Fifth Day

Chap2

 

 

 

 最近気絶する回数が増えたような気がする。頭の活性化も兼ねて回数を数えてみることにした。まずはそうだ、今月の初めに幸天に殴られ、いや自分で自分を殴って一回。次は昨日の出来事の始めと終わりに一回ずつ。そして今日はあまりの驚きによって四回目。五日で四回、これはギネス記録に載ってしまうのでは無いだろうか。ただ情けない記録なので是非とも末代に残しておきたくは無い代物なのは確かである。

 達巳はゆっくりと起き上がった。白いベッドと、それを取り囲む清潔そうなカーテンを見て、ここは保健室だと理解するのに大して時間はかからなかった。

 気絶慣れでもしてしまったのかもう身体に支障はなく、一つ伸びをしてベッドを下り、静かにカーテンの外へと出る。

 保健室に居たのは先生ではなく絢だった。椅子に腰掛けながら暇そうに窓の外を見ている。達巳が歩き出すと、足音に反応し絢がこちらを振り返る。

「おはよ」

「ああ、おはよう」

 挨拶を交わしてから、達巳は一通りの疑問をぶつける。

「絢、いつ保健室の先生の免許をとったんだっけ?」

「なに寝ぼけてんのよ」

「それとも保健室の先生を倒して権利を強奪したとか」

「達巳、あんた大丈夫?」

「んなわけないよなぁ……免許取って人を治せるようになったのに、自分の女としての発育不順は治ってないなんておかしい……」

 ばぁん! 達巳の顔面に勢いよく絢の上履きが飛来した。それは数秒顔に吸い付いた後、ぱたりと床に落ちた。

「本当に寝ぼけてるんじゃないわよ。まったく、人が気にしている事を……」

 絢は目線を下げる。いつになったらここが平野でなくなるのか。何度も陽平にネタにされて、プールの授業が疎ましくて、言ってみたい台詞が『肩凝るわ〜』…………もしかして一生―――。

 嫌な想像を振り払い、絢は達巳に投げつけた上履きを回収した。達巳は鼻の頭を一つ掻いてから、

「……なんでここに絢が居るんだ?」

「ようやく起きたみたいね……」

 絢は達巳の脳みそがようやく動き出した事を確認して、今にいたる経緯を伝えた。

 幸天が部活動紹介をされている時に昨日の話を持ち出し、達巳の話を聞かされたサッカー部員と同じように呆けてしまった絢と日和から事実を聞かされ、つまり達巳とまったく同じ理由で気絶したというのだ。倒れたので保健室に運んだら達巳も運ばれてきていて、そして保健室の先生が出かけるとの事、誰かが残っていなくてはならないと、ジャンケンの結果絢が残る事になったのだ。

「という事は、今ここに幸天も居るんだよな」

「まぁね。それにしても……二人が体験したってことはやっぱり本当なんでしょうね。達巳が嘘つくときの癖も見せてなかったって言うし」

「うん、一応な。今思い出しても嘘っぽい感は否めないんだけどな」

 信じられないが体験してしまった事実は拭えない。あの全身タイツの感触は今でも精密に覚えているぐらいなのだから。

「でしょう。幸天から少しは聞いたのよ。鶏とダチョウとオカマが同時に生存していたんだものね?」

 いや、生存ではなく、死存だろう。くだらなかったので口にはせず、もう少し意味のある、いや、人生に関わる質問をしてみた。

「なぁ、幸天はどの程度お前らに話したんだ?」

 にやりと、絢が口元を歪ませた。

「聴きたい?」

「いえ、結構です」

「そう? つまらないの」

 本当につまらなそうにため息をついた絢。少し種類の異なるため息を達巳はつき、その場にあった椅子に腰をおろした。

「それにしても、天使でも幽霊で気絶するんだね。アタシ少しびっくりしちゃって」

「上界と霊界は違うんじゃないかな? 幸天の話を聞いてると、別にここの世界と何が変わってるわけでもなさそうだし」

「ま、それはアタシも認めるわ。一般常識とかはこことあまり変わらないみたいだし、しかも日本のこと結構勉強して来たらしくて、傍から見たらただの日本人だし」 

 確かに幸天を見ただけじゃ天上界のことがまったく解からない。今度異文化交流を兼ねて天上界の事を聞いてみるかと思った所で絢が立ち上がった。

「ちょっとお手洗い行って来る」

「いってらっしゃい」

 達巳は手をひらひらと動かし絢を見送ると、まだ時刻を確認していないことに気付いて慌てて時計を見た。

 四時半を少し過ぎた所。今から部活に行くことは可能だろう。絢が戻ってきたら幸天の事を任せて部活に行こう―――。

maria...

 カーテン越しに届いた流暢な発音の声にびくりと反応してしまう。振り返った先は幸天が寝ているであろうベッドだった。しかし、搾り出したような声だったのは何故だろう。

「今の、幸天の声だよな。それに……マリアって誰だ?」

 そう言えば英語の時間、本文を読まされたとき発音が上手くて先生に褒められていた。その時はぼうっとして聴いていたけど、今思えばなぜ幸天は英語を話せたのだろう。日本語の他に英語も勉強していたのだろうか……。

 達巳は立ち上がり、いけないとは思いながらも、幸天のベッドを囲っているカーテンをめくった。

 苦しそうな表情で何かを呟いていた。英語が少々、そして聴きなれない言葉が少々交じりながら。これが天界語なのだろうか。

「幸天……?」

 幸天は天井に向かって手を伸ばしていた。何かに助けを求めるように手を震わせていた。白く細い腕が、何かにすがろうともがいている。掴もうとも掴もうとも逃げていくソレを追いかけ、消えていくことに絶望し。

  まるでソレが儚き夢であるかのように。

 達巳は無意識の内にその手を握り返していた。幸天はその手を握り返し、呟きは消え、やがて表情も穏やかになった。

 咄嗟に取った自分の行動に戸惑いながら、達巳は手を離そうとした。だが全身の力は抜けているはずの幸天の握り返す力が強く、脱出を諦めて、その場に座り込んだ。

 一体なんだったのだろう。単なる悪夢だったのなら、あんな表情を見せるものなのだろうか?

 幸天は今はもう何事も無かったように眠りこけている。くぅと小さな寝息を立てながら、ころんと寝返りを打った。幸天の顔が達巳の方へと向く。

 寝顔が可愛い。不謹慎だとは思いながらも赤面してしまう。

 幸天の顔に髪がかかっていたので、握られていない空いている手でそれを払う。頬に触れた指先から、ほのかな暖かさが伝わってくる。先ほど喘いでいたせいで肌が上気していたが、それでも白い肌は際立つ。クラスの皆は単なる色白としか思っていないだろうが、この白い肌はやはり天使だからなのだろう。先ほど口走っていた聞き覚えの無い言語といい、やはり天使なんだと再確認させられる。

 寝返りをうったせいで制服が少し乱れ、首もとに鉄鎖が見えた。この前は鎖の先に何が付いているのか確認できなかったけど、今はそれが服からこぼれだし確認する事ができる。

 ペンダントの先に付いていたものは十字架の形をしていて、いくつかのダイヤモンドが埋め込まれており、そのクロスした所の中心にピンク色の宝石が埋め込まれていた。名前はピンクトルマリン。オパールと共に十月の誕生石となっているトルマリンのピンク色ものだ。

 ペンダントが高そうなものなので慎重に幸天の近くに寄せておく。きっと大事なものなのだろう。初日もつけていたし、きっと毎日身につけているような気がする。もう一度幸天の顔に視線を戻した。幸天にこのペンダントはよく似合う。自分で買ったのかプレゼントしてもらったのかは知らないが、いいセンスをしていると思う。

 ぼうと寝顔を見つめていて、ふと現実が帰ってきた。

 というか、何をやってるんだおれは。

 慌てて視線を引き離した。それでも目の前にある幸天の寝顔はそのままで、空いている手を自分の心臓に当てた。

 うるさい心臓に黙れと命令して、いまだ握られている手を放そうと試みたその時、静かなる音を立て、絢が帰還した。

 カーテンが開かれた所から絢の視線が中へと注がれる。達巳の視線と遭遇し、絢の思考が一瞬止まった。達巳も動くに動けず、数秒の時が流れ、

「……解かった。見なかったことにしておく。それじゃぁアタシはおいとま……」

「待て! 誤解だって!」

「ここは一階よ」

「使い古したボケを放つな!」

「はぁ、せっかくチャンスあげてるんだから有効活用しなさいよ」

「どういう意味だよ! 違うんだよ、ほら、幸天がおれの手を握って放さないからさ」

 懸命に握られた手を目立たせる。しかし、絢の反応は冷たいものだった。

「どうして幸天のベッドの近くに行ったのよ?」

「そ、それは……幸天の寝言が聞こえて気になって……」

「声が聞こえたからと言って、いたいけな女の子が眠っている所に行く?」

「凄い苦しそうにしてたんだよ。見ているこっちが苦しくなるぐらいにさ」

「それで手を握ってあげたと?」

「……そう言う事になる」

「でもね、幸天の寝顔を凝視している所を見せられちゃね」

「み、見てたの?」

「一瞬だけどね。達巳がじぃっと舐めまわすように見てたものだから印象が強くて」

「な、そんなに見てたつもりは……」

 弁論と言い訳は紙一重だろうが、もう一方的に言い訳になっていることに達巳は気付いていない。

 達巳の言い訳と絢の言及が何度か繰り返されるうちに、うるささで流石の幸天も目を覚ました。

 達巳さんと絢さんの声がして、目をあけると達巳さんがいて、誰かと討論している。きっと相手が絢さんで―――。

 手が握られている事に違和感を覚えながらも、うつろな意識ではそれを理解できなかった。とりあえず挨拶はしなければならないだろうと、幸天は寝ぼけ眼のまま起き上がった。

「いらっしゃいませ」

 討論も止み、時計の針の音だけが響き、握られ繋がっている腕がその場に静かに佇み。

 皆が正常に動き出したのは、一番長く忙しい針が、三十の時を刻んだ後だったとか。

 

 

 

 

  HR

 

     なんやねん! いらっしゃいませって!

     ……ま、こんなもんですよ(よく分からない)

 

 

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   白の裏話。

 

 前回キャラ考察とか書いたけど、これ終わったらネタが尽きてしまうのではないかと心配中。

 とりあえず、達巳と幸天はちょこっとやったので、陽平から〜。

 

 琵琶陽平。

 こいつはパーフェクトで言う隼先タイプ。

 いつもはふざけているけど、真面目な時は凄いカッコよくなるタイプ。こういうキャラ好きで好きで、ほとんどどんな小説にも存在しているヤツですね。ま、絶対主人公にはならないんですけどね(笑)

 でもまぁ、こいつは絢LOVEな所以外は大しておかしな言動を取りません。主人公を大切にしているので苦しめるような事はそこまでしませんので、そこは隼先との違い。

 ……と言う予定。狂いそう……。

 

 裏設定。と言うか設定。

 血液型BO型 身長177cm 体重69キロ 誕生日4月12日 一人称オレ

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