある一ヶ所。百二十メートル×五メートルぐらいの長方形の部分だけは、全く草など生えてなかった。

 そこが自分で作った場所。

 小4のころ、自分が自分に嫌になった時、親と口論になって、適当に家を逃げ出して、ここにたどり着いた。その時は走るのが大好きで……今も嫌いではないけどな。

 それで、俺は、むしゃくしゃする気持ちを、この川辺にぶつけたんだ。

 もう徹底的にやった。

 道具は、軍手、かま、シャベル、そして自分。それだけ。

 俺は、学校もサボってそこに通った。さぼったのは一週間でやめたけどね。

 そして、まるまる五日かけて、完全な短距離用コースが出来上がったわけだ。本当は、百メートルだけでよかったんだけど、つい20メートル多く作ってしまった。それはそれで結果オーライだけど。

 俺は土手を降り、コースに立ってみる。

 懐かしい……。

  コースの隣にある、学校にあるような机を見る。

 これも、ごみ捨て場からもってきたような気がするな……。

 そして洗って、綺麗にして、服置き場にしたっけな。

 机はもうぼろぼろだ。

 俺は服を着替え始めた。

 誰も見ていない。見てたらさすがの俺でも引くな。

 運動用の服に着替える。

 そして、ストップウォッチ。

 自分で計るのだ。

 そう言えば……出来上がった時の夏休み……なんだか同年代ぐらいの女の子が来て、計ってもらったような気がするな……。覚えてないや。

 俺が行くたびにいたような気がしたけどな。

 俺は、体をほぐした。寒いので、入念に。

 そして、俺はクラウチングスタートの体勢になった。

「3……2……1……ドン!」

俺はストップウォッチを片手に、軽く走った。一回目は体をほぐさないとな。

 そしてゴール。

 タイムは……。

「12秒43」

本気じゃなければこんなもんか。

 俺は、てくてくと歩き、スタートの場所に戻る。

 どっちがゴールかなんて決めてないけどな。なんとなく、そうなってしまった。

 そして、俺はまたクラウチングスタートの体勢になる。

 次は,ある程度本気で走るか。

「3……2……1……ドン!」

俺は軽快に走り出した。

 ギュンギュンスピードを上げていく。

 やっぱり走るのっていいな……。

 なんだか……自分がここにいるんだなって感じる。

 風の音や、大地を蹴る音、川の流れる音。

 久しぶりのその風景は、あんまり変わっていなかった。

 いろいろ考えてるうちにゴール。

 俺は肩を上下に揺らす。

「11秒55」

また俺はスタートの位置に戻る。

 今度は本気で走る。といっても、ストップウォッチを持った状態じゃ、最高記録は出ないだろうがな。ちなみに最高は11秒フラット。

 高校一年生の放課後。俺と隼先しかいない校庭で、走った時に出た記録だ。

 11秒は切れないんだよな……いくらやっても。

 さてと、次は、11秒ぐらいの記録を出すか。 

 でも……さっきも思ったけど……あんまり変わってないよな……。

 この風景も……音も……そして俺も……。

 ふう。俺はため息一つつき、またあの体勢になった。

「3……2……1……――」

「やっほ。修斗」

 !!!!!??!?!?!?!??!

 誰だ!?無駄に感嘆符と疑問符並べちまったじゃないか!

 俺はかなりの勢いでビビリ、声の主の方を見た。

 真後ろだ。

 いろいろと考えてたせいで気づかなかったんだな……。

 そこにいたのは、私服姿で、あどけない表情を見せている江津だった。

 でも、いきなりすぎてびびった。心臓がバクバク言ってるよ……。

「なんでここにいるの?」

「散歩。家近くだから」

随分と簡素な答えですこと。そう言えば、前の昼休みに、ここら辺に家があるって言ってたっけ……。こんな遠くから通えるわけはないので、寮を使っている。冬休みだから家に戻ってるんだろう。

「修斗はなんで?」

「いや……ここはね、思い出の場所なんだ」

馬鹿素直だな俺。

 江津はその言葉を聞くと、すこし何か考えだした。しかし、すぐに止めた。

「修斗って速いんだね」

見てたのね。

「あ、まあな……」

俺はあいまいに返事をする。

「これも隠しといたほうがいいの?」

江津は微笑む。

「頼む」

 なんだかこのシチュエーション前に一回……。

 その時は……あいては俺の名前を知らなかったけど……。いきなり『速いんだね。』って声をかけてきた女の子がいたな……。さっきの回想コと同一人物かな。たぶん。ていうかさ……いきなり江津が出てきたのに、あんまり戸惑ってない俺も俺だな。もう心臓も普通になってるし。

「計ってあげようか?」

江津が右手を前に出す。

 断る理由もないし、もう知られちゃったし、まだ走りたいし。

「サンキュ」

俺はストップウォッチを渡した。

 そして、江津はゴール付近に向かって、小走りで向かった。

 さて、手ぶらになったし、本気で走れそうだな。

「しゅ〜と〜。い〜い〜?」

江津が遠くから手を振る。

「大丈夫」

俺は手を振り返す。

「行くよ。よーい……」

江津は向こうで手を上げた。

「ドン!」

江津は手を振り下ろした。

 俺はそれと同時に走り出した。

 ああ、なんとなく、小4の時の女の子を思い出したかも。

 確か、計ってくれて、走ってる俺を真剣に見てて、そして、ゴールすると、第一声が『はやーい。』なんだよな。わざと遅く走ってもそう言ったよな。

 懐かしい……。思い出してきたな……。

 俺は疾走した。悩みを全部吹き飛ばすかのように。

 そして俺はゴールした。

「はやーい。すごいね修斗。11秒03だよ」

 やっぱり切れなかった……。今のは結構いったと思ったんだけどな……。

 俺は地べたに座りこんだ。そして深呼吸をする。

 一回本気で走ったら、三十分は走る気はしない。

 そろそろ一時か……。

 まだ飯食ってなかったな。

 俺はスタート地点に置いてある、弁当を取りに行くため、立ち上がった。

 歩く俺の隣を、江津も一緒に歩く。

「ねえ修斗。走らないの?」

「ああ。今から飯食わないと。……江津は食べたの?」

「食べたよ。食後の運動で散歩」

 俺はスタート地点にたどり着くと、弁当をバックから取り出し弁当を広げた。

 江津は俺の弁当をジーッ見ている。

「いつも気になってたんだけど、親の手作り?」

「いや、親が作るわけないじゃん。あんな高慢な人がさ。俺が作った……」

俺は慌てて口をつぐんだ。つい口が滑った…………。

「へー……修斗が作ったんだ……食べてもいい?」

「……いいよ」

俺はちょっと嫌悪感を覚えながら、江津に弁当を渡した。

 江津は俺の弁当をじろじろと見ている。

「本当に修斗が作ったの?」

「本当だよ」

それを聞くと、江津は弁当の具を適当につまんでは、口に入れていく。……江津ってもうご飯食べたんじゃないか?

「おいしいね」

江津は、一通り全部のおかずを少しずつ食べ、そう言った。

「ありがと」

自分の作ったものをほめられて、うれしくないはずがない。一応そう言った。

 江津は俺に弁当を返し、川の方を見つめていた。俺は、なんだか寂しげな表情をしている江津の横顔が気になったが、腹が減ってるため、弁当を食べ始めた。

 

 十分後。俺は弁当を食べ終わった。

「じゃあ俺寝るから」

俺は江津に言った。江津はボーっと川を眺めている。

 俺は初めから昼寝する予定で、バックの中に、シートを入れてきた。

 俺はシートを広げるとそこにねっころがった。

「食後に寝ると、豚さんになるよ」

江津は笑いながら言った。

「はは、俺は大丈夫。何したって太った覚えないし」

 江津は立ち上がった。そして、横になっている俺の方に来た。

「私もここで寝ていい?」

 このシートは、結構でかい。ちゃんと広げれば、4人は軽々と寝れるだろう。

 俺はいったん体を起こし、ちゃんとシートを広げて、「どうぞ」と言った。

 俺はねっころがり、江津も横になった。

 ねみいな……。

 太陽が出ていて、光が俺にまんべんなくあたる。

 気持ちいい。もううとうとしてきた……。

 俺が寝ようとした時、江津が、小声で話しだした。

「あのね……私、ここに、辛い事があると、くるんだ……」

  ……この時は。『何かあったの?』って聞いたほうがいいのかな……

 てゆーか、ねみぃー……

 また切るの? 勝手にしてくれ。  

 

 

     HR

 

        ホントにやなところで切ったな俺。

        江津と修斗のいる時間が多いので、

    そろそろ、瑠那といる時間も多くしないとな。

 

 

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