前宵
また、夢を見ていた。黒い夢だった。
闇が支配するその場所で、言葉たちが蠢いていることだけが解かる。
「ごめんね」
その一握りの声は瞬く間に虚の空間に広がってゆく。
いくらその場から逃げ出しても声は影のように付きまとい、耳に不協和音を奏でる。
誰なんだよ。
声は届かない。よどみにかき消されてゆく。
声の主を探しても、見つかるのは絶望だけ。
誰なんだよっ。
「ごめんね」
一層ざわめきが酷くなった。蠢く声は人間の声ではなくなっていた。
色に例えると血のような赤。妙に甲高く、頭に何時までも残る声。
誰なんだよっ!
「ごめんね」
誰なんだ……お願いだ……おれは、おれは――――――――――
また、夢を見ていた。黒い夢だった。
見たくも無い夢を、拘束されて見せられていた。
"You hypocrite(偽善者)!"
言葉が繰り返される。永遠と復唱されて、渦となりわたしを呪縛してゆく。
きつくてきつくて、吐きそうなほど圧迫され、だが押し返しても幾許かも動かない。
違う。
叫びが打ち消される。
四方八方が闇に包まれ、不安だけが押し寄せる。
違うっ。
"You hypocrite!"
違うっ!
ただ混沌の中を彷徨っていた。叫び声はただ闇へと吸い込まれる。
声は、もがくたびに落ちて行く底無し沼へと変わり、自身すら取り込もうとしていた。
"You hypocrite!"
違うの……お願い……わたしは、わたしは――――――――――
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