HR
この小説を読むに当たって、辞書を用意したほうが賢明です。
オレの語彙の少なさをばれさせないために、
ある本を使って難しい言葉(四字熟語)を並べまくったところが一部あります。
基本的には読めますんで、大丈夫です。
それと無駄にルビを振りまくりました。たんなるオレの道楽です(笑)
オセロさん、キリ番小説はこんなんです。完全なコメディー。……シリアスは入ってないです……(苦笑)。
文句あったらどんどん垂れてください。すべて華麗に受け流します(だめじゃん)
ここは地球生物研究所。
とある所に存在している山の奥、そんなところに屋敷は存在している。人はそこに近づかない――いや、近づけない。その屋敷から出ている電波によって、知らず知らずの内に近づかないのだ。
近づけたものも、すぐにそこから逃げ出してしまう。なぜなら、不規則にそこからは何かの叫び声がこだまするからだ。畏怖によって自動的に放たれた、死を感じさせる叫び声によって……。
そこは、研究所。そこには謎の生物が二つ生息している。人間社会をのっとろうとする悪の研究所―――
ただ、その心配は、今のところ、
――微塵も無い。
見知らぬ機械、見知らぬ道具、見知らぬ臭い。それから、見慣れた顔。白衣に眼鏡を携えた、いつもの博士だ。
彼は体を起こそうとした。だが何かに捕われていて身動きが取れない。顔を横にずらしてみる。金属の錠で、腕が完全固定されていた。ついでに脚もだ。自由が完全に奪われている。
「博士?」
「なんだ、助手」
にべもなく答えた博士は、横たわっている無様な姿の男――助手に顔を向ける。
博士は一応女性だ。愛嬌すらよければ、美人と呼ばれる人をことごとく粉砕していくだろう。だけれども、博士は笑わない。ほとんどの感情を見せる事は無い。ただ見せるとすれば……。
「博士、今度はなに鬼畜まがいな変態行為をふりまこうとしているんですか?」
「ハヤミくん、旗幟鮮明なのはよろしいが、キミの語源中枢を九十パーセントぐらい削除したほうがいいかもしれないな」
見せる感情は、言葉だけに含まれる怒り。それと、果てしなき好奇心。
「スミマセン」
助手は動かない体をできるだけ折り謝る。
それから助手――ハヤミはここまでの経過を思い起こしてみた。
そうだ、あれは確か――
「ハヤミくん、どうも気になることがあるんだが」
「なんですか?」
いつも通り苦めのコーヒーを煎れながら答える。
「萌えるとはなんだ?」
「芽吹くとか――生き生きと葉っぱが茂るとか、そういう意味じゃないですか? そこに辞書があるんで博士自身でひいてくださいよ」
角砂糖を二個入れる。ミルクは入れない。それから―――
「何かお茶菓子いりますか?」
「ああ、頼む」
答えた後、博士は言われた通りに電子辞書とか言う代物をひっぱってきて、引いてみる。
『も・える《萌える》[自下一] 【文】も・ゆ(下二)
@芽が出る。きざす。芽ぐむ。万葉集(10)「春は―・え夏は緑に紅の綵色(しみいろ)に見ゆる秋の山かも」。「若草が―・える」
A利息がつく。』
博士は小さく首を横に振った。
ハヤミはクッキーを入れたお皿とコーヒーを博士の前に出した。博士はコーヒーを一口飲み、ハヤミが座るのを確認して、
「そうではない。なんといえば言いのか分からないのだが……」無表情のまま博士は手を頬に当てる。「人間のオスが……かわいいものを見たときに萌えるとか何とか」
「毎度言ってますけど、オスはやめてくださいよ。一応僕は人間なんですからね」
「すまんすまん」
そう言いながらも、まったく悪びれていない様子でクッキーをほおばる。相変わらずの博士にため息をつきながら、助手は答えた。
「その萌えは……そうですね、可愛げな女性を見た時に生じるものですね」
「可愛げな女性? 具体的にはどういうものだ?」
「そうですね……マンガの中の実際ではありえないような女の子を見たときとか、コスプレした子を見るとか。えっと……若い子じゃないと対象外みたいですよ」
「ふむ……オスとは何か奇妙な特性をもっているのだな」うんうんと妙に深く頷いたあと、
「もっと詳しく対象となるメスのことを話してくれないか?」
「えっと……マンガの中のはですね、僕もよく分からないんですが、まずは絵が可愛くないといけないと思います。それと性格ですね。とにかく、何かそのキャラに対して恋よりは微弱ですが似たような衝動を得るんでしょう。それとコスプレは……看護婦とかメイドとか、制服とかスクール水着とか、巫女さんとか猫とか。それは完全な見た目萌えだと思います。恥ずかしがっている人に萌えたり……。ロリコンといって、幼女に萌えるというのもあるらしいです」
「キミのはすべて仮定だな。キミは人間のオスだと言うのにその衝動を持った事は無いのか?」
「そういう年頃になる前にここに来たんですから。詳しくは解かりませんよ」
「そうか……では、私が何かそのコスプレとやらをすればキミは萌えるのかな?」
「萌えの対象になるのは、若い人だって言ったでしょう」
博士は無言で、十キロ先の山ぐらいだったら簡単に吹き飛ばせるほどの威力を持ったレーザー銃を突きつける。
「いえ、博士が若くないという訳でなく、若いという年齢が高校生以下なんです」
ハヤミはできるだけ平静を装い、淡々と語った。博士はゆっくりと――どちらかというと残念そうに――レーザー銃を下ろす。
「それに、萌えを感じるのは一部の人らしいですよ。僕が萌えるとは限りません」
「そうか……。しかし、萌えとはいったいどういうところから発生した言葉なんだ?」
「場所は解かりませんが……とにかく、何かを見て心に芽生える、つまり芽吹くで萌えるという単語につながるのだと僕は思います」
「もっと詳しく説明してくれないか?」
「ネットで検索してみたらどうです? これ以上のことはさすがにわかりませんよ」
博士は澄んだ瞳で助手の目を見る。その視線の強さに、助手は苦笑に近い笑みを浮かべた。
「調べないんですか?」
「いや、調べてみる」
博士はパソコンを取り寄せ、検索を始める。それから数分が経ち、博士は不満そうな声で言った。
「わからん。いろいろなサイトを覗いてみたが、知らないアニメの名前やマンガやらよくわからない単語とかが羅列されていてまったくだ。それにCGや写真と呼ばれるものは、私と同じであるメスのものしか存在していなかったぞ」
ハヤミは博士の目の中に、いつもと違う光が覗いているのを見つけた。嫌な予感を胸中に抱きつつ、言う。
「萌える、はほとんど男性専用でしょうから……」
「ほとんどか。では女性にでも発生するのか?」
「さぁ、どうでしょう。それより、今日は何を調べるんですか」
ここで確か、意識が途切れた。爽やかな十時のおやつをついばんでいたところだったはずだ。
どうもクロロホルムの臭いが鼻に残っているような気がしたのだが、ハヤミは博士に言った。
「博士は何をしたいんですか?」
「私も、萌えると言う感情を体験してみたい」
「はい?」
ハヤミの顔が、疑問を浮かべたまま固まった。
「人間というモノを調査するには、その対象をじっくりと見るだけでは駄目だ。生活を調べたり、生態系を調べたり、多々の種族の違いを調べたりするだけじゃ駄目なのだ。直接物体を見たり、触ったり、各々の生活を体験してみない限り真の対策は練れない。杓子定規に捕われてはいけないのだ。侵略という大きな目標を掲げているからには、そんな陳腐な研究は許されないのだ」
ハヤミの、僕は一応ナマの人間なんですけどという言葉を聞き流して続ける。
「今回考えた実験もそれに値する実験だ。人間の持つ感情とやらを手に入れることができるチャンスなのだからな」
「それだったら、もうちょっと解かりやすい感情から入りましょうよ。ほら、喜怒哀楽という基本的な四つの感情から入りません? 博士は怒しかないんですし。明らかに人として……いや、存在しているものとしておかしいですよ」
「そうか、ハヤミくんの口を特殊な糸で縫ってみるのもいいかもしれないな」
ハヤミは、体を強張らせ、すぐに押し黙った。
「一応萌えだって感情の一つだろう? それに類い稀な感情と言う物もいいじゃないか。何かこう未知なる領域というものに首を突っ込んでみたいだろう。一年前に実施した、ストーカーの生態について調べる、あれよりも今回の方が私の好奇心をくすぐる。だが、ストーカーも面白かったな。生け捕りにしてみて脳を解剖してみたり、実際にストーキングを行ってみたり」
「昨年のその研究、僕が捕まりそうになったじゃないですか。意味分からない博士の機械と計画によって、僕がストーカー犯として捕まる所だったんですよ。またそんな無謀な計画を行おうとしてるんですか? 少しはありそうで常識をまったくわきまえてない脳みそを取り出して、きちんと粘り気出るまでこねてください」
「ハヤミくん、ちょうどいい」
博士は謎の物体を手にとった。まがまがしい色で塗装されたそれは、人間に特をもたらすものではない事は明瞭だ。
「ここに『脳みそ抽出した上でこねてみたらあらほんと、こんなに頭がよくなっちゃった君』の試作品があるのだが、試してみるか?」
「ゴメンナサイ」
やっぱり博士は残念そうにその謎の物体を元の場所に置く。
ハヤミは、とにかくここから脱出しなければと動き回るが、やはり一向に抜け出せる気配はない。腕を拘束している金属の冷たさを感じ、逆に悲壮感が強まり、戦意を失った。
「スペシウム合金出来ているから無駄だぞ」
「ウルトラマンか何かですか!」
「聴くか? 私が漂流してここにたどり着くまでの経路を。そしてスペシウム合金強奪までの探求を」
「一分なら」
「そうか」
博士は踵を返すと、注射器をとりだす。きちんと中の液が出るのを確認して、ハヤミの方に向き直った。
「僕、何かしましたか?」
何もした覚えはない。過去の発言が今になって癪に触れたということはないはずだ。そんな事が起こっているのであれば、とっくにハヤミは死んでいる。
「いや、手術を行うので、麻酔をかける」
ハヤミが、固まる。
「何の手術ですか?」
「合成獣と言う物を実験してみたい」
「僕でですか?」
「物分かりが良いな」
かつて無い恐怖を覚えた。いままで悪態ついた時だってここまでの畏怖を感じた事は無い。暴れる、暴れるが、抜け出せる希望が見出せない。
「それはガンダニウム合金で出来ているって言っただろう」
「ガンダムですか! それにさっきスペシウムって……」
「不満か? だったらルナチタニウム合金だったら満足か?」
「それもガンダムですよ!」
とにかく、とハヤミは博士を見据える。
「さっきも言いましたけど、博士の頭は右脳と左脳が十億光年ぐらい離れているんですから、こんな無利益過ぎて何の名利も生み出さない徘徊するゴキブリの糞より劣る厭離穢土に値する実験をやめて、無価値の権化のようなその二つの塊を常識ある程度に近づけたら――――――」
声にならない叫びによって言葉は中断される。彼の腕から、得体も知れない液体が侵入してくる。彼はただそれを見守る事しか出来ない。
「即効性じゃないから安心しろ」
「結局意識がなくなるんだったら意味が無いじゃないですかっ」
博士は考える素振りを見せる。ただ、ハヤミの言ったことに対して考えていない事は確かだ。
「犬と猫、どっちがいい?」
「はい?」
博士は無防備なハヤミの周りをうろつきながら、言った。
「萌える対象に、猫というものが在っただろう?」
もうとっくに脳裏にしまわれていた言葉を、ハヤミはどうにか引き出す。
「コスプレですけどね」
「猫耳であろう?」
「まぁ……多分」
「だからお前を合成獣にしてみる」
ハヤミは考えた。今の自分はなんのアクションもおこせない。唯一できる事は、博士を説得してここから脱出する事。
「博士、男の僕が猫男や犬男になったからって、女は萌えませんよ。言ってるじゃないですか。萌えるは男専用だって」
「先刻、『ほとんど』という単語が付属していたはずだが」
「百パーセントに近いということですよ」
「わずかな可能性がある限り私はやる。それにだ」
ハヤミの体中から、血の気が失せた。
「ショタ、ボーイズラブというジャンルも在るらしいじゃないか。ちょうどいいことにお前は意外と顔が綺麗で、童顔だ。ショタの類いには入るであろう。それにお前は敬語を使い、さらに一人称が僕だ。ウケ側に最適じゃないか。とりあえず、お前が可愛くなってもメスが萌えるかもしれないであろう?」
淡々と語る姿は、まるで彫刻。動かないでいるのであればそれは空前絶後の大傑作となるであろう。燦然と輝く、脆弱な天使に。だが、ハヤミには堕天使以外のナニモノでもない。
さっき『萌え』を説明しているときに、言わないように努めた言葉が博士の口から出てしまっては終わりだ。ネットをしている間に見つけてしまったのであろう。
「それはともかくとして、メスにも似たような感情が生まれてもおかしくは無いはずだ。というわけで、実験を決行する」
もうだめだ。ハヤミは覚悟した。
この空理空論しかふりまかない牽強付会の論理闘争が得意技、石心鉄腸で自分の精錬潔白を断固疑わず、当意即妙な受け答えによって人畜無害な人に秋霜烈日を与える、権謀術数が好きな人間(傀儡)なんだ!
「ハヤミ君。何か難しい言葉がキミの口からほそぼそと発されていたのだが、なんなのだね?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。とにかく、犬と猫、どちらがいい?」
「本当は嫌ですけど……。じゃあ……い――」
「実はな、犬のサンプルが猫のサンプルより若干少ないんだ。私はどうも猫が好きでな。それに犬は飽きた」
ハヤミは、違和感を覚え、絶叫する。
「僕が従順ってことですか!」
博士は無視して、
「猫に決定だ」
「初めから猫にしたいんだったら訊かないで下さいよ。博士はねじが何本も抜けて別の所にすべて収まってしまったような行動しかしないんですから」
「よし、実験する前に、麻酔が完全にかかっていない状態で人間の体はどう反応するか実験してみるか」
「ゴメンナサイ」
その言葉をすべて聞いて、博士は手袋をはめる。そろそろ、ハヤミの意識は薄れ始めているはずだ。事実、ハヤミの筋肉から力が抜け始めている。
「なるほど」
ぽんと、手を打つ。
「これがハヤミ君の言っていた、喜怒哀楽の喜」頷きながら、「悦びというものか」
「喜びの字が違います!」
変な感情が博士に芽生えた。嘆きながら、訊いた。
「博士、やっぱり、猫と合成されたら、語尾が『にゃん』になるんですか?」
「然り。当然だ」
「なんでですにゃん!」
「わかりやすくていいだろう?」
ハヤミは叫びたいのをこらえる。
「博士、でも、絶対男に猫は合いませんよ」
「大丈夫だ」
博士は妙に自身たっぷりに言った。
すべてを見透かしているような双眸、自信に満ち溢れた口調。広大無辺な言葉には、有無を言わせぬほど説得力がある。その声を聴けば、必ず人々は疑心を取り払ってしまうだろう。
とりあえず、ハヤミ以外は。
「ジ○リを思い出せ!」
「バ○ンですかぁ!」
薄れ逝く意識の中、最期に息を思い切り吸い込み、絶叫した。
「いやにゃぁぁぁっん!」
とある所に存在している山の奥、そんなところに屋敷は存在している。人はそこに近づかない――いや、近づけない。その屋敷から出ている電波によって、知らず知らずの内に近づかないのだ。
近づけたものも、すぐにそこから逃げ出してしまう。なぜなら、不規則にそこからはハヤミの断末魔がこだまするからだ。畏怖によって自動的に放たれた、死を感じさせる叫び声によって……。
そこは、研究所。そこには、詳細が一切不明、関係すら不明、何もかも不明な生物が二つ生息している。人間社会をのっとろうとする悪の研究所―――
ただ、その心配は、今のところ、
いや、多分、永遠に――
――微塵も、無い。
HR
短編に仕上がりました。
オレにしては珍しく台詞重視の小説ですね。
シリアス入ってねぇ……堪忍。
とりあえず、こんなんになりました。
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