通し番号2

054.おいしく食べよう。

 

 

 彼の趣味は読書だ。私の趣味は小説を書くことだ。

 足の短いウッドメイドの机に、クリーム色のソファーと大き目の本棚。この部屋にはそれぐらいしか家具が無い。彼はソファーに座って本を読み、私は机に紙を無尽に広げて小説を書く。

 私が書いた小説を彼が読み、そして批評してくれる。その批評は正確で、すべて唸ってしまうほどの的確さ。書いてみればと推薦したら、あっさりと断られた。

「僕は読み専門なんだ」

 そう言うものかと、私はまた新しい作品を作り始める。

 主人公は男の子。雨上がりの道を歩いていたら、水溜りに落ちてしまったというお話。水溜りの中は全くの別世界で、そこで一人の男の子と会い、水溜りの世界からもとの世界に戻るという道筋を立てた。

 なかなかの長編になりそうなので、設定だけをまとめて、ご飯を作ることにした。お冷ご飯がたくさんあったので、チャーハンを作ることにする。

「なお、何のチャーハンがいい?」

「涼子の好きでいいよ」

 何でもいいと言われたから、冷蔵庫にあるものを適当に放り込んでいく。卵にベーコン人参玉葱ピーマン、味付けは醤油。中華なべからいい匂いが立ち込めて、こしょうをまぶしたところで完成。お皿に盛り付けて、なおに机に散らばっている紙をまとめさせて、机に並べた。

「いただきます」

 私が食べ始めた横で、なおは顔をしかめている。なおは大のピーマン嫌い。だからこそわざとチャーハンに入れてある。たまに彼が料理を作ると、私の嫌いなトマト(生も焼きもケチャップも大嫌い)が絶対入っているのだから、おあいこだ。

「なお、早く食べないと冷めちゃうよ?」

「涼子、僕のこと嫌いか?」

「ううん、大好き」

 思い切りハートマークをつけての微笑みに、なおは苦笑した。

「僕のこと大好きなら、ピーマンだけ食べて?」

「いやよん」

 なおには振り向きもせず、ゆっくりと味わいながら自分のチャーハンを口に運ぶ。

 するとなおはすっと立ち上がり、キッチンのほうへと歩き出した。私は気にせずに、自分のチャーハンに入っているピーマンを探り出して、なおのお皿に盛っていく。

 しばらくして、自分のチャーハンにピーマンが無くなったと思った瞬間、ぶちゅぅと小気味いい音が、上方で響いた。

 私のチャーハンが、赤で穢されていく。独特の風味をあたりに広めつつ噴射されていくそれを見ながら、私は絶句していた。

 なおは私のほうを見てにやにやしていた。私のチャーハンが、トマトケチャップで埋め尽くされている。変わりになおのチャーハンはピーマンに覆われているのだけれど。

「涼子、早く食べないと冷めちゃうよ?」

「なお、私のこと嫌い?」

「ううん、大好き」

 お互いにふふふと笑い、暗黙の了解、私たちはチャーハンを入れ替えた。

「いただきます」

「いただきます」

 ピーマンだらけだったから、チャーハンの味は苦かった。こんなことならイタズラしなきゃ良かったよ。

 

 

HR

 全体的に短くします。不思議感たっぷりにお伝えする予定。

 

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