HR  加糖さん、こんなのできました。
 おだい、コメディ、サイケデリック、及び主人公死亡エンドとのことでしたが、
 わたくしの力量不足のためサイケデリックとコメディは両立できなかったです(涙



ゆめのはじまり うつつのおわり

 僕は、今日も夢を見る。
 僕の夢の中に出てくる登場人物は、現実世界の人間たち。驚くべきことは、僕の知り合いだけでなく、面識のないそ知らぬ人間も出てくることだ。初めは僕が勝手に作り出した人間だと思っていたけど、それにしてはリアルすぎたので、気になった僕は夢の中で名前や住所を聞いて、起きてから訪ねてみたことがある。すると驚くことに名前も容姿も一致する人間が必ずいるのである。何度も試したのだから間違いない。この夢は僕が主催のパラレルワールドなのだ。
 僕の家は立派なお城。あたりは近未来高層ビルが立ち並んでいるけれど、僕は昔からお城に住んでみたかったので問題ない。お城にはお抱えのメイドが何人もいるからいつもお城はぴかぴかだ。町を忙しく歩く人たちはこの絢爛なお城を見上げみな感嘆のため息を漏らすのだ。僕が創造主なのだからこれぐらいの特権は当たり前。下々の民は僕の住処を眺められるだけでも幸運だ。
 僕がベルを鳴らすとメイドがさっととんでくる。おやつを持ってくるように告げると、メイドは部屋を後にした。頼んだものはケーキにコカコーラ。今日は月並みなものを頼んだけれど、ここにはどんな食べ物もあるので、デザートスパゲッティやアメリカのチョコレート、納豆コーヒーゼリークレープだってある。そういえば、昨日は青汁に挑戦したけれどあれは人間の飲み物ではない。きっと地獄には青汁永遠飲み地獄と言うものがあるに違いない。
 僕が頼んでからしばらくしてケーキとコカコーラがやってきた。実はこのケーキには細工がしてあって、僕が飽きるまで延々と増殖するケーキなのである。もちろんコーラも然り。ついばんでいると口の中が甘くなってきたので、ポテトチップスをメイドに頼んだ。僕の夢だからポテチを食べても手が汚れることなんてないし、パーティ開きに失敗することなんてありえない。お腹が一杯になったなぁと思ったら、一瞬でお腹を減らすこともできるので一日中食を嗜む事だって可能なのだ。
 僕は満足したので外に出かけることにした。ちょっと念じれば部屋がノックされて恋人が顔を覗かせる。現実世界には恋人はいないけど、夢の中では芸能人とだって恋人になれるのだ。今日はどこへ行こうか。海外だって宇宙だってひとっとびなのだから。
 僕の夢の中の時間と現実世界の時間はまったく別物で、夢の中でどれだけの時間を過ごそうと、夢から覚めると朝の七時、目覚ましが鳴る時間になっている。夢の中で一年まったり過ごしても、夢がつまらなくて一分二分しかいなくても、現実世界は決まって朝七時。だから僕は安心して夢の中で遊ぶことができる。この夢の中に僕を縛るものはないのだ。たった一つを除いては。
 僕たちは超高速エレベーターを使って、宇宙に展開されている展望レストランへとやってきていた。この展望レストランがあるビルは僕の所有物で、このビルには月へ行くお客様も入ってくるし、火星人だってやってくるのだ。これは僕の発想力が乏しいだけなんだろうけど、火星人はおなじみのタコっぽい形をしている。この前僕が行った冥王星なんて、地球と同じ空気があったのだから、一度本格的に僕の頭の中を整理しないといけないと思った。このままでは日本にゴジラやカネゴンがやってきてしまう。
 僕は恋人を案内し、展望台の窓際に座った。そこから見えるのは美しい地球の姿。僕は高いところが苦手だけれど、ここまで高くなると恐怖心は芽生えないみたいで、むしろ感動が押し寄せてくる。馬鹿と煙はなんとやらと言うけれど、この景色を見られるのなら僕は馬鹿でもいいと思う。僕はウェイターにフルコースを注文すると、宇宙に広がる銀河を満喫した。
 僕は立ち上がった。フルコースの前菜すら届いていないが、何だか待ってるのが面倒になったのだ。恋人も置き去りにして、超高速エレベーターに乗り込んだ。乗り込んだのはいいけれど、恋人が僕に文句を言ってきた。現実世界なら当然の文句だろうけど、ここは僕の世界なのだから文句を言われる筋合いはない。恋人をちょっとわがままな性格としたのが問題だったのか。
 僕の気分が著しくそがれた。もう今日は終わりにしよう。
 僕はその場に銃を作り出すと、恋人の頭に狙いを定めた。絶対外れることのないそれの引き金を絞り、弾丸は恋人の頭を貫いた。恋人は絶命した。
 僕の夢を終わらすためには、夢の中の誰かを殺せばよい。今回は恋人だったけれど、その辺を歩いているサラリーマンだって杖を突いている老人だってランドセルをしょっている小学生だって大丈夫。そんなに難しくない制約ではあるんだけど、多少問題があったりもする。夢の中で殺した人間は、現実世界でもいなくなってしまうらしいのだ。
 僕がこの夢を見始めて数日後、それに気づいた。それまではさすがに顔見知りを殺すのに躊躇いがあったけれど、その日は現実世界で糞ムカツク奴がいて、夢の中でもそいつが出てきたから殺してやったのだ。そして夢から覚めると、そいつが事故で死んだと言う情報が僕の耳に飛び込んできたのだ。僕は驚いた。もしかしたら僕が夢の中で殺してしまったのではないかと思い、次に夢を見たときに目障りだった奴を殺してみた。するとやっぱり次の日にはそいつは死んでいて、これは本物なのだと確信した。
 僕が夢の中で殺した奴は、現実世界でも必ず死ぬ。便利でもあり厄介な制約だ。どこぞやの主人公みたいに新世界の神になろうなんて思わないし、仮に思ったとしても一日に一人じゃ少なすぎる。一年に365人しか殺せないのだ。わざわざ凶悪犯の顔を覚えておくのも気分が害されるし、特に何もできやしない。
 僕は殺す奴に悩んだことはない。顔見知りにむかつく奴がいたときはそいつを殺せばいいし、いない時は通行人からランダムで選ぶ。僕に選ばれた人は運がない。六十億分の一の確率だから、逆に運がいいとも言えるのか。だけどその運を宝くじにでも使っておけばぼろ儲けできたのだから、やはり運がなさそう。
 僕はその場で死んだ恋人を見つめながら、違和感を覚えていた。いつもなら殺した時点で夢が歪み始め、夢が終わる。しかし今はどういうことだろうか、いつもどおり誰かを殺したはずなのに、一向に夢から覚める気配がない。僕は腕を組み、初めての状況に戸惑いながら、一先ずエレベーターに乗り込んだ。一瞬浮いたような感覚になりながら、僕は冷静に考えてみる。救いなのはそれほど僕の中に動揺がないことだ。誰かを殺したら夢から覚めることができるなんてこと自体が異常だったので、むしろ今の状態が新鮮でありかつ正常だ。なんて、この世界の何が正常なのか僕にもわかってないけれど。
 僕はエレベーターから降りると、とりあえず目の前の人を殺してみた。さっき銃を使ったから今回は刀。首を一刀の元に両断し、それは床に転がった。そいつは死んだが、残念ながら夢の世界は終わらない。いくら殺しても終わらないのなら、大量殺人だってできてしまうのではないだろうか。
 僕はいいことを思いついたので、銀行へとやってきた。銃を作り出して、銀行員の一人に突きつける。手を上げろ! と叫ぶと、銀行の中は大パニックになった。僕がやっていることは銀行強盗だ。一度やってみたかった。
 僕がふと奥を見ると、防犯スイッチを押そうとしている銀行マンの姿があった。現実ではそんなことされたら困るだろうけど、僕がやっているのはシミュレーションだから警察がきてくれたほうが面白くなりそうだ。防犯ベルが鳴り、数分後、警察が銀行の前に到着した。僕はブラインドを下げて窓を覆い隠す。それから警察に向かってヘリコプターを用意しろと叫んだ。映画の登場人物になったようでわくわくする。おっと、条件付けも忘れちゃいけない。一時間以内にヘリを用意しろ! 用意できなければ、三十分ごとに人質を一人ずつ殺していくぞ!
 僕は待っていたのだが、残念ながら一時間が経過したので、約束どおり一人殺すことにした。でも人質を殺すのは当たり前すぎるので、野次馬している一般客でも殺そうとロケット弾を取り出して、銀行の二階から野次馬達の中心に向かってぶっ放した。見事目標で爆発し、辺りはどこかの戦争地域かと思わせるような凄惨な光景になった。これは面白い。もう一発ロケット弾をぶっ放し、盛大な花火が散るのを見届けて、銀行一階へと戻った。
 僕が戻ると、いつの間にか人質がいなくなっていた。人質は銀行から逃げ出して警察に保護されている。人質を縛っていたわけではなかったから、当然と言えば当然の出来事だ。機動隊が突入してくるのかと思ったら、警察は一斉に銃口をこちらへと向けた。誰か偉い人の命令と共に引き金が絞られ、銃弾が一斉に襲い掛かってきた。
 僕は前方に手をかざす。すると、ガラスを砕き僕に襲い掛かろうとしていた銃弾の速度が急激に落ち込み、その場で停止した。マトリックスやってみたかったんだ。空中に浮かぶ銃弾を見ながらほくそえんだ。そうだ、ネオにもできなかったことをやろう。僕はぴっと手を弾くように動かすと、銃弾は来た道を一斉にさかのぼっていく。銃弾は外にいた老若男女あらゆる物を血で染めた。地獄の底にいるような阿鼻叫喚の大合唱が響き渡る。
 僕は大満足。ここはもういいやと銀行の外へ出ると、パトカーに乗り込んでアクセルを踏んだ。何人か人を轢いちゃったけど、気にするほどのことではない。ワイパーで血を吹き飛ばし、自分の家へと直行した。
 僕が家に着くと、召使達が出迎えてくれる。ああ、なんてつまらない奴らだろうか。さっきの警察みたいに歯向かってくれれば面白いのに。僕はチェーンソーを取り出して召使達を次々と切断していった。それでも召使達は逃げようとしない。面白くない。僕は自分の部屋に移動してベッドへと突っ伏した。もうやりたいことが見つからない。そろそろ夢から覚めたくなってきた。夢の中に長居できてもあまり面白くなかったのは予想外だった。
 僕が人を殺しても夢から覚めることができないならば、どうすれば夢から覚めることができるのだろうか。
 僕が僕を殺せば、夢から覚めることができるのだろうか。
 
 僕を壊そう。この世界のすべてを壊した、その暁には。
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