ここは地球生物研究所。 弐。

 

 

 

 

 ここは研究所。世界征服を成し遂げるために、地球の生物――その際たるもの、人間を研究する機関である。

 日夜研究に励み、絶叫や爆音が響く中、確実にその成果は現れ始めていた。

 今日も、地球は狙われている。

 

 

 

 

 

「起立」

「……イヤです」

「起立」

「イヤ、です」

 出鼻を挫かれ少々癪に障った博士は、愛銃、青龍君を取り出して、助手――ハヤミに向けた。ハヤミは顔を強張らせ立ち上がった。

 青龍君とは最近になって、エモノは脅迫に最適だと言う知識を得て作り出したレーザー銃である。見るものに威圧をあたえるレッドメタリックでごついフォルム。威力調整ノズルがついていて、十段階まで威力調節が可能だ。

 続いた博士の礼、着席と言う号令に従い、ハヤミはまた椅子に腰掛けた。

 博士は女性だ。見るものを圧倒するかのような美貌を持った女性、いや、メスと言っておいた方が正しいのかもしれない。博士自身そう言っているし、なにより、人型をしているものの博士はきっと人間でないはず。

「博士?」

「ハヤミ君、ここでは先生と呼んでくれたまえ」

「嫌と言ったら?」

「お前が拒むなら無理強いはしないが」ふむと少し考えるふりをして「そう言えば、最近人間のオスの細胞サンプルが無くなって来てな」

「いえ、先生と呼ばせていただきます」

 ハヤミは人間の男性(オス)であった。こうやって悪態をついては、博士の一言によって屈せざるを得なくなる。博士は、どんなことでも有言実行だ。

 二人がいるところは教室だった。どこにでもある学校の、どこにでもある教室。前に黒板、教壇に教卓、後ろにも黒板、そして所狭しと四十組ほどの席。時間割には全時間生物と表記されていて、後ろ黒板には当然のようにラクガキがしてある。黄色で描かれた太郎君が、ラクガキの代表格だ。

 ハヤミは白衣から学生服に着替えさせられ、一人と言う人数の割に合わない広さを持っているこの教室の後ろの方に座っていた。博士は教壇の上にすらりと立っていた。

「先生?」

「なんだ?」

「今日はどんな鬼畜行為を行うかわかりませんが、いつも通り腐敗気味の知恵を意義あるところに使った方が賢いということをいつになったら学習してくれるんですか?」

「もう一度射撃テストが行いたくなってきたな」

 博士は凍てつきそうなほど冷たい妖艶な笑みと、青龍君の口をハヤミに向けた。ハヤミはその銃の威力を知っていた。レベル1の威力で、十キロ前方の山が消失する程度の威力である。

 ちなみに、今のレベルは8に設定されていた。

「すいませんでした」ハヤミは頭を下げた。青龍君が教卓に置かれたのを見て、ほっと胸をなでおろす。「それで、今日は何を行うんですか?」

「まずは前回行った実験、自殺者の心理についてのレポートを発表してもらおうか」

「え、あれってレポート書かなくちゃいけないんですか?」

「当然だろう。実験をしたらレポートを書く。日本の学生の常識じゃないか」

「あの、僕はその常識を知る前にここに連れてこられたんですが。しかも今までは別にそんな事しろと言われた覚えもありませんし、ああ、博士ついにアルツハイマーですか」

 教壇で腕を組んで立っていた博士は、紫色の新しいチョークを指に挟む。

「先生に文句を垂れるな。この白墨を投げつけるぞ」

「まったく、そこまで知能が退化したんですか? チョークの形状、そしてこの距離、いくら強く投げたって致命傷は与えられませんよ。もう少しですね、その在ることに意味があるのか分からない脳味噌を―――」

 刹那、幽かな痛みと激しい衝撃音を、ハヤミの知覚が読み取った。

 頬に手を当てて、それを眼前にもってきて視覚で確認すると、赤い水が張り付いている。今度は振り向いて後ろ黒板を見た。跡形も無く、粉塵へと化していた。太郎君が描かれていた欠片が、無残にも散らばっている。

「初速を強く、そして回転を加えれば可能なのだよ、ハヤミ君? では、レポートを出してくれ」

 未だ流れている血をハンカチで抑えながら、ハヤミは激しくうなずいた。太郎君、ご愁傷様。

「何も用意してないので少し時間いただけますか?」

「よろしい。五分で仕上げてくれ」

 短すぎる! などの文句を言えなくなってしまったハヤミは、不承不承レポートを書き始める。

 

 きっかり五分後。

「ハヤミ、出来たか?」

「……なんとか」

 ハヤミはレポートを折りたたみ紙飛行機にして博士に向かって飛ばした。見事教卓に着地したソレを拾い上げ、博士は広げる。

 

  ――――――――――――――――

 ○月△日 ある晴れた日曜日。

 実験内容

   自殺者の心理を調べる

 

 用意する道具。

   今にも自殺しそうな人間 狭い部屋 その他凶器 音響機器 映像器機 すべて10セットずつ

 

 実験内容

  ――――――――――――――――

 

「何だハヤミ。まったく完成してないじゃないか」

「……時間が無かった上、書きたくなかったんです」

「なぜだ? あの崇高な実験のどこが不満だ」

「全部ですよ!」

 ハヤミは何故か今にも泣きそうだった。

「何を言う。完璧な実験だっただろう? 自殺しそうな人間一人一人を、赤い血の色で死ねとかクズとかお前はゴミだとかお前のかあちゃんでべそとか書いてある小さい通風孔しかない部屋に放り込んで、その部屋にはなにも無くてただ自殺用のロープとか包丁とかカッターとか十三階段その他諸々だけがあって、大音量でスプラッタ系の効果音を流し続けて、常人の見るに耐えない鬼畜映像も流しつづけて、いったい何人死ぬか。ま、みな自殺寸前にお前が止めてしまったから、全員生き残ってしまったのだがな」

「そんな部屋じゃ健常者でも全員自殺しようとします!」

 被験者たちの壊れてしまった表情。思い出しただけで寒気がする。喜怒哀楽を代表するすべての感情達が違う方向に飛んでいってしまったような、そんな表情。

 ハヤミは懇願した。

「博士。この話題はもうやめましょう?」

 やれやれと博士は首を振った。あんな実験にすら耐えられないとは、まだまだ精神がたるんでいる。

「仕方が無い」博士は教卓に手を乗せた。

「今日この場所でやるのには意味があるんだ」咳払い一つ「学校について研究してみたいとかねがね思っていてな。とりあえずまずは形式から、学校に近づいてみようと思ったわけだ」

 ハヤミは気を取り直して、博士の話に耳を傾ける。

「学校というのは実に興味深い。心身ともに未熟な子供たちを大人たちが管理監視し、調教する場なのだろう? 学校という空間に自由な子供たちを閉じ込めて、さらに教室という空間に区分し、大人の考えを押し付けていく。それが義務化されているのだから驚愕だ」

「その考え方がだいぶ先生の性格みたいに捻じ曲がってますけどね」

「今日のお前は死に急ぎたいらしいな」

「すいませんでした」

 青龍君の引き金に指がかかっていた。今度こそ命が危ないと思ったハヤミは、口を紡いだ。

 おとなしくなった助手に満足した博士は、教壇の上をコツコツと音を立てながら歩きまわる。

「学校では授業という物を行うらしいから、実践することにした。異存はないな?」

「はい、ありません」頷くしかない所である。

 

「では、生物の授業を始めよう。まずは生体実験だ」

 いつもやっている実験と何が違うのか。先のような実験であるのなら、今度は止めてやればいい。

「まずハヤミ、オスとメス、どちらを生体実験したい?」

「どちらでもいいですよ。どうせこの実験は肥溜より価値が無いんですから、大して変化はないでしょう?」

「どちらかを選んだほうが賢明だぞ?」

 手の平に青龍君が潜んでいるのを確認して、ハヤミは即座に答えた。

「オスで」

「ダメだ」

 は? とハヤミは一瞬呆けた。

「オスの生体実験は飽きた。今日は私と同じメスにしよう」

 相も変わらず青龍君がハヤミのほうを向いているので、悪態を付くのは諦めた。

「さて、今日の生体実験モデルに登場してもらおうか。チイロ君、出てきてくれ」

 鬼が出るか蛇が出るか。しかし何が出てもハヤミには驚かない自信があった。コンスター君(ハブ)とヤントット君(マングース)を連れてきて、どちらかが殺られそうになったら強化剤を投与すると言う惨劇を見せられたのだ。(ちなみに、この映像が自殺者実験の個室に流れていたのだ。)それに比べたら屁のカッパ――。

 がらりとドアが開いて、それが姿を見せたとたんハヤミは盛大にぶっ飛んだ。

「チイロ君、自己紹介をどうぞ」

「モリ チイロです。お願いします」

 人間だ。確かにメスだ。人だ。女だ。しかも正常そうだ。最後のが重要である。

 ハヤミは目を凝らしたりこすったり頬をつねったり山手線の駅をすべて暗唱したり羊を三匹数えてみたり瞑想してみたり人生を説いてみたりしたのだが、やはり人間の女である事には間違いない。

「ハヤミ、お前も早く自己紹介しないか」

「タカムラ ハヤミです……」

 それに、見間違いでなければ。ハヤミは訊ねた。

「きみ、ちいちゃん?」

「あ、もしかしてはーちゃん!?」

「ほう、二人とも知り合いなのか?」

「小学校の頃登下校班が一緒だったんですよぉ」とチイロ。

「博士!」

 ハヤミは机に手を叩きつけた。机にひびが入った。

「……いろいろと質問いいですか?」

「許可する」

「拉致ってきたんですか?」

「いや、本人の同意により強奪してきた」

「拉致ってきたんですね?」

「本人の同意ありと言ったろう? お前の時と同じだ」

「僕の時は完全に拉致ですよ」

「古典的な落とし穴にはまるのが悪い」

「閑話休題、なんで彼女なんですか?」

「この研究所の周りをうろちょろしていたからだ」

「僕の知り合いだったからでしょう?」

「お前にしては鋭いじゃないか。合格」

「何が合格ですか!」

「いいから落ち着け。チイロ君が驚いているじゃないか」

 目を丸くしているチイロに気付き、ハヤミは渋々席についた。むすりと座り込んだハヤミを見て、チイロが言った。

「大丈夫だよはーちゃん」

「何が?」

 何かに自身満々になっているチイロ。嫌な予感だけが通り過ぎていく。

「あたし、世界のためだったら脱げるから!」

 隣で満足そうに笑む博士。対照的にハヤミは、本日二度目となるずっこけをかましていた。

「博士」

 ハヤミは博士を睨みつける。

「彼女に何吹き込んだんですか?」

「人聞きの悪い事を言うな。世界の為に君の体が必要なんだ。脱いでくれないか? と言っただけだ」

「本当?」チイロに確認したら。

「はい、本当ですよ?」あっさり肯定された。

 ハヤミは愕然とした。よかった。風俗へのお誘いではなくて本当によかった。

「では、チイロ君、脱いでくれないか」

「わかりました」

「待て!」

「男が女々しいぞ。お前だってチイロ君の一糸纏わぬ姿を見たいだろう?」

「そう言う問題じゃないです!」

「大丈夫だよはーちゃん、はーちゃんにだったらあたしの裸見せてもいいと思ってるから」

「根本的にすべて違う!」

 絶叫に近い怒涛のツッコミをかましたハヤミは、教壇に走りより、チイロの腕を掴んだ。

「博士、今日は休暇を取りますから」

 博士の返事を待たずに、ハヤミはチイロを連れて教室を飛び出していった。博士はため息をついた。少しだけ、楽しそうでもあった。

「さすが、私の犬だな」

 

 

 飛び出したはいいが目的地がない。目的地を決めるにはこの研究所はあまりに広すぎる。ハヤミは適当なホールを見つけて、そこに座り込んだ。

「はーちゃん、痛いよ」

「あ、ごめん」

 思わず強く握っていたようだ。慌ててハヤミは手を離した。チイロの腕にはうっすらと赤が残る。

「びっくりした。はーちゃん突然走り出すんだもん」

「こっちもびっくりしたよ。こんな所にちいちゃんが来るなんて思わなかったから」

「そんなこと言ったらこっちもさらにびっくりだよ。行方不明になってたはーちゃんがこんな所にいるなんて」

「はは……まぁね」

 初めのうちは脱走を試みたのだが、ハヤミは言おうとしてやめた。結構残酷な話になりかねないからである。

「ちぃちゃん」

「何?」

「世界のために脱ぐなんて言っちゃダメだよ?」

「ん? なんで?」

「本当に世界のためになるなら脱ぐなんて厭わないだろうけど、博士が言ってたことは『世界征服』の一環だからさ」

「うん。全部聞いたよ? 人のためになるんだったら凄いよ」

 ハヤミは大袈裟に椅子から転げ落ちた。三度目である。流石に膝が痛い。

 しかし何てことだ。本当に風俗へのお誘いでなくて良かった。日本の男性を愉しませる為と言ったら、あっさりついて行ってしまったのではないのか。

「あ、でもあたしは世界征服のために来たんじゃなくて、これは交換条件というか……」

「?」

「あのね、うち、もうダメなの」

「ダメって……」

「もう、全部」

 ハヤミは、二の句を継げなかった。

「お父さんがリストラされちゃってね。あたしも大学入ったばっかりだったし、お金が必要でしょ? あたしのバイトだけじゃ当然足りなくて、お父さんが次の仕事を探せばよかったのにお酒に走ったのね。お父さん自分のお金だけじゃ足りないからってあたしのお金も奪うぐらい酷かったの。でね、ある日お父さんがあたしからお金とろうとして、さすがのあたしもそれを防ごうとして、その場にあった一升瓶で思い切り殴りつけたら、お父さん記憶障害になっちゃったの。それでね、死ねば生命保険入ったのに入院じゃお金かかるじゃないのって嘆き悲しんでたお母さんを元気付けようと思い切り背中叩いたら、そこが階段で、ごろごろって転がって、お母さん全身複雑骨折で入院したんだ。お金が底ついて大学も辞めることになって、大晦日にお父さんとお母さんが睡眠薬欲しいって言ったから買ってきてあげたのね。そしたら、二人とも新年迎える前に睡眠薬大量に服用して自殺しちゃって。それでね、あたしなんでか警察に追われる事になっちゃって、それで博士にかくまってもらう事になったの」

 ハヤミは、二の句を継げなかった。

 話のそこらかしこが何かおかしいような気がしたのだけれど、どこにどうつっこんでいいのかサッパリ分からない。

「それにね、カッコいい男もいるって言われたんだ」

 男はハヤミしかいない。ハヤミは苦笑を浮かべながら、

「期待はずれでごめんね」

「そんなことないよ。はーちゃん凄いカッコいいよ」

「……そう?」

「うんうん。可愛いしカッコイイし」

 ハヤミは赤面してしまった。博士にも何度か言われた事があるけど、幼友達に言われると恥ずかしいものである。

「はーちゃん」

 正面から瞳を覗かれた。

「あたしね、ちっちゃい頃から、ずぅっとはーちゃんのことが好きだったんだよ?」

 チイロの瞳が近くにあった。温もりをすぐ近くに感じていた。互いの手が重なっていた。

 ハヤミは思った。僕はこんなにおいしい役どころでいいのだろうか? 

 すぅとチイロの体が倒れてくる。ハヤミはなされるがままに横になってしまった。

 大胆な行動だ。小さかった頃は、紐につながれている犬に吼えられただけで涙ぐんでいたと言うのに。

 ハヤミはなにも考えられなくなっていた。錯乱状態に陥っていた。チイロのはにかんだ表情が、近い。息づかいすら聞こえた。お互いの心音が響きあう。

「はーちゃん……」

「ちいちゃん……」

 ふと、ハヤミは現実へと帰った。無意識の内にチイロの腰に回していた手が、何かを捕えたのだ。

 妙な形をした突起。生物にあるまじき固さで、チイロの皮膚との境目が無いことから服の装飾品の一部とも考えづらい。

 ハヤミはそれを、やはり錯乱していたのだろうか、なんのためらいもなく、押した。

 とたん、チイロは、面白いことを口にした。

「起爆ソウチ作動――――――――――――――五秒前」

 ハヤミは思った。僕はやはりこんな役どころなのだと。

 4、3、2、1、そして衝撃と共にブラックアウト。

 

 

 

 ハヤミが次に目を覚ましたのは、白で統一された清潔感のある救護室だった。

 ハヤミは自らの手足が正常に動くことを確認して、ゆっくりと起き上がる。まだ所々に痛みが走るが問題はない。全身が火傷しているかと言うとそうでもなく、打ち身的な怪我をしているのだろう。ぎこちなくも立ち上がろうとすると、救護室に博士とチイロの二人が入ってきた。

「はーちゃん!」

 チイロの声に、ハヤミは思わずあとずさる。

「博士、いったいどういうことですか?」

「人間型のアンドロイドとでも言えば分かるかな? 世界征服するには最適なものだと思ったからな」

 ハヤミは吃驚した。あれだけ人間に近いアンドロイドを大量生産すれば、さらに強力な武器を持たせれば、今度こそ本当に世界征服が可能かもしれない。

 と思ったのだが。

「しかし、どうして自爆装置をつけねばならんのだ? どうもそれが普通らしくてな。……ついているだけ邪魔だと思うのが私の考えなのだが。現に、先ほどお前が押してしまったし、もしもの時を考えて火力を弱めておいたのは正解だったな」

 超極小で虚弱なおつむしか持ち合わせることの出来ない博士だから、世界征服が始まるまでにはまだまだ時間がかかるようだ。

「ん、ハヤミ、何か言ったか?」

 博士は近くのメスを手に取っていた。ハヤミは顔を強張らせた。

「いえ、何も」

 チイロがとことことベッドによってくる。ハヤミは一瞬逃げようかと思ったが、体の痛みがあるし、それに起爆装置を押さない限り問題は無いだろうと判断して、その場に留まる。

「はーちゃん大丈夫?」

「なんとかね」

 ハヤミの作ったような笑みを見て、チイロは言った。

「はーちゃん、もしかしてまだあたしがアンドロイドじゃないかって思ってる?」

「違うの?」

「違うよ。ね、博士」

 暇そうに遠くでメスをくるくる回している博士は、ああ、とうなずいた。

「アンドロイドを作る時にモデルが必要だったんでな。体の構造から性格からすべてチイロ君からデータを取って、いろいろとこちらから命令して操作していたんだ。チイロ君はそのために連れてきたようなものだ。当然、お前をからかうためでもあったのだが」

 満身創痍でなければ悪態ついてやるのに。ハヤミはため息をついた。

「だが、もう一つ研究対象が出来たな」

「なんですか?」

「人間の感情についてだ」

 博士は悦びの表情を浮かべた。

「恋愛感情、さ」

 瞬間、ぼっとチイロの顔が赤くなった。ハヤミも意味が分かり、顔面が紅潮した。チイロの性格も、コピーしたと言うではないか。

 博士は鼻歌交じりに部屋を出て行った。何となく、気まずい雰囲気が流れる。

「……えっとね、はーちゃん?」

「……なに?」

 ハヤミは思った。僕は何かを見落としているような気がする。

「さっき、アンドロイドがはーちゃんに言ったこと……あるでしょ?」

「うん」

 チイロは恥ずかしそうに顔を俯かせて、言いにくそうに口をもごもごさせて、大きく深呼吸をすると、堰を切ったように話し出す。

「あのね、あ、あたしはーちゃんが大好きなのは大好きなんだけどね、あたし、博士が好きになっちゃったの」

 ああ、なるほど。思いのほか衝撃は少なかった。むしろこれですべてに納得がいく。チイロがここについてきた最大の理由が判明した。

「あの流れるような目線。切れる頭脳。優雅な振る舞い。バランスのいい身体つき。つややかな髪の毛。一切曇りのない肌。ああ、まさにあたしの理想って感じなの!」

 博士、やっぱり、男女間における普通の恋愛感情は観察する気はないのですね?

「じゃあ、ゆっくり休んでね。あたし、博士にお茶出してこなくちゃ!」

 喜色満面。恋するをとめモード全快で部屋を飛び出していったチイロの後ろ姿が消えたのを確認して、ハヤミは思った。

 やはり僕は、こんな役どころなのだ。

 そして僕は、それを案外気に入っているのかもしれない。

 

 

 

 

 ここは研究所。世界征服を成し遂げるために、地球の生物――その際たるもの、人間を研究する機関である。

 日夜研究に励み、絶叫や爆音が響く中、確実にその成果は違う方向へとずれ始めていた。

 

 

 今日も地球は平和である。

 

 

 

 

HR

 

   ファーストはキリ番小説で書いたものです。

   いやぁ、キャラクター自体は好きだったので、

しかも文芸部の原稿を急いで上げなくてはならないと言う使命もあり、続編を書いてしまいました。

キリ番小説を読んでいなくてもなるたけ分かるようにしたつもりなのですが、いかがでしょうね?

 

しかし、久しぶりの更新がこれかよってつっこみは、痛いのでやめてください(苦笑)

 

 

 

戻れー

 

 

 

 

 

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